幕間・機構に刻まれた感情
粉雪のように塵は水晶を覆った。
温度の無い残滓から、生々しい鼓動が響く。
辺りを見渡す仕草をするが、紫紺の瞳には闇しか写らない。
しかし、それが伸ばした手のひらは何かに触れた。
何かは同じように頬を撫で返す。
柔らかく肌になじむ振動。
その時、紫水晶と蒼玉は、初めて互いを知覚した。
彼らは肩を寄せ合って過ごした。
時折気まぐれに殺し合い、本体である宝石が砕けない限り、自分達がいずれ再生すると理解した。
幾百年、幾千年と流れる内に彼らは言葉を覚え、
『姉さん』『愚弟』
生まれた順番は知らないが、どちらともなくそう呼び始めた。
隣にあることが当然で、それ以上を求めはしなかった。
やがて同類がその空間を訪れ始めた。
曰く、一度肉体を得た者が、亡くなった後に集められているらしい。
姉弟は彼らの統治者となり、己の技術を磨かせた。
壊す方法を学ばせた。
それ以外、天使達は知らなかったのだ。
しかし、変化は突然訪れる。
共に眠りを味わっていると、彼らのいた空間が、突如として階段に姿を変えた。
貝殻のような音を立てる階段を、姉弟は手を繋いで上がっていく。
彼らは螺旋階段の塔に足を踏み込んだ。
その頂上には様々な景色の写る部屋があった。
ぐるりと見渡したその瞬間ーーぼたりと何かが地面に落ちた。
紫水晶の天使が見下ろす先で、青い瞳は機能を停止している。
「……姉さん?」
体から離れた言葉に返事はなく、蒼玉の天使は唐突に彼の元から消えた。
繋いだままの手はひどく頼りなかった。
地上で肉を得た同胞の中に、唯一の片割れの姿は無い。
肉として死んだ者は、天界で浄化された魂の管理をするため、二度目の生を送っている。
しかしその中にも蒼玉を知る者はいなかった。
天使長として天界の管理を任された彼――ルシファーは、諦めずに彼女を探し続けていた。
天界、精霊界、神界、煉獄、地獄。
そして地球に張り巡らされた糸を辿る。
それぞれの仕事を妨げないよう、観察以上のことはできないが、彼はただ光の糸の震えを待った。
ある日、いつも通り業務後に彼女を探していると、小指に巻き付けた糸が微かに震えた。
半身に触れた時と同じ振動。
思わずルシファーは涙をこぼした。
小粒の水晶が床を転がる。
『っ、ぁ、やっと、やっと会えるよ……姉さん』
震えの先にいるだろう命の誕生に、彼は初めて創造主に感謝した。
三界二獄が揃い、新世界はその歩みを始めた。
下地となった古き世界のことを置き去りに。




