妹とバカップルみたいなデート
第1回人気キャラランキング
第1位記念小話です
10月某日。
「お兄ちゃん、明日デートしよっ!」
香恋ちゃんが俺の部屋に唐突に来て、そんな事を言い出した。
俺は授業の予習していたが、一旦ペンを置き香恋ちゃんに向き直る。
「えっと、急にどうしたの?」
「だって、ここ最近お兄ちゃん成分が足りないんだもん!
お兄ちゃんと何でもいいからイチャイチャしたい!」
「お兄ちゃん成分って。
でも、俺も香恋ちゃんとデートしたいから、デートしよっか」
「やったー♪」
香恋ちゃんがバンザイして喜ぶ。
そっかー、そんな嬉しいか。
そこまで喜ばれると俺も何だかニヤニヤしてしまう。
「それで明日どこ行くー?」
香恋ちゃんが俺の膝の上に腰かけニコニコ聞いてくる。
俺は危なくないように香恋ちゃんの腰に左手を回し、支えを作ってあげる。
香恋ちゃんのお気に入りの体勢だけど、これをすると麗姉から「節度を保ちなさい」と言われるのがたまにキズだ。
さて、それよりデートか。
「無難に映画とかは?」
「うーん、お兄ちゃんは観たいのある?」
「俺は特にないかな。
香恋ちゃんの好きなのでいいよ」
「わたしも特にないから他のにしようよ♪
チケット代勿体ないし、お兄ちゃんと一緒ならどこでもいいよ!」
とは言ってもせっかくのデートだしな。
お家デートや商店街は避けたいところだ。
そう言えば、チケットと言えばこの前もらったのがあったな。
俺は机の引き出しに右手を伸ばし、中からチケットを2枚取り出した。
「お兄ちゃん、それなーに?」
「野球のクライマックスシーズンのチケットだよ。
この前の大祭の後に渡辺さんから貰ったんだ」
渡辺さんは大の野球好きだ。
手当たり次第チケットを確保したのはいいけど、明日は仕事で休みを取れなかったとの事。
有給休暇を野球の応援で使い潰してたから、会社は悪くないらしい。
払い戻すのも面倒だからと、俺に色々迷惑かけたからという理由でくれたのだ。
「チケットは明日のデーゲームの内野席だから、丁度いいかな?」
「うん、わたしもそれでいいよ♪」
「それじゃあ、そうしよっか。
渡辺さんなら応援グッズも沢山持ってるだろうし、今の内に借りてくるね」
「うーん、もうちょっと〜」
香恋ちゃんは俺の背中に手を回し、俺の胸に顔を埋める。
かなり密着した状態になり、もうちょっとくっついていたいと体で表現してくれる。
まあ、香恋ちゃんは可愛いし、いい匂いするし、温かいし、俺としても心地がいい。
「はいはい、お姫様のお望み通りにどうぞ」
俺はチケットを置き、空いた右手で香恋ちゃんの頭を撫でる。
「ふにゃあ〜」
と、香恋ちゃんは気持ち良さげに声をあげた。
香恋ちゃんはこうしてると本当に幸せそうにするから、俺としても撫でがいがある。
俺はそうしてしばらく香恋ちゃんを愛でて楽しんだ。
渡辺さんの家に応援グッズを借りに行くのが遅くなり、文句を言われたのは言うまでもない。
♪ ♪ ♪
翌日。
雲1つない秋の穏やかな良い陽気になった。
俺と香恋ちゃんはお揃いのスキニーパンツに同じ色のシャツを着て和田さんから借りたチームユニフォームを羽織る。
そして、俺達は昼前には電車に乗り、駅を乗り継いで西武秩父線へ。
目的の球場前駅が近づくにつれ、チームユニフォームを着た人達で電車が満員状態になる。
香恋ちゃんが人で潰されないように、俺は吊り革をしっかり掴み足を踏ん張る。
体を固定したら、香恋ちゃんに抱きしめてもらい満員電車の中をやり過ごす。
球場前駅に着いた時、『このバカップルが』とやさぐれたおっさんに言われたけど、あれは一体何だったんだろう?
