第八話・保護者様のご登場
またまた小話
ピアノの鍵盤の上で、黒い斑模様の猫があくびをした。
ぴくっと髭を震わせて顔を向けた先では、小さな影が走っていた。
現れた赤毛の少女は、お椀に水を注ぎ猫に差し出す。
明るい声を出して、猫は水をぺちゃぺちゃと飲んだ。
モスグリーンのメイド服を翻し、彼女はぱたぱたと掃除へ向かう。
不意に、壁にかけられた鈴が大きく揺れた。
それを目にし、少女が慌ただしく走っていくと、窓辺には伝書鳩が留まっていた。
慣れた手つきで捕まえ、外にある小屋に帰してやる。
鳩の足にある筒を回収し手紙を取り出す。
そして送り主の名前を見て、メイドの少女は嬉しそうに駆け出した。
コンコンと扉をノックする。主人の寝室にには、未成年である彼女は入れてもらえない。
部屋の中では、寝台に腰掛けてエプロンをつけていたメイドが立ち上がった。
屏風で内部を隠して、彼女は扉を開けた。
華奢な指を空中で滑らせる。
「おはよう。お手紙?」
『うん!』
少女は手紙を渡すと、手を大きく動かした。
『ご主人様寝てる?』
「さっき起きたところ。朝ご飯にしようね」
『やった!』
満面の笑みを咲かせ、赤毛の少女はリビングに向かった。
室内から出てきた朝食担当のメイドが後を追う。
手紙を受け取った女性は室内を振り返った。
「『現在北のウォレス領。五月中旬にはそちらに伺います。他に旅の仲間が同行しますが、食事は済ませてから向かう予定です。 バゼット・レーウェン様へ。馬鹿弟子より……追伸・アニタは元気です』と、シオンぼっちゃんからですね」
「あァ? じゃあなんだ、そろそろ来んのか」
寝台に横になっていた大男が体を起こす。
その脇では執事がワインを注ぎ、主人にグラスを差し出した。
先代皇帝・バゼットはグラスを傾け、にやりと口元を吊り上げた。
「自分に関する報告は無したァ、俺の一番弟子は相変わらずみてェだなァ。少しは成長したかどうか、楽しみじゃねェか」




