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(旧)9話〜従姉は生徒会長様

 



「ねぇ、私の出番が回って来るのが遅すぎないかしら?」


「はい? 急に何言ってんの、麗姉?」


 生徒会室に入るや否や開口一番に文句を言われても困る。

 さらに言うと、メタい発言をされるとなお困る。


「別に。ただ文句を言いたかっただけよ」


「そ、そう?」


「ええ、だから今の私の発言は忘れなさい。

 それと、適当に座りなさい」


「了〜解」


 麗姉の指示の元、俺は近くにあった椅子に腰掛ける。

 そして、見慣れている生徒会室を眺めて一言。


「てか、なんで他の役員がいないの?」


 俺は入室して気になっていた事を麗姉に訊ねた。

 生徒会室はロの字に机が囲まれており、

 その一番上座、つまり生徒会長の椅子に麗姉が座っているだけだった。


「何を言ってるのかしら?

 今日は生徒会会議がないのだから、他の役員がいるわけないじゃない?

 そんな事も分からないとは、私は優をお馬鹿さんに育てた覚えはないんだけど?」


「俺もそこまで言われる覚えはないよっ!

 えっ、てか会議がないなら何で生徒会室に呼んだわけ?

 しかも、放送部員まで使ってアナウンスしてさ?」


「放送部員は私の手足なのだから特段深い意味はないわね。

 生徒会室に呼んだのは単に嫌がらせよ」


「嫌がらせ?」


「ええ」


 そこで、麗姉はスッと目を細め、


「私の出番を差し置いて、

 色んな萌え要素をぶち込んで登場した小娘に、

 この世の辛さを教えたくなったのよ」


「えっ、なんか怖っ」


 麗姉は神様か何かなのか?


