第十七話・ここではないどこかで
「…………あら?」
気がつくとそこは知らない空間だった。
彼女が周りを見渡すも人気は無く、直感に突き動かされて進んでみる。
やがて真っ白な道の先に階段だけが見えた。
その階段の脇に、一人の青年がいた。
「——アルト」
忘れかけても、脳裏から消えることは無かったその姿そのままに。
かつてよりも優しい笑顔で彼は口を開いた。
「どうだろう。上手になってる? 練習してたんだ」
謝りたいことがたくさんあった。
それでも、いざ前にして出てきたのはたった一言。
「ナッキ!」
彼の名前だけだった。
飛びついて強引に抱きつくと少し低い体温が伝わった。
幼い頃と寸分違わぬそれに彼女の視界が滲んだ。
「……私がここに来なかったら、どうしたのよ」
「君は来るよ。現に来た」
嬉しそうな声音から一転して、青年は口にした。
「あの時、怖い思いをさせてごめん」
ずっと言えないままに何度も脳内で転がしてきた言葉。
アルトは首を横に振り、彼の顔を見上げた。
「いいの。それよりも、話したいことがたくさんあるの。ナッキ、聞いてくれる?」
「ご命令で無くとも、喜んで」
二人は互いに手を握って、ようやく階段の一段目に足をかけた。
その顔には後悔のかけらも無かった。




