第十六話・ウィスタリアと亡霊
「おお! でかいな!」
赤いバンダナの少年が目を輝かせる。
その視線の先には規則的に組まれた城壁があった。
「これは圧巻ね」
シオンの正面でヴィーが感心した声を出した。
「僕もここまでのは見たことないな」
「オリバーさんもあの国には行ったこと無いんですか?」
「うん、興味なかったから」
オリバーの正面でアニタが相槌を打つ。
不意に彼ら四人を乗せた小舟ががくんと揺れた。
幸いにも荷物が水掘りに落ちることは無かったが、少年の腕に少女がぶつかってきた。
「おっと、大丈夫かアニタ?」
「うん。支えてくれてありがとう」
「どういたしまして」
押し付けられて形を変えていた少女の双丘が離れていく。
シオンは思わず自分の二の腕をさすった。
その耳は可哀想なほど赤く染まっている。
桃髪の少女が生ぬるい目で見守っていると、舟が城壁にたどり着いた。
これまた大きな扉には、荘厳な藤の花が彫り込まれている。
小国ウィスタリア。
帝国の領地内で唯一自治を認められている国家である。
戦乱の後、長らく貿易以外は閉じ切っていたためか、未だに古い慣習や信仰が根強く残っている。
それは街並みを一目見ればすぐにわかることだろう。
四人は城壁をくぐり、明るい声に満ち溢れた市場に足を踏み入れた。
そのすぐ先には丸みを帯びた住宅が立ち並んでいる。
「あの住居は……全部岩の内部を削ってるのか」
奥まった場所にあるウィスタリア城だけは、切り出した石で作られているようだ。
「この前通ったところとは全然似てないわね……」
「あっ、シオン、ヴィーさん、あっちにお食事どころがあったよ」
「まじで!?」
国民で賑わう食堂には柑橘系の匂いが充満していた。
どうやらメニューの品数はそう多くはないようだ。
壁に貼られた本日の料理から指差して選ぶ。
「食べたらどこに行くんだい?」
「城は門までなら解放されてるみたいだ。行っておきてぇな」
「お待たせしました」
「お、来た来た」
でんぷんを蒸し焼きにしたパンのような主食に、専用のソース、唐辛子のきいた煮豚が置かれる。
ソースは煮豚の煮汁を濃く味付けし直した物と、何かの果実を絞った赤い物の二種類。
『いただきます!』
少年は焼きたての生地をちぎり、そろそろと赤いソースに浸した。
慎重に口へと運び数回咀嚼する。
「…………美味い、けど」
『けど?』
「すっぺえ」
キュッとすぼまった顔にヴィーが吹き出し、アニタがくすくすと笑った。
街中では他国から来た商人の姿も見受けられる。
医療団体ファントムのテントでは、最新式の義肢の見本が展示されていた。
一行は城門へと道草を食いながら進んだ。
ハーブティーの試飲。
染め物が充実した布屋。
岩絵の具の実演販売。
周囲に散りばめられたどこか物珍しい意匠に惹かれながら、のんびりと探索を続ける。
ふと、路地裏からすすり泣きが聞こえて来た。
シオンがそちらを覗き見ると、小さな人影が肩を震わせている。
そっと近づき声をかけようとした時、彼の全身に悪寒が走った。
目の前の何かは危険だと直感が告げる。
しかし少年が逃げる隙も無く、童女の姿をした半透明なそれが振り返った。
額の皮膚を裂いて伸びる角、儚げな雪色の肌、強い感情を煮詰めた瞳を持つ何か。
それは不思議そうに口を開き、
「シオン?」
——一瞬の内に姿を消した。
背後でアニタが不安そうにしている。
唐突にシオンが路地裏で立ち竦んだのだから無理もない。
「……なんでもないぞ」
そう言って少年はにぱっと笑った。
何よりも大切な少女を安心させるために。
再び城門へと向かいながら彼は考える。