とりあえず、人混みで離れないように香恋ちゃんと恋人繋ぎをして歩く。
そのまま入場ゲートで持ち物検査をしてから、指定された内野席へ移動。
応援グッズを置き、持ってきたペットボトルの飲み物をホルダーに置いたら応援準備は完了。
時間を確認したら、試合開始まで後30分ぐらい余裕があった。
「うーん、試合開始まで時間あるから、売店でバルーン買って来るけど、香恋ちゃんはどうする?」
「わたしも行く〜
あっ、荷物どうしよう?」
「ああ、そっか」
俺は借りてきた応援グッズに目をやる。
正直、少し重いこれを持ち歩きたくはない。
「あっ、いいですよ。
私達、荷物見てるんで、行ってきてください。
念のため、貴重品は持ってってくださいね」
と、隣の席に座る女子大生風の2人組が親切に声をかけてくれた。
「えっと、いいんですか?」
俺は恐縮して確認すると、
「はい。お2人でデート楽しんで来てください」
と、お茶目に笑って手を振ってくれる。
俺と香恋ちゃんは顔を真っ赤にするが、せっかくの好意なので、素直に甘えることにした。
香恋ちゃんの手を引き、球場内の売店に向かう。
香恋ちゃんは初めてみたいで凄いテンション上がってたし、俺も来るのは小学生以来なので楽しい。
楽しいのは香恋ちゃんと一緒だからなのかもしれないけど、楽しければ何でもいいと思う。
売店ではバルーンを購入し、香恋ちゃんがマスコットキャラのミニマムぬいぐるみを見て「あっ、お兄ちゃん、これ可愛いっ♪」と喜ぶ。
うん、香恋ちゃんの方が可愛いからね?
俺はそう口に出してあげると「えへへ〜♪」とふにゃりと笑ってくれる。
うん、記念だからこれも買っとこう。
ペア用のミニマムぬいぐるみを購入し、お手洗いに寄ってから席に戻る。
「おかえりなさーい」
俺達が席に戻ると、お姉さん達が声をかけてくれる。
俺は会釈してから座席に座る。
お姉さん達――仮名AさんとBさんを確認すると、ビールを片手にすっかり出来上がっていた。
ちなみに、座席の並び順はこんな感じ。
階段→香恋ちゃん→俺→Aさん→Bさん→その他
人見知りな香恋ちゃんが他の人に接触しないように配慮した結果である。
「それにしても凄い量の応援グッズですねー」
お姉さんの内の一人が俺に話しかけて来る。
「あっ、これ、知人の借り物なんです。
今日のチケットもその知人からの貰い物で。
良ければグッズ使いますか?」
「いいんですかー?」
「はい、あんまり詳しくないので、お姉さん達の方が使いこなせると思いますし」
「じゃあ、ありがたくお借りしますね」
AさんとBさんが応援グッズを笑顔で受け取る。
「そういえば、お姉さん方はよく来られるんですか?」
「月に4、5回は来ますねー」
とAさんが、
「カッコいい選手を観ながら一杯やるのが最近の生き甲斐なのよぅ」
とため息をついたBさんが答えてくれる。
「そ、そうなんですね」
と、軽く苦笑する。
そうしていると、
「むぅ、お兄ちゃん、座席交換しよっ」
頬を膨らませた香恋ちゃんが俺のユニフォームのちょいちょいとつまんで耳打ちしてきた。
「えっと、大丈夫?」
「大丈夫じゃないから交換するのっ!」
俺は人見知りを心配したんだが、香恋ちゃんがよくわからない事を言った。
まあ、香恋ちゃんのご希望なので席をパパッと交換してあげる。
すると、香恋ちゃんは席に座ると俺の腕を取り、目線をお姉さん達の方に向ける。
えーと?
「やだ、この子可愛い」
「嫉妬かな?
