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第九話 おやつは一人三皿まで



 時間は少しばかり遡る。


 カロニア町で出会った暴食の悪魔が、煉獄に帰り着いた時のこと。


 彼は無事に、自身の部屋に戻って来ていた。

 懐かしく穏やかな水中から彼は水面へと泳ぐ。

 軽い水音を立てて、暴食は人工の池から顔を出した。

 ひたひたと自室の扉まで歩いていく。


 扉を開けると白で統一された調度品や十二人分の椅子が並ぶ長机がある。


 最も、今そこに座っているのは一人だけのようだが。


「よう、アクルト」


「ドゥジェンか、久しいな」


 濡れた体は地面を覆う絨毯を踏んだ瞬間に乾いた。


 くぅ、と暴食の薄い腹が鳴る。


「なんか食うか?」


「食う」


 迷わず即答した彼に、思わず強欲が吹き出した。



「ほい、お待ちどーさん」


「……無駄に凝ってるな」


 運ばれて来た大皿には、ソフトクリームと生クリームが大量に乗せられたホットケーキがあった。


 生地をナイフで切ると中からチョコレートが漏れ出す。

 おそらくは生地を焼く際に挟み込んだのだろう。


 大きな一口で着々とたいらげながらも、目の前の凝り性に呆れ返る。

 口内で異なる温度の甘さが混ざり合って、どこか名残惜しさを残しつつ腹に溜まっていく。


 見るだけで胸焼けしそうなホットケーキだが、甘党の暴食はむしろチョコソースを足したいなどと考えていた。


 くるりと暗闇を見渡し暴食は呟く。


「…………少ない」


 本来ならいるはずの他の悪魔達の気配が、ほとんど無い。

 かろうじて怠惰の部屋の方からするくらいだ。


 あとで挨拶しておこうかと悩んで、甘い生地を嚥下する。


「だろぉ?」


 強欲の悪魔は仰々しく首を振って苦笑した。


「困るんだがねぇ、約束は守ってくれないと」


「忘れるのは人の十八番(おはこ)だからな」


「十八番っつーか……特権じゃね?」


 その評し方に対して異論は無い。

 暴食は無言でソフトクリームを飲み込む。冷たい液が食道を流れていった。


「おい、あの人間はお前の差し金か」


「あ? 坊主のことか? 俺の今のマスターだぜ」


「……契約は継続してるのか?」


「一応な」


 そう言って自分の首を指差す。

 見るとそこには透明な首輪があった。


 しばらくして暴食は向かいの悪魔が楽しそうにしているのに気がついた。


「何」


「いやぁ、双子なのに全然外見似てねぇよな俺ら」


「二卵性なんだから当たり前だろ」


「そりゃあそうかぁ」


「おかわり」


「はいよ」


 双子の兄弟の晩餐はひっそりと続いていくだろう。

 ここ煉獄に十二の悪魔が揃うその日まで。




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