先ほどの存在は一般的に言われる悪霊とは違った。
シオンは俗に言うところの霊感があるが、見えやすい環境が偶然整うとしっかり見えてしまう程度で、普段は何となくいそうなのがわかるだけだ。
平常時でもはっきりと目に写るのは、他人の守護霊の一部や危険な悪霊ぐらいだ。
関わってはいけないと本能が警鐘を鳴らしたということは、後一歩間違えれば悪霊化する何かである可能性が高い。
他三名の安全を考えればこれ以上接触するべきでは無い。
それでもシオンは、あの亡霊の目に滲む悲哀が忘れられずにいた。
夕方になって、少年少女はようやくウィスタリア城にたどり着いた。
この時間になっても多くの観光客で賑わっている。
城門のアーチにはとある大きな壁画がある。
描かれている人物はアルト・ヴォルガ・ウィスタリア。
小国ウィスタリアの自治を守り抜いた大英雄であり、帝国の歴史上唯一の敗北相手。
また歴史上初めて『人権』という言葉を国法に使った国王でもある。
藤の花のレリーフで飾られた彼女は、その口元に堂々たる微笑みを浮かべていた。
シオンは夢中で手帳に壁画のスケッチをしている。
人酔いしたらしいアニタの背中をヴィーが撫でていると、砂を押し固める音が聞こえてきた。
どうやら兵士が門の近くで小さな穴を埋めているようだ。
少女が首を傾げると、オリバーが思い出したように口を開いた。
「最近、夜間に城壁の四隅に穴が掘られるんだって。誰かのいたずらだろうけど、その誰かがわからないままで色々憶測を呼んでるみたい」
「へぇ……ねぇオリバー、それ誰からどうやって聞いたの?」
「さっきあった女性に、ちょっとね」
「また笑顔でごまかそうとする……」
なんでも本当にただの穴で、落とし穴のような細工もされていないらしい。
しかし毎回全く同じ場所で行われており、意図があるのか無いのかもわからないのだとか。
「面白そうだな!」
いつから話を聞いていたのか、シオンが二人の間に顔を覗かせた。
「面白そうって、捕まえるとか言わないわよね?」
「捕まえはしないが、誰がやってるのか単純に気になるだろ? 城壁の四隅を回るだけでもかなり移動距離はあって手間だぞ?」
「でも……見つけるには、夜ここにいなきゃだよ?」
「見回りの兵士に見つかりそうだねぇ」
「大丈夫! 誰がやってるか知りたいだけだから……」
三人だけに聞こえるよう、シオンが声量を抑える。
その内容にオリバーは興味なさそうに生返事をし、アニタは手伝いを申し出、ヴィーはまた妙なことになるとため息を吐いた。
「いやー、歩き回ったかいがあった」
「あなたの好奇心の強さには感服するわ」
「へへへ」
「……呆れてるのよ?」
「え」
ちょうど壁画近くの城門が見える高さのバルコニーで、シオンとヴィーは双眼鏡を構えている。
街を練り歩く中で少年が密かに見つけていた宿屋だ。
「せっかくだから夜の城も見たくてな〜。晴れて良かったぞ」
嬉しそうに笑うその隣で、ヴィーが眉根を寄せた。
「何あれ……角?」
それを聞いてシオンは即座に双眼鏡を覗く。
城壁の上で月明かりに照らされる影。
それは昼間に彼が会った、あの亡霊だった。
少女は辺りを見渡してふわふわと着地すると、おもむろに手にしていたスコップを振り上げた。
黙々と穴を掘る様子に、思わず二人は黙り込んだ。
不意に幼女が頰を膨らませる。
掻き出した砂を、女王の壁画にべちゃっと投げつけた。
何度か砂を投げると気が済んだのか、彼女は再び穴を掘り始めた。
アーチの壁画からパラパラと砂粒が落ちる。
「掘ってるな」
「掘ってるわね」
「……あれ? なあヴィー、あの子のこと見えてるのか?」