取らないから、安心してよー」
と、お姉さん達が香恋ちゃんの頭を軽くポンポンと触る。
そっか、嫉妬か。
それは気づかなかった。
俺は嫉妬してくれた香恋ちゃんが可愛くなり、掴まれた腕を一旦上に持ち上げて離してもらい、そのまま香恋ちゃんの肩に手をやり抱き寄せる。
「気づかなくてごめんね」
そっと香恋ちゃんに耳打ちする。
「ううん、お兄ちゃんはカッコイイから仕方ないもん」
と、俺の体に抱きつきながら香恋ちゃんが呟く。
「あー、この2人ヤバイね」
「うん、尊い」
「尊い……かなぁ」
「尊いほどバカップル。
てか、鼻血出てきた」
「ちょっ、あんた大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
「あっ、すいませーん!
ナプキンとビール2つ追加でお願いします!」
と、お姉さん達2人がなにやら騒いでいたが、俺と香恋ちゃんは気にする事なく2人の世界に入っていた。
♪ ♪ ♪
試合が始まった。
バックスクリーンの大型モニターに選手の映像が流れ、選手のコールで守備についていく。
その選手のコールもウグイス嬢ではなく、プロレスの紹介みたいな男性の声だった。
しばらく来てなかったけど、大分様変わりしている事に俺は驚いた。
球団によって変わるのだろうが、凄いエンターテイメント感がして楽しい。
試合も長距離打線で勝ち抜いてきたチーム同士なので、今日もかなりの乱打戦となった。
皆の応援にも熱が入り、打席の入場曲からの選手コール、そして各選手毎の応援歌が外野席から響き、球場全体を盛り上げてくれる。
お姉さん達も目まぐるしくグッズを換えながら、声援を出す。
釣られて、俺も声を出して応援し、香恋ちゃんは右手の3本指を忙しなく動かしていた。
「それは何やってるの?」
と、俺が聞いたら、
「トランペットの指の動きで応援歌の耳コピ中だよ♪
わたしもトランペット持って来れば良かったなぁ」
と、一風変わった楽しみ方をしていた。
それは凄い高度な事じゃないかと思うが、香恋ちゃんのトランペットの才能はヤバイと思ってるので、大人しく見守る事にする。
イニングの切り替えにはダンスチームによるダンスショーやマスコットキャラのパフォーマンスがあり、休む間もなく観客を楽しませてくれた。
途中、ファールボールが香恋ちゃんに向かって飛んできたので、俺が片手でキャッチするハプニングもあった。
香恋ちゃんが無事でホッとすると同時に、俺は二度とファールボールを素手で掴まないと心に決めた。
メッチャ痛かった。
上手く捕球出来たとは言え、衝撃が半端なく、手のひらが真っ赤になった。
本当にこれが香恋ちゃんに当たらなくてよかった。
ヒビや骨折はしてないだろうけど、しばらくジンジンと痺れていた。
香恋ちゃんが心配して「痛いの痛いのー、飛んでけー」とやってくれたのが、メッチャ可愛かった。
俺の妹が可愛すぎて別の意味でヤバかった。
ちなみに、そのファールボールは香恋ちゃんが大事に持って帰る事になった。
『お兄ちゃんが守ってくれた記念品』らしい。
うん、まあ、それはいい。
本当のハプニングは6回表が終わった後の事。
大型モニターにキスカムの文字が流れて司会の声が入る。
司会の声を聞くと、どうやらモニターに映された男女がキスをするらしい。
キスカムのイベントは割と欧米ではメジャーとはBさんのお話。
そんな事もイベントでやってるんだと思ったら、1組目のカップルが大型モニターに映し出された。
1組目は50代の夫婦みたいだった。
司会が色々と盛り上げると、
『さあ、行ってみよう!
3・2・1!」
のカウントダウンで夫婦がキスをした。
本当にキスした事に俺と香恋ちゃんはビックリしていた。
これ、本当に日本でやっていいイベントなのか?
『ベリィィイイーーーグゥゥッド!