「あら、氏子うじこの1人でしかない私を神様と一緒にするなんて、優は氏子としての自覚が足りないわね。

 今度、氏神うじがみ様に謝りなさい。

 ついでに私がその後調教してあげるわ」


「ナチュラルに心の声を読まないで下さい。

 そして、調教とかマジで止めてください。

 お願いします」


 俺はその場で土下座し、心の中で氏神様と麗姉に謝る。


「まあ、いいわ。

 それより私の紹介をいつもみたいに早くしなさい。

 読者がいつまで経ってもついて来れないでしょ」


「……マジで、麗姉が何を考えてるのかわからない」


 俺は麗姉の理不尽さに心から打ちひしがれた。






 麗姉。


 本名、小鳥遊 麗華。

 歳が1つ上の従姉にして、宗家の1人娘。

 性格はお察しの通り、傲岸不遜ごうがんふそんにして天上天下唯我独尊。

 顔は綺麗系であり、髪型はロングでウェーブがかかっており、体型に至ってはモデルにすら引けを取らない、正に神に愛された美少女。

 この名門私立西高等学校においては、1年時に生徒会長となり、麗姉に逆らえる者は教師を含めこの学校にはいないとすら言われている。

 ご存知の通り、俺も麗姉には逆らえない。

 筋肉や体格とか喧嘩とかなら俺の方が強いはずだが、麗姉はそんな次元にはいないのだ。

 因みに、学校で麗姉は皆から「生徒会長」か「絶対女王」と呼ばれ親しまれている。

 麗姉は意外にも「二つ名みたいで楽しいわね」と容認していた。





「はい、説明お疲れ様でした。

 それにしても、もう少しマシな説明は思いつかなかったの?」


「もう、俺は突っ込まないぞ?」


 短時間だが体力と精神力を根こそぎ持ってかれた俺はげっそりしていた。


「あら、残念ね」


「そんな事より、いい加減、呼び出した本当の用件を教えてくれ。

 春樹と龍弥と遊びに行く前に飯が食えなくなる」


「いいわよ。

 優で遊ぶのはここまでにして、ご希望通り手っ取り早く終わらせましょうか。


 用件は3つ。


 1つ目、優、成績はどうだったのかしら?」


 俺は意外に思い、麗姉の目を見つめる。


「麗姉なら既に知ってるんじゃないの?」


「質問に質問で返さないで。

 時間の無駄よ。

 優の口からキチンと言いなさい」


「わかった。

 麗姉のご指導ご鞭撻のおかげで音楽の2を除けばオール5だよ」


「そう。まあ、私が面倒を見て、それ以外の結果はありえなかったわね。

 というより、優の音痴はむしろ天災レベルと言えるのかしら?」


「天才とか天災とか俺はもう知らん。

 2つ目は?」


「2つ目は明日、優の新しい母と妹のお宮参りの後の段取りについて。

 終わったら社務所の会議室を借りて氏子入りのお披露目会と言う名の宴会になるわ。

 参加者は宗家と近場の分家、有力氏子の35名。

 優は新しい妹を連れて全員に挨拶する事。

 これは宗家当主であるお父様の命でもあるわ」


「宗家当主の命、確かに仰せつかまつりました」


 俺は恭しく傅く。


「いい、心がけね。

 初めからそうしていなさい。

 3つ目、今年の合宿は8月の4週目の全部を使って行うわ。

 それまでに夏休みの宿題を終わらせ、予定を全て空けておきなさい」


「えっ……?」


 俺の目から生気が失われる。


「優、返事はえっ……? ではなく、はい、よ」


「はい」


「よろしい。

 下がっていいわよ」


「はい。

 ……じゃねえ!」


 俺は大人しく引き下がる前に待ったをかける。


「ちっ」


「今、舌打ちしたっ!?」


「あら、私がそんな真似するわけないじゃない。

 ところで、私との旅行がそんなに嫌なのかしら?」


「そんな可愛い物じゃないだろ!?」


 あれは合宿とか旅行とかそんなちゃちな物じゃない。

 控え目に言って修験僧の修行。

 大げさに言えば地獄である。


「あら、優が何を言っても宿はもう抑えたし、

 そもそも優に拒否権はないわ」


「ないの!?

 てか、マジで今年は無理だよ!?

 可愛い妹を家に残して、1週間も家を離れられるかっ!」


 俺が思わずキレると、


「可・愛・い・、妹?」


 麗姉が眉間に皺を寄せ、俺を睨んでくる。


「あ、ああ」


 何で美人の怒った顔って、こう、威圧感が半端ないのかね?

 キレてたはずなのに、思わずたじろんでしまう。


「新しい妹はそんなに可愛いの?」


「香恋ちゃんは天使だと思うぐらい可愛い妹だよ」


 思わず、俺は即答してからしまったと思う。

 俺がこんな言い方したら、麗姉が興味を持つに決まってるじゃないか……


「へぇ、それは面白いわね」


 麗姉の口角が上がる。


「いいわ、優の新しくできる妹も一緒に連れて行ってあげましょう。

 それなら文句はないでしょう?」


「文句ありまくりだよ!?

 俺じゃああるまいし、受験生の子を連れ回すな!」


「あら、私の手にかかればこの学校だって首席で合格出来るわよ?」


「確かにそうだけどっ!」


 その実現例が俺自身だから否定できない。


「思えば、優の妹も明日で氏子入りして小鳥遊家の一員になるのよね。

 私とした事がすっかり失念していたわ。

 小鳥遊家の一員として恥じぬ様、しっかり可愛いがってあげるわ」


「うふふ」と麗姉が不敵に微笑む。


「香恋ちゃんを麗姉のペースに巻き込むなよ?」


 俺は麗姉の目をしっかり睨む。

 声が自分でも低くなり怒った口調になるが知った事か。


「へえ、優の割には言うじゃない?」


「可愛い妹のためなら言う時は言うさ」


 俺と麗姉はしばらくお互いの目を睨み合う。

 その間、重苦しい空気が生徒会室を埋め尽くす。

 気の弱い人間なら、発狂するかもしれない。


「まあ、いいわ」


 先に折れたのは珍しい事に麗姉だった。

 珍しいと言うより初めてかもしれない。


「一旦、合宿の件については保留にしておきましょうか」


「あ、ああ」


 あまりにも物分かりの良い麗姉の姿に、逆に不安を覚える。


「下がっていいわ。

 お友達と約束があるんでしょう?

 小鳥遊家の一員以前に人として約束はしっかり守りなさい」


「遅くさせたのは麗姉だけどな」


「あら、何か言ったかしら?」


「いえいえ、何も言ってませんよ?」


 これ以上、麗姉を刺激する前にさっさとトンズラするか。

 俺はカバンを持ち生徒会室から出て行く。

 出て行く寸前、


「ねぇ、優?」


 後ろから麗姉に声をかけられる。


「明日のお披露目会を楽しみにしておくわ。

 あまり私をガッカリさせないでね?」


「ああ、また明日」


 俺は背中を向けたままそう返事して生徒会室から今度こそ出て行く。





 明日のお披露目会が荒れないように、

 もし荒れたとしても妹に被害が被らないように守らなきゃと胸に刻みながら。





 副題 <ラスボスがログインしました>








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