「ええ。化粧ってわけじゃなさそうね」
「ほーん」
ある一定の環境下でのみ生者の目に映る死者もいる。
今回もそういうことだろうと、シオンが観察に戻った時、
「おん?」
見回りをしている衛兵が少女を直視し、驚きからか燭台を落とした。
笛を吹こうとするその兵士に対して、童女は小さく口を動かす。
笛の音は鳴らなかった。
亡霊がなんと言ったのか、シオン達にはわからない。
衛兵は灯りを持ち上げ、ふらふらと歩き始めた。
傍で幼女が地面にスコップを突き立てる。
幼女の黄色の服が夜風に揺れ、それを見たシオンがぽつりと呟いた。
「思い出した」
「え? なんか言った?」
応える代わりにシオンの口角がつり上がる。
彼の生来の目つきの悪さも相まって、中々の威圧感を放っている。
見覚えのあるその表情にヴィーは肩をすくめた。
そんな彼女の態度に気がつくことなく、少年は思考を巡らせていた。
翌日、朝食もそこそこに少年は図書館へと走った。
すぐにでも調べ出したい情報があったのだ。
朝一番に突然現れた観光客に対し、司書は丁寧に対応した。
もっとも、彼の質問には少なからず驚いていたようだが。
普段はまず人の訪れない棚の間で、シオンは真剣な表情で書物に目を通していく。
棚を移動し、少しずつ奥へと進んで行った。
そして太陽も傾き始めた昼過ぎ、
「よっっっしゃ」
小声で歓声を上げ、少年は指先でとある一文をなぞった。
そこには一人の奴隷の処刑記録があった。
「あ、シオン戻ったんだね。お昼机の上にあるよ」
「おん、ありがとうなアニタ!」
「夕飯は外で食べるんだけど、シオンは何食べたい? ヴィーさんとお店探しとくよ」
「あー……すまん! 夕飯も俺抜きで頼む」
「え?」
ぱちくりと瞬くアニタに、シオンは明るく笑いかけた。
「ちょっくら幽霊に会ってくるわ」
わずかな灯りで照らされた城壁の影で、黒髪の少年は好機を探っていた。
見回りの足が途切れる一瞬の隙に、亡霊は城壁から舞い落ちた。
手には昨日と変わらずスコップを握りしめている。
極力静かにシオンは姿を見せた。
顔を上げた少女は、初めて見た時と同じ苦しげな顔をしていた。
その口が何か言葉を紡ぐ前に、少年が先手を打つ。
「——彼は見つかりそうか?」
亡霊は目を見開いた。スコップを持つ手がかすかに緩む。
「……彼って?」
背後にいたヴィーがこっそりと尋ねた。
結局見かねて三人共シオンについて来たのだ。
「彼女の着てる黄色の服は、被差別者が見せしめの意味で着せられた物だ。図書館にある処刑記録と異端審問記録の中から、城壁の周辺と関係してそうなのを探った」
シオンは手にしていた写しを掲げる。
「その中にある奴隷の青年がいた。当時の王、アルト・ヴォルガ・ウィスタリアに対し、暗殺事件を企てた罪で死刑になって、四つに裂かれた遺体が城壁の四隅で晒し者になった」
『……しってるの?』
少女はすがるような弱々しい声音で続ける。
『かれが、どこにうめられたか』
「……」
『おしえて、かれのからだはどこ? せめて、せめてちゃんとおはかをつくってあげたいの』
「これは、四百年前の出来事だ。位置は曖昧な記述でわからない」
『よん、ひゃく?』
態度を和らげ、シオンは屈んで少女と目を合わせる。
「君は彼の友達だったのか?」
『……わからない』
彼女は顔をしかめて俯いた。
『ただ、彼の名前を知っているのはもう私だけだから』
打って変わってはっきりした言葉とともに、その不鮮明な姿がぼやけていく。
歪んだ角が砕け散ると、亡霊はもはや幼い少女では無かった。
『私しか、彼を悼めないの』
憂いを帯びた雰囲気は異なるものの、その姿は背後の壁画そのままだった。
