ハロウィン特別篇
10月31日。
今日はハロウィンだ。
それで今、俺は神社で町内会のイベントにお手伝いとして駆り出されている。
昔は地域でハロウィンイベントなんてなかったが、ハロウィンがイベントとして国民に定着した事もあり、数年前から町内会でも神社を貸し切ってイベントを始めていた。
「トリック・オア・トリート!
お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ!」
と、鳥居の前で配られたジャックオランタンの衣装を羽織った子供達が俺に定型句を言う。
「はい、それじゃあお菓子をあげようかな」
と、パン屋を営んでる木村さん提供のハロウィン仕様の菓子パンを子供達に渡していく。
この辺は色んなイベントを通してもう慣れた。
こういった雰囲気は俺も好きだし、将来は保育士になるのもいいかもしれない。
まあ、好きな事を仕事にするのは安直な気もしするし、責任も重そうなので、こうして趣味でボランティアをやるのが丁度いいのかな。
「にいちゃん、どうよこの衣装!」
「すごくね!?」
ギンとゲンが死神のコスプレをして自慢して来たり、
「せーの、『トリック・オア・トリート!』」×7
と虹色7人姉妹がお揃いの幽霊のコスプレをして俺を和ませてくれる。
うん、ハロウィンイベントも楽しくていいね。
当事者でしかわからない高揚感がある。
ただ、ニュースとかで取り上げられる渋谷みたいなのはNGだ。
楽しむにしても迷惑をかけない方がより楽しいに決まっているからな。
子供の列が終わり、時間を確認すればイベント終了の午後7時を回っていたのでこれで終わりでいいだろう。
菓子パンを確認すると残り1個だったので、父さんの見通しの良さには頭が下がる。
俺が「ん〜」と1つ伸びをしてリラックスすると、鳥居の方から香恋ちゃんと麗姉がやってきた。
2人は鳥居で子供達に衣装を貸し出したりと受付をやってもらっていた。
ちなみに、香恋ちゃんの衣装は魔女っ子物であり、
麗姉の衣装は監獄ナースという何とも言えない物だった。
まあ、2人とも凄い似合ってるんだけどね。
「お兄ちゃん、終わったよー♪」
「うん、香恋ちゃん、お疲れ様。
麗姉もお疲れ様。
あっ、麗姉。後で子供達の衣装を片付けるから、倉庫の鍵貸してね」
「えぇ、わかったわ」
と、麗姉が軽く微笑む。
うん、最近よく思うけど、麗姉の雰囲気が本当穏やかになったと思う。
色々あったからかもしれないけど、去年とは大違いだ。
「そうだ、お兄ちゃん!」
「何、香恋ちゃん?」
思い出したように声をあげた香恋ちゃんに俺は訊ねる。
香恋ちゃんはニパァと笑顔を浮かべ、
「トリック・オア・トリート!
お菓子をくれないとイタズラしちゃうよ♪」
と、俺にお菓子をねだる。
うん、可愛い。
じゃなくて、お菓子か。
丁度菓子パンが1個余ってて良かったと俺は思う。
「はい、じゃあ、これね」
と、俺はラス1の菓子パンを香恋ちゃんに渡す。
すると、香恋ちゃんはぶーと頬を膨らませる。
「えー、まだ残ってたんだ。
お兄ちゃんにイタズラできると思ってたのに〜」
お菓子をもらえてガッカリされるなんて、お兄ちゃんがガッカリだよ?
てか、
「イタズラって、香恋ちゃんは俺に何をしたかったの?」
俺は聞かなくてもいいのに思わず聞いてしまう。
「えっとねー、えへへー」
と、香恋ちゃんは笑みを浮かべて俺に密着してくる。
そして、
ちゅ――
と、俺の頬にキスしてくれる。
「ちょっ、香恋ちゃん!?」
俺が驚きの声をあげると、
「えっへへ〜♪」
と、香恋ちゃんが照れ笑いをする。
その様子に麗姉がこめかみに手を当て、ため息をつく。
「香恋、貴女はもう少し節度を持ちなさいといつも言ってわよね?」
「えへへ〜、お姉ちゃん、ごめんなさい」
と、香恋ちゃんが全く反省してない様子で答える。
「全くもう。
ああ、それと優、トリック・オア・トリート。
お菓子を渡さないとイタズラするわよ?」
と、麗姉まで乗ってくる。
「いや、お菓子と言われても香恋ちゃんに渡したのがラストだから、麗姉のはないよ?
