二章エピローグ・今だからできる答え合わせ
黒髪の少年は書斎で次々に論文や手記を写していた。
読み書きが苦手なオリバーは重たい資料を運んでいる。
先ほど歴代マスターの情報を置いて煉獄へと発った悪魔曰く、彼らが屋敷から出た瞬間、内部は元の状態に戻るそうだ。
それも流石に一度きりらしく、シオンは必死にアルベルトの人となりを証明する資料を製作している。
「二人共、お茶淹れましたよ。あと軽食代わりのスープです」
「ありがとう」
「少し休憩するか」
絨毯の上に座って、アニタは不思議そうに口を開いた。
「それにしても、クリスタンさんは、どうしてあんなに怒ってたんでしょう」
「おーん、こればっかりはあっち側の事情がわからねぇとな」
「権力絡みじゃないの? あ、このスープ美味しいね」
「本当だ。めっちゃ美味い!」
「良かったぁ。おかわりもありますよ」
ベーコンと卵を噛み締めながら、少年は黙々と考えた。
いくら時代的に排斥されやすい立場であったとはいえ、七選帝侯相手に権力闘争をふっかけるのは無謀である。
だとすれば、他にも理由があったと見るのが妥当だろう。
食後にシオンは一冊のファイルを発見した。
「おっ、子供達の出身地や引き取った場所が書いてある。これは……地図に書いておいた方がわかりやすいか?」
「地図いる? 書き込んでもいいよ。なんか持ってたやつだから」
「ありがとなオリバー!」
花が咲くような笑みで地図を広げ、少年はファイル片手に印をつけていく。
名前等の情報は後から足すつもりのようだ。
そこら中にバツ印の書かれた地図を見下ろして、彼は不意に肩を跳ね上げた。
「——ホイストン工業地帯」
「え?」
少女の疑問符に返答はせず、シオンは論文の山を漁り始める。
「無い……どこにも! やっぱり!」
「急にどうしたのさ」
不可解そうに眉を寄せる二人に、振り向く余裕も無くシオンは応える。
「理由がわかったかもしれねぇ」
つらつらと、話しながら整理するように、確かめるように言葉がこぼれる。
「あれだけの学者だ。気づいたんだろ。障害を持って生まれる子供達と、工業排水が関連している可能性を」
彼はバツ印の密集した川沿いを指でなぞる。
「……だからその主張を世に出される前に、当時のホイストン家はアルベルトを貴族界から消そうとしたんだ」
少年の発言を肯定するかのように、一階の骸骨がカタカタと揺れ、床に落ちてひび割れた。
一方その頃空港では、北島に着いた定期連絡線から、号外のチラシが大量に撒かれていた。
——『二ヶ月後、帝都の宮殿にて、皇帝と七選帝侯による定例会議が行われる』
二章了。