「アルト王……」
『アルト? ……そう、そうね。それが私』
彼女はどこか自嘲する笑みを浮かべた。
薄汚れた服装は消え失せ、生前着ていたのであろう豪奢な衣服に身を包んでいる。
「壁画の女の人だ」
呆気にとられ呟く少女に女王は穏やかに微笑む。
『本当に私は過去の存在なのね』
半透明な裾を翻し、アルトはシオンに静々と頭を下げた。
「ん!?」
『私を正気に戻してくれてありがとう』
「い、いや、俺は自分の好奇心に従ったまでで、その、礼なんていい」
『そういうわけにはいかないわ。今の私には、お礼に渡せる物さえ無いのだから』
「……じゃあ、彼のことを聞かせて欲しい」
「彼のことを?」
「俺の夢は、今まで歴史書に記されなかった人々が生きた証を、この世の果てまで届かせることだ。今は難しくても絶対にやり遂げる。だから、あんたの生きた世界を教えてくれ」
アルトはしばし沈黙した後、そっと指先で口元を抑えた。
込み上げる笑いと涙の両方をこらえるために。
そうして彼女は語り始めた。
とある処刑の日の真実を。
× × ×
——四百年前、小国ウィスタリア。
「ナッキ!」
豪奢な装いの女性が、一人の青年に話しかける。
彼は無表情のまま洗い物から顔を上げた。
「……どうかなさいましたか。姫様」
「南部から行商人が来たの! 見に行きたいからお伴してちょうだい!」
「ご命令とあらば」
立ち上がろうとしたその肩を制止し、
「ああ、お仕事終わってからで大丈夫よ」
天真爛漫な笑みで、彼女は続けた。
「私も手伝おうかしら?」
「手間が増えるのでやめてください」
「ぐ、ぐぬぬぬ……」
仕方無くその女性、王女アルトは近くの窓枠に腰掛けた。
王族とその奴隷という間柄にしては、二人は気さくな態度で接している。
ナッキは親の借金返済のために奴隷となった身で、借金さえ返せばその身分からは解放される。
そのため現時点でも最低限の財産の所有は認められており、彼は城の中では使用人の一人として扱われているのだ。
「姫様」
「うん? なぁに?」
「欲しがってた帝王学の本、あるといいですね」
「ええ、また一緒に読もうね」
「楽しみです」
「……全然楽しそうな顔に見えないわ」
ナッキは彼女の側仕えとして、幼い頃から共に過ごしてきた。
それを抜きにしても、正直者で有能な彼のことを、アルトは純粋に好ましく思い信頼している。
しかし、二人のこうした関係に反感を持つ者もいた。
その最たる人物が当代の王の弟、つまりはアルトの伯父だ。
王族の振る舞いとしては正しく無いと、彼女は何度も指摘を受けている。
数年後、父王の戦死に伴って、その遺言に従いアルトは王位についた。
緊張と恐怖で押し潰されながら戴冠式を終えた夜、彼女はナッキを呼び出した。
これからの施策について、信頼できる者に相談したかったのだ。
しかしそれが何よりの間違いだった。
薄ぼんやりした室内にいつもの女中の声が響く。
「ナッキをお連れしました」
「ありがとう……こんな夜更けにごめんなさい」
彼女は思わず肩の力を抜き溜め息を吐いた。
すると、ナッキが寝台に座る自分の手を握ってきた。
普段なら絶対にしない行動に戸惑ってそちらを見ると、彼が刃物を振り上げているのが見えた。
すぐに兵士に取り押さえられ、青年は連れていかれた。
アルトは混乱のあまり塞ぎ込み、気が付いた時には暗殺犯ナッキの処刑が伯父によって決められていた。
「どうして?」
檻の中に向けて彼女は尋ねる。
肝心の青年はいつも通りの無表情だ。
質問の意味をわかっているだろうにわざと無視して、彼は繰り返す。
「僕が死んだら、僕の財産は主人である君の物だ。好きにしてくれ」