てか、去年から貰ってなかったよね?」
一応、このイベントは地元の中学生までが対象で、高校生以上は対象外だ。
「あら、そうなの?
なら、仕方ないわね」
と、麗姉がクスっと笑い、
俺の頬を両手で固定する。
そして、唇と唇の口づけを交わされる。
「んっ」
麗姉が艶めかしい声を出して、俺から離れる。
唐突な口づけに俺は顔を真っ赤にする。
心臓がバクバク鳴ってるのが自分でもわかる。
麗姉も自分でやっときながら、頬を染めていた。
それに異議をあげるのは香恋ちゃんだ。
「ああー! お姉ちゃんずるい!」
「ずるいって香恋だってしてたわよね?」
「わたしは頬っぺただもん!
口にするなんてずるいよ!」
「なら、香恋だって、口にしとけば良かったじゃない?」
「むぅーー!
お兄ちゃん、もう一回!」
香恋ちゃんが頬を膨らませて俺に言ってくる。
「いや、ここじゃあしないからねっ!」
と、俺達が騒いでいると、
「ん、小鳥遊の周りはいつも賑やか」
と、後ろから声をかけられる。
この声はと恐る恐る振り返ると、ゾンビのコスプレをした冴とサキュバスのコスプレをした萌が来ていた。
冴はともかく、萌はエロい。
うん、そうとしか表現出来ん。
「よ、よう。
萌に冴も来てたんだ」
「迷惑だったかな?」
「いや、そんな事ないよ」
萌の躊躇いがちな声に俺は否定してあげる。
「ただ、冴と一緒に来てたのが意外なだけかな」
「ん、あの時の件については和解した。
私も頭に血が昇っていた。
いつまでも引っ張るのは良くない」
と、冴が口にする。
あの時というのはいつの事を指すんだろうか?
正直、心当たりがあり過ぎてわからない。
「ん、萌」
冴がそう言って、萌の背中を押す。
「えっとね、ゆ、優くん!
トリック・オア・トリート、です!」
萌が俺に近づいて、今日沢山聞いた言葉を言ってくれる。
「えーと、麗姉にも言ったんだけど、もうお菓子ないんだけど?」
「そ、そうなんだ。
じゃ、じゃあ、優くんはイタズラされてもし、仕方ないよねっ!?」
「へっ?」
萌はそう自分の行動を正当化してから、俺に密着してくる。
その顔はすでに茹だっている。
萌は俺に密着すると、豊満な胸を俺に押し当て、両手で俺の腕や太腿を触れてくる。
「ちょっ、萌、それは流石に不味いって!」
俺は萌の大胆なボディタッチに待ったをかける。
何が不味いかは男なら察して欲しいと思う。
「えっ、と、だ、ダメかな?」
「駄目です」
萌の問いかけに俺はきっぱりと断言する。
これ以上は俺が我慢出来なくなる。
「そ、そっか。うん、わかった」
と、萌は俺の一部分の膨らみに気づいて俺から離れていく。
いや、そこは見逃そうよ、ね?
俺が何とか息を整えようと周りを見ると、
香恋ちゃんは「萌さん、大胆……」と顔を赤らめ、
麗姉は「萌、なんて恐ろしい子」と口に出して驚いていた。
冴はというと、親指を立て「萌、グッジョブ」と萌を褒める。
俺はそのやり取りにややゲンナリして考える。
夏休み当初みたいなギスギスした雰囲気はアレだが、
今みたいな雰囲気も相当アレだと思う。
ただ、今日はハロウィン。
今日ぐらいはみんなイベントの熱に浮かされても仕方ないと思う。
毎日は流石に身がもたないけど、これだけは言ってこの話を締めよう。
ハッピー・ハロウィン!
副題 <いつか来るかもしれない、IFのストーリー>