表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大罪人が語る夢  作者: ぬらくらげ
最終章
69/94

第十一話・ひとりぼっち達の再出発


 ガラクタの散らばる暗闇、そんな場所で少年少女が眠っている。

 普段はすました顔の青年も、ゆっくりと胸を上下させていた。


 彼らを見つめながら、孤独のアダムは火の精霊に声をかけた。


「仮想実体なら来れるんだね」


「らしいネ」


 精霊・エラムはふよふよと浮かんで、同じく三人を見守っていた。


(……このかんかク、わたしのきおくもまじったかモ)


 三界二獄はそれぞれ地球、引いては太陽系を監督するために用意されたものだ。

 管理者達が「会議」で集う以外、過度な接触はできないようになっている。


「本来は客を長居させるのは良くないんだけど」


「もーふかけてたくせニ」


「体を冷やすのは良くない」


 呆れた様子のエラムに、悪魔は静かに語りかけた。


「名前を変えていたから、出会った時は驚いたな」


「こっちのせりふだヨ? しりあいがおんなのこになってたきもちわかル?」


「そ、それは事情があったんだよ!」


 彼女は返事の代わりに肩をすくめた。


 エラムとエムザラは完全な同一人物ではない。

 彼女は愛した彼のように、永眠したのだから、彼女の名前を使うのは不自然だ。

 そう精霊王は呟いた。


「……うん、そうだね」


 アダムは黒髪の少年を見下ろす。

 ――魂が同じであっても、生き方が違えば別人だ。


 無防備によだれを垂らしている少年は、決して赤髪の青年ではない。


 ぴくりと細い指先が震える。

 眉間にしわを寄せて、シオンはゆっくりと瞳を覗かせた。


「起きたか」


 どこかわざとらしい冷たさを装って、孤独のアダムが声をかける。


「アダム……あんたの記憶を見た」


「それが、私の懺悔だ」


 じっと目を合わせ、少年の瞳に黒衣が写る。

 その色を薄めるように、彼は涙を滲ませた。


 驚いたように手を伸ばす悪魔を前にして、シオンは大粒の涙を零した。


(俺が泣いたところで、あの日のアダムは救えねぇ……)