いつまでも仲のいい夫婦でいてくれー!』
と、司会が叫ぶと画面が切り替わる。
『さあ、2組目はこちらだー!』
画面に映し出されたのは、赤ちゃんを抱きしめる20代の新婚夫婦だった。
『おー、お次は可愛い赤ちゃんと初々しい夫婦だー!』
映し出された新婚夫婦は信じられないような顔をしながら、ぎこちなく手を振っている。
『さあ、それでは行ってみよう!
3・2・1!』
の、司会のカウントダウンで奥さんは赤ちゃんを抱き上げ、赤ちゃんの唇を旦那さんに押し付ける。
『ベリィィイイーーーグゥゥッド!
奥さんは恥ずかしかったのかな!?
それでもホッコリさせてくれるファミリーキスだー!!』
と、司会が叫び、周りの観客を盛り上げる。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、赤ちゃん可愛いかったねっ!」
「うん、そうだね」
香恋ちゃんはテンションが上がってるのか、俺に密着し話しかけてくる。
それにしても、あの赤ちゃんが大人になった時、ファーストキスがお父さんってショック受けないかな?
と、俺が変な心配をしてると、画面が切り替わる。
『さあ、次でラストだ!
本日の締めを飾る3組目のカップルはこちらだー!!』
と、画面に映し出されたのは、
俺と香恋ちゃんだった。
『3組目はこちらの若々しいカップルだ!
てか、イケメンと美少女のカップルとかリア充かぁ!?
やっぱり世の中は顔なのかぁ!?』
と、司会が観客を沸かせる。
喧しいわ!
と、俺は思いつつ手を振ってみると、画面の中の俺も手を振る。
ああ、他人の空似じゃなくて本当に俺か。
香恋ちゃんは事態を飲み込むと、ウルウルと期待した目で俺を見つめてくる。
香恋ちゃんはやる気満々だ。
えっ、マジで?
『若々しいカップルだけど、果たしてキスをするのか!?
さあ、行ってみよう!
3・2・1!』
と、司会がカウントダウンする。
3の辺りで香恋ちゃんは目を閉じる。
2、1で俺も香恋ちゃんに恥をかかせられないと覚悟を決める。
そして、俺は妹にキスをした。
『ベリィィイイーーーグゥゥッド!
この場にいるみんなが若返る、そんな気がするキスだーー!
それじゃあ、また次のイベントで!
シーユー!』
と、司会の声がどこか遠くで聞こえる気がした。
その後、係員が記念のフォトカードを持ってきてくれたが、しばらくほっといて欲しい。
俺と香恋ちゃんは顔を真っ赤に染めて、しばらく俯いてみんなからの視線を耐える事となった。
♪ ♪ ♪
その後、試合は勝って終わった。
ただ、ぶっちゃけ勝った余韻より、キスした余韻の方がでかい。
あの後、隣のお姉さん達から香恋ちゃんがからかわれ、吹っ切れた香恋ちゃんが何度も俺にキスをせがんだ。
『1回やったら、何回やっても一緒!』
とは、香恋ちゃんの渾身の一言。
うん、お兄ちゃんはその吹っ切れ方は良くないと思う。
キスをしないと、
『お兄ちゃんは、わたしとキス、したくないの?』
と、泣きそうになるから、せがまれるままにキスするんだけどね。
ただ、守備中、ずっとキスしていたのは良くなかったと思う。
からかっていたお姉さん達は途中、お手洗いに行ってからしばらく帰って来なかったので悪い事をした気になる。
ただまあ、帰る時には『ご馳走さまでした』と言っていたので、良しとしよう。
ちなみに、帰りの満員電車も人目を憚らずにキスをしていた。
大分俺も吹っ切れた気がする。
家に帰ってからも、俺のベッドの上で香恋ちゃんとイチャイチャし、気付いたら2人して寝てた。
なお、後日談として、その事がどこから漏れたのか麗姉と萌が大変な事になったのだが、それはまた別のお話。
最後に一言残すなら、忘れる事はないバカップルみたいなデートになったと言う事である。
副題 <人目を憚らずキス。これぞバカップルの王道>