旧29話〜妹と馬鹿兄妹②〜
3人を客間にぶち込んだ後、
「ほいよっ、とりあえず麦茶な」
俺は麦茶を3人に出す。
「お兄ちゃんありがとう」
「おっ、サンキュー」
「どもです」
3人は各々俺に礼を言ってから、麦茶を手に取り口をつける。
客間にぶち込んだ際に一喝した事もあり、3人は大人しくしているが、雰囲気が落ち着かない。
ふむ、とりあえず、パパッと自己紹介でもするか。
初対面となる春樹妹に俺は向き直る。
「さて、春樹の妹とは初めてだよな?」
俺が訊ねると、
「ですです、初めまして!
立花 夏実です!
気軽になっちゃんって呼んでください!」
フレンドリーに挨拶を返してくれた。
いきなり下の名前で呼ぶのには抵抗はあるが、苗字で呼んでも春樹と紛らわしいから、そのままなっちゃんと呼ぶ事にしよう。
「こちらこそ初めまして。
小鳥遊 優です。
俺の事は適当に呼んでくれ」
「うーん、じゃあ優兄さんって呼びますね!」
優兄さんって、そこを選ぶの?
適当に呼べと言った手前、修正しづらいのが難だな。
まあ、慣れるだろうからそのままでいいや。
「りょーかい。
既に知ってるみたいだけど、隣に座る香恋ちゃんの兄になりました。
そこにいる春樹とは不本意ながらクラスメートです。
以後、よろしく」
俺のおざなりな紹介に、
「ちょっ、不本意って酷くないっ!?
てか、兄になったってなに!?」
春樹が不満の声を上げる。
「アニキ、うっさい!
会話に入って来ないでよー!」
「お、おぅ」
春樹の不満になっちゃんがキレ、春樹のテンションが下がる。
うーん、こうして改めて見ると確かに兄妹だわ。
顔のパーツや髪質、性格がよく似ている。
なっちゃんは春樹と同じで髪色で、色素の薄い黒髪だ。
光の当たり具合では天然の茶髪にも見える。
まあ、髪型については、春樹がワックスの見本みたいに髪を遊んでるのに対して、なっちゃんはリボンでツインテールにしているので、勿論違いはある。
ただ、2人の活発で明るい雰囲気によく似合っている。
距離感の詰め方といい、先程の兄妹喧嘩含め、遠慮がない所がそっくりだ。
と、2人の考察をしていても話が進まないな。
「あー、香恋ちゃん」
俺は香恋ちゃんに視線を向けると、理解したのか自己紹介をしてくれる。
「う、うん。
なっちゃんのお兄さん、初めましてです。
小鳥遊 香恋です。
この度、お兄ちゃんの妹になりました。
なっちゃんとは1年の頃からの親友になります。
よろしくお願いします」
「こっちこそ、よろ!
てか、改めて見るとメッチャ可愛いな!
レンちゃんって呼んでいい?」
はあ?
何言ってんだ、こいつ?
「はぁ?
春樹、あんまり調子に乗ると、家から叩き出すぞ?」
「アニキ、レンレンに手ー出したら、家に帰った後締め出すから」
俺となっちゃんの切れ具合に、
「調子に乗ってすんませんでしたー!」
春樹がテーブルに手をついて頭を下げる。
まあ、すぐに謝るあたり、春樹も冗談のつもりだったのだろう。
そんな春樹を見て、
「くすっ」
と、香恋ちゃんが口に手を当て、軽く笑う。
「あれ、レンレン、そんなおもろかった?」
「ううん、ちょっとおかしかっただけ。
なっちゃんもわたしと初めて会った時、お兄さんとほとんど同じこと言ってたよ?」
「うわぁ、マジで?
こんなんと同レベルだったとはヘコむわー」
当時を思い出してほのぼのとする香恋ちゃんとあからさまに肩を落とすなっちゃん。
2人のその様子がとても仲が良く見えて、見てるだけでほっこりするね。
「おい、妹よ」
「妹ですが、なにか?」
「いや、なんでもない。
それとその返しは止めとけ、頼むから」
「意味わかんない。
てか、アニキが意味わかんないのは昔からか」
「あー、もう!
一先ず夏実は置いといて、優っち!
いつから妹が出来たのさ?
全然聞かされてないんだけど」
春樹はなっちゃんに一言文句を言いたかったのだろうけど、諦めて俺に話を振ってきた。
「言ってないからな」
「えー、なんでさー?
メッチャ興味あんのに」
ニヤニヤとする春樹が鬱陶しい。
「はぁ、そういう反応すると思ってたからだよ。
ぶっちゃけめんどい」
「めんどいって、そこは何とかしろよー
俺と優っちの仲じゃんか」
「そこまで俺たち、仲良かったっけ?」
「えっ、ひどっ!
親友だと思ってたのに!」
春樹はガーンっとオーバーにリアクションをする。
こういう春樹のわかりやすく表現してくれる所は好ましいのだが、若干面倒くさく時もある。
「自分は親友だと思ってても、相手からしたらただの友達ってよくあるらしいぞ?
と、まあ、冗談はここまでにして、香恋ちゃんは夏休み初日に親が再婚して出来たばっかりの妹だよ」
「親が再婚して妹が出来るって、優っちはそこまで主人公力を上げたのかー」
「主人公力って何だよ?」
そんなん初耳だぞ?