 戸惑うアダムに、目をこすった少年が口を開いた。


「聞きたいことがあるんだ」


 珍しく不安そうな表情で、シオンは言葉を続ける。


「俺達との旅は、時間は、罪悪感に苛まれるだけの――辛いものだったのか?」


 孤独の悪魔はぴたりと静止する。

 後悔が、自責が、胸をよぎらぬ夜があったと言えば嘘になるだろう。


 しかし幼き友との旅路は、どうかもう少し、もう少しだけと願うほど、


「そんなわけないッ!!」


 ――素晴らしいものだった。


 よほど力を込めたのか、アダムは肩で息をする。

 それを見ながら、少年はにかっと笑った。


「なら、良かった」



 血の滲んだ包帯に手を伸ばして、シオンは苦しげにうつむいた。

 依然痛みを主張する腕に、アダムも目を落とした。


 敷かれた沈黙の中、精霊の火の粉だけが鳴る。


「アダムはさ、子供達が好きなんだな」


「勿論だ」


「……『父親』のことは、俺にはわからねぇ」


 シオンは躊躇いながらも、拙い言葉を続けた。


「でも、他の悪魔達とか、色んな人を見てて思ったんだ」



「彼らを、今ここにいる彼らとして見てたか? 申し訳なさで濁らせてはいないか?」


 アダムは己の自責を、背負ってきた全てをぶつけてきた。

 だからこそ少年も、相棒として、全力で向かい合うと決めた。


 そのためにここまで来たのだと、月のような瞳が刺さる。


「わた、しは……」


 戸惑いながら悪魔は黙り込む。

 果たして今の子らと本音を伝え合ったことがあっただろうか。


 迷う手を優しく少年が包んだ。


「確かめるのが怖いなら側にいる。俺の勝手な意見だけど、伝えられる時に言った方が良いぞ。旅の誘いはその後でもできるからな!」


 孤独の悪魔は無言で、小さく頷いた。

 重たかった足元がほんの少し、軽くなったような気がした。



「にぅ……」


「ん、何これ……毛布?」


 背後で起き上がったアニタとオリバーに、シオンは満面の笑みを浮かべる。


「行こう!」


 まっすぐな少年の声に、二人は思わず苦笑した。




 瞬きの内にーー彼らは会議場に移動した。

 影の退いた先には、十二の悪魔が勢揃いしていた。


 それはアダムも予想外だったのか、一拍置いて「どうしたんだ皆」と呟く。


 強欲の悪魔がその疑問に応えた。


「いやね、父上ーー父さんが、また旅に出るならどうするって話をしてたんだよ」


「私が?」


「肉があると……便利……じゃん……?」


「用意してみたんですよ。私達で」


 卓上には人型のぬいぐるみが置かれている。


 孤独の目には、そこに詰まっている様々な魔力が写った。

 この場にいる全員が加担しなければ無理な量だ。


「お土産たっくさんお願いしますぅ」


「たまには連絡くださいね。覗き見はしないようにしますから」


「やはりもう少し装飾を凝った方が良かったのでは?」


 どこか楽しそうに、彼らはあれやこれやと疑似実体をいじっている。

 呆気に取られているアダムの脇を、シオンが軽く小突いた。


 少年に背中を押されて、彼は腹に溜まっていた思いを吐き出した。


「……ずっと、謝りたかった」



「守れなかった、その上、孤独に負けてこの世界の歯車にしてしまった……本当に、すまない」



 悪魔達は差こそあれ、皆一様に戸惑いをあらわにした。

 暴食が口を開く。


「父さんは、勝手だ」


「ぅぐぅっ」


「勝手に、背負わないでくれ」



 魂が同じであっても、生き方が違えば別人。

 それは記憶を継いでいても同じこと。


 それでも、悪魔達は家族になることを選んだ。

 アダムを父と慕うことを、自らの意思で決めた。


 ただ、それだけのことだった。



「マスター」


「おん?」


 不意に、シオンは強欲に手招かれる。

 赤肌の悪魔は子供のように微笑んだ。


「ありがとな」


「特に何かしたわけじゃねぇが……どういたしまして?」


「いやね、ここまでやってくれるたぁ思ってなくてよ」


 悪魔はふと少年に耳打ちをした。

 静かな声音が囁く。


「ーー他にどの手段も見つからない時、そのナイフでお前が『一番変えたいもの』を刺すと良い」


 シオンの目が見開かれるのと同時に、仲間達が彼を呼ぶ声がする。




 黒い門が徐々に開いていく。冷気が隙間から流れ込んで来た。

 アダムはそっと振り返り、


「いってきます」


 あの日言えなかった言葉をこぼした。


 ぱちくりと瞬いて、ある者は泣きそうな顔で、ある者は笑顔で、ある者は呆れた表情で返事をする。


『いってらっしゃい!』


 一人の父親は泣きそうに笑って、今度こそ前を向いた。

 進むばかりで滞っていた時間は、今ようやく動き出したのだ。



 解けるように形を変えて、彼は見覚えのある「彼女」へと変貌する。


「大人じゃなくて、そっちで良いのか?」


「姿として慣れてるのよ。数年の付き合いだし。扱いもこれまでと同じで良いわ」


「そっか!」


 速やかな納得の後、シオン達は彼女の――ヴィーの手を引く。


「本当は色々と土産話があったんだけどさ」


「うん?」


「ご飯でも食べながら話すよ」



 少年少女は暗闇の中を、一歩一歩踏みしめた。

 並んで進んだ先からは、淡い一筋の光が差していた。




 出口を抜けたそこは植物園のようだった。

 花々の間を、花弁によく似た炎が舞っている。

 彼らは小さな木箱の周囲に横たわっていた。


 慎重に体を起こすと、衣擦れの音が聞こえて来た。

 シオンとオリバーがそちらを向き、アニタがヴィーの手で起こされた直後、その人物は姿を見せた。



 長い金髪を揺らして、一人の女性が見下ろしている。


 緑色の炎が散る中で、先の尖った耳が覗いた。


「あら、もうご到着?」


 どこか楽しげでからかいを含んだ声。

 呆気に取られた四人は、それぞれ口を開いた。


「ふぇっ」


「だっ」



『――……誰?』




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