何度かそうした問答を繰り返し、とうとうアルトは諦めた。
「大切な友だと思ってた」
最後と決めた日に一言だけ、そう言い残して背中を向けた。
「……僕もだよ」
そう聞こえたような気がしたのは、己の傲慢からだろうか。
死刑執行の朝は、ぽつぽつと雨が降っていた。アルトは城のバルコニーかなその様子を見ていた。
ナッキはそれに気が付いて、精一杯口元を持ち上げた。頰がぴくぴくとひきつる。
到底笑顔には見えないそれを彼は彼女に手向けた。
刑が執行された後の広場から群衆が消える。
それを見下ろす一人の女だけが、温度の感じられない表情で雨に打たれていた。
ナッキの家財が部屋から運び出される時、アルトはある物を見つけた。
二人で読んだ本に挟まれた二通の手紙。
一つは伯父による女王の暗殺の指示と、成功した場合の報酬に関する文書。
そしてもう一つは、伯父が帝国と密通している膨大な証拠を、青年がかき集めた物だった。
× × ×
『……その後はもう必死だったわ。どうしても、彼の死を……彼を救えなかった自分を許せなかった。だから無意味にはしたくなかったの』
「うっ、ひんぅっ、えぅぅ」
「はい、ハンカチ使いなさいアニタ……ぐす」
『あ、あら、どうしたの? お嬢さん方』
「……この雰囲気の中すごい聞きづらいんだが、質問いいか?」
『ええ、なぁに?』
「自分が死ぬ間際のこととか覚えてるか?」
『それはちょっと……ごめんなさい。あの幼い頃の姿になるまでもよく覚えてないのよね』
「忘れたならしょうがねぇよ。じゃあ、衛兵に見つかった時、どうやって切り抜けたんだ?」
『あれは、なぜかはわからないけど、私の命令は国民を洗脳できるみたいなの。一度命令した人にはもう一度する必要は無い……らしいわ』
「へぇ……」
不意にヴィーがまだ震えている手を掲げる。
「女王陛下、今日はもう一緒に騒ぎましょう」
「わたしお料理用意しまぶ……気持ちだけになっちゃうけろ……」
「みんな未成年だからお酒は飲めないけど、つまみになる話は山ほどありますから」
『い、いいの?』
掴めるはずもない幽霊の手を握りしめながら、少女達はこくこくと頷いた。
「……お話終わった?」
「おうオリバー。なんか二次会やるっぽいぞ」
「え、女子会?」
「えらむもさんカ?」
「エラムは女子じゃないでしょ」
「ががーン」
くつくつと笑い声を漏らしつつ、シオンは首を傾げた。
「それにしても、強い執着心から穴を掘れていたのはまだわかるけど、国民に命令できるってのはどういうことだろうな」
「さあね」
オリバーは知っていた。
先ほどエラムが「精霊の気配」を指摘していたことを。
おそらくアルトには精霊使いの才能があり、死後勝手に契約され、勝手に恩恵を与えられたのだろう。
精霊という高次元の存在は、それぐらい無責任で気まぐれだ。
しかしオリバーにはそれを言う義務は無い。
説明するのも面倒なため、彼は黙っておくことにした。
かくして、徹夜のどんちゃん騒ぎが始まった。
宿に戻るとまずアニタが当時の食事を再現し始めた。
続いてヴィーとシオンは、生まれてから一度もこの国を出たことがない亡霊への、精一杯の贈り物として様々な地域を紹介した。
オリバーもエラムと共に炎の芸を披露する。
四人が楽しげに語らうのを見ながら、アルトは密かに頰を緩め、それらを自身の遠い日の思い出に重ねた。
次の日の早朝、珍しく一番最初に起きたのはシオンだった。
彼は目の前に広がる光景に思わず瞬きをし、そして、弾けんばかりの笑みを浮かべた。
バルコニーの床一面には、季節外れな藤の花弁が散らばっていた。