「えーとな、主人公力は俺と竜やんで考えた造語だぞ。
優っちって音楽以外は何でも出来るくせに彼女を作らない所が物語りの主人公っぽいからさー
適当に遊びで作ってみた」
「なんていうか、馬鹿か?」
春樹はともかく龍弥まで何してんだ?
「あっ、ウチのアニキは馬鹿なんで、ほんとすんません」
なっちゃんが俺にそう謝ってくるので、
「いや、まあ、兄が馬鹿でも妹に責任はないから、謝らなくていいよ?」
そうフォローを返しておく。
「2人して俺の扱いが雑すぎない?
これでも一応、西高に通ってんだけど?」
「春樹、頭が良いのとお勉強が出来るのは同義じゃないぞ」
「おっ、優兄さん、良い事言うねっ!
その言葉、もーらいっ」
「えっ、と、お兄ちゃんもなっちゃんもその辺にしとこうよ?
春樹さんが何だか可哀想だよ?」
俺となっちゃんの春樹弄りに香恋ちゃんが言葉を挟む。
これははたから見たら可哀想なのか?
なんだかんだ春樹はこういう雰囲気を楽しんでいる事が多いからその意見は新鮮だった。
本当に参ってる時の反応を知ってるだけに、その辺りの見極めはしっかりしているつもりだ。
「レンレンはやっぱり可愛いなー!
こんなアニキに同情するなんて!
レンレン、将来はやっぱりあたしのお嫁においでよ!」
なっちゃんもその辺りの空気はわかってるのか、春樹にフォローは入れず香恋ちゃんをからかう。
ふむ、からかうにしても香恋ちゃんがお嫁さんか……
「なっちゃんが香恋ちゃんの親友とは言え、香恋ちゃんはお嫁にあげないぞ」
そもそも女の子同士では無理があるだろ。
「ヒュー♪
レンレンってば、早速愛されてんじゃん!
やるねっ!」
「も、もう、なっちゃんってばからかわないでよ〜
それと、お兄ちゃんのばかぁ……」
香恋ちゃんが頬を赤く染め、俺を見ては照れてれする。
「えっ、何、この茶番?
てか、優っちって妹になったばかりの子ともうそんな関係なん?」
「そんな関係ってどんな関係だよ」
「いやぁ、だから、恋人……みたいな?」
ハーレムは出来たけど、まだ恋人ではない。
てか、ハーレム云々については黙っておいた方がいいだろう。
「馬鹿言うなよ。
香恋ちゃんとはまだ恋人じゃないから」
「あはは、優っちならそうだよなっ!
って、まだ?」
失言だった。
「そこに食いつくな。
とりあえず、麦茶でも飲んで落ち着けよ」
「ああ、そうすっか」
俺の言葉に、春樹が氷が溶けかけた麦茶に口をつけ、
「そうそうお兄ちゃんとはまだ恋人じゃないですよ?
ハーレムメンバーの一員で、いつかは恋人になりたいと思ってますけど」
「ぶっ!」
香恋ちゃんの言葉に春樹が麦茶を吹いた。
「アニキ、汚い!」
「夏実、布巾を投げんな!」
「なら、吹き出さないでよ!」
全くもってその通りである。
「いや、それは無理だってば!
えっ、てか、優っち、恋人じゃないのにハーレムってどう言う事!?」
春樹に黙っておこうと思った矢先の事に、
「あー、なんで香恋ちゃん、それ、ここで言っちゃうかなぁ?」
俺は香恋ちゃんにそう問いかける。
香恋ちゃんは頬をプクゥとさせ、
「だって、お兄ちゃんがじれったいんだもん。
それにこの後、みんな来るんだから、言っておかないと思ってぇ」
と、言葉を返してくれる。
「まあ、それは確かにそうだけどさ。
お兄ちゃんとしてはもっとゆっくり説明したかったかなぁ」
「ちょっ、優っち。
マジで説明プリーズ!
てか、夏実はなんでそんな訳知り顔なん!?」
1人置いてきぼりになってた春樹に、
「そりゃあ、レンレンから聞いてるし。
今日はそれが目的で来たからさー」
「一応、春樹に説明しておくが、ハーレム以上恋人未満の件については成り行きとしか言いようがない。
後はこの後来る本人達に聞いてくれ」
なっちゃんと俺が春樹に軽く説明しておく。
「えっ、因みに、誰?
もしかして、俺の知ってる人?」
「……麗姉と委員長だよ」
「はぃい?
委員長が、マジで!?
てか、あの生徒会長も!?
一体何があったん!?
てか、俺は不思議ちゃんになんて言えばいいん?」
「なんで、そこで佐藤の事を言うか知らんが、佐藤もこの後来るぞ」
「ま、マジで?」
「マジ☆」
俺はニッコリと微笑んで答えると、
「あっ、わりー、わりー
俺、用事があったんだ。
忘れてた、忘れてた。
それじゃあ、俺はここらでお暇するわ」
春樹が白々しく手荷物を手に取り帰ろうとしたので、
「逃がさん」
俺は春樹の襟首をがっちり掴み、帰さないと意思表示する。
「後生だから! 優っち! 襟首を掴んだその手を離すんだー!」
「お前の力じゃあ俺からは逃げられん。
諦めろ。
ちなみに、俺はもう諦めている」
「そんな情報いらんし!」
春樹がワァーと喚いていると、ピンポーンと玄関の音がする。
「おっ、噂をすればチャイムが鳴ったぞ。
さて、誰が来たかな?」
「いやー! お家に帰るーー!!」
副題 <友は道連れ、世は情け>