一章エピローグ・決断の果てに(下)
少年の気道を確保しながら、ヴィーは言い聞かせるように繰り返す。
「死なせない……絶対に死なせない」
司祭に事情を聞き、彼女は教会内を必死に探しまわった。
見つけた瞬間、柄にも無く指先まで冷え切った思いがした。
横たわる彼の姿にかつて見た死が重なったのだ。
シオンの腹には依然として深々と突き刺さるナイフが光る。
そこで、ヴィーはある決心をした。
礼拝堂の長椅子に一人の男が横になっている。
先ほどの暗殺者だ。
彼はアン司祭によって応急手当を施されているところだった。
近くで見張っていた魔術人形が、不意に廊下へ顔を向けた。
その視線の先には桃色の髪の少女が立っている。
彼女は胸元を握りしめながら、厳しい表情でこちらに近寄って来る。
「ヴィーさん、彼は?」
「見つけて手当てをしたところです。あとで友人が二人で迎えに来るので、そっとしておいてあげてください」
「わかりました」
嬉しそうに安堵する青年の前から、少女は一向に動かない。
流石に不思議そうに首を傾げる司祭に、彼女はうやうやしく頭を下げ口を開いた。
「今回の件で、けじめを付けに来ました」
「けじめ、ですか」
「はい」
どこか穏やかな表情の中、ヴィーは唇を動かす。
覚悟ならば先ほど決めた。
「…………善良な魂を。誰が愛すのだろう。愚かな大罪人を」
影から現れた黒いマントとペストマスクを身につけ、彼女は、否——
「我が名は——孤独の悪魔・アダム」
——彼女の肉を被った原初の悪魔はそう叫んだ。
一章了。




