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2 書籍化作家が2冊目を出すということ

 はじめに、『2冊目を出すなんて簡単』という意見はひっくり返してもらうつもりだ、と書いたが、確かに書籍化作家というのは、一冊出すと、次作をどんどん量産していくイメージが強い。


 一冊出した作家の作品は拾われやすい。


 実はこれは実際にあることで、自分が出版した出版社の編集者のチェックや実績による知名度などで、出版社の目につきやすくなると言うのは、確かにある。


 実際、『吾輩は猫ですか!?』も、その範疇に属する作品だ。


 編集Tさんに、『何故この作品が?』と聞いてみたところ、


「作品のタイトルが『吾輩は猫である』をもじった、挑戦的なタイトルで、「お?」と思いました。ただ、小山さんはウチから出しているので、それがなければ、目を通すことはなかったでしょう」


 ときっぱりと言われている。同レーベルではなくとも、他の作家さんに聞いたところによると、実績を買われて他レーベルから次々に声をかけられることはよくあるということだ。


 さらに、一回商業を経験すると、『出版に耐えうる文章力』が、とことんたたき込まれることになる。

 編集の指導によって、「誰が読んでもわかりやすく」文章を書くようになる、というのはどのレーベルでも共通のことであると思うが、これが、商業になると、本当に、徹底して指摘される。ときには「え? そんなことまで説明しなきゃいけないの?」とか、「ここは『行間』で雰囲気をみせたいんだよなあ……」と思っているところも、バッサリと切られ、過剰とも思えるほど説明文を要求されることになる。

 かくして、「作家はわかっていても、読者には伝わらない」と言うことが、一体どういうことなのか、それこそ骨の髄までたたき込まれる。


 そのため、結果的に個性や"くせ"は薄められるが、『文章力が上がり』、読みやすい文章を自然と書けるようになる。

 こうなると、編集も「お?」と引きつけられ、目がつけやすくなるわけだ。


 だから、『二冊目は一冊目より容易い』というのは、確かにその通りなのだと思う。


 なら、一番初めに言ったことは? 嘘ついたの?


 ある意味、そうだったかも知れないが、これを「続刊を出す」と読み替えれば、ある程度は納得頂けるかも知れない。


 ライトノベル・ライト文芸の界隈は、不況である出版業界でも「まだ売れる方」ということで、すでにレッドオーシャンである。第1巻に「1」と言う巻数が振られることも少なくなり、売れなければ即「さようなら」が当たり前の世界になりつつある。と言うか、もうすでにそうなっている。


 幸いファン文庫は面倒見の良いレーベルではあるが、そうでないところでは、一冊出したのが『記念』となっただけで、作家としてはその後が続かない作家など、本当に掃いて捨てるほどいるわけだ。


 『2巻目を出す』

 これはある種の快挙であり、Twitterなどを見ていると、皆当然のように続刊を重ねているが、いわゆる『1巻打ち切り』された作家さんも、枚挙にいとまがない、というのが本当のところである。


 売れなければ、切り捨てられる。そして、もう声がかかることはない。

 そんなシビアな業界が、出版業界というものだ。


 だから、Twitterでは作家さんが連呼しているのである。

「買って下さい。続刊を出したいです。このままでは打ち切りです」


 時折、そんな姿が悲しくなるが、作家に名を連ねてみて、それは心からの願いなのだと思い知らされた。


『一冊出したんだから、もう良いじゃん。贅沢だよ』


 確かに、その通りかも知れない。だが、一冊を出してしまった故、作家はその時の快感を、あの、脳内に麻薬が満ちるような快楽を忘れられない。

 本を出す、というのは本当に辛いことで、また、とてつもなく楽しいことである。


『一冊で良いから、本を出したい』


 まだ書籍化経験がないときには、そんな謙虚な気持ちでいたのに、いざ一冊出版すると、この謙虚さが狂ってしまうのである。


 もう一冊。もう一冊だけ書きたい。もう一作だけ、世に出したい。

 物語の続きがある作家は、続きが書きたい。物語を終わらせたい。


 その願いは、本当に覚醒剤のように、作家の心を蚕食する。

 一度知ったらもう戻れない。その味を、知ってしまった故に。


 だからこそ、作家はセルフプロデュースをいとわず、一冊でも多く、自著が売れるように、我が身を削って宣伝するわけである。


 さて、同時にその難しさを嫌と言うほど味あわされたのが『重版』である。

 重版というのは、初版○○部のうち○割売れ、もっと売れそうだからもっと刷る、と、簡単に言ってしまえばそういうことなのだが、無名のぽっと出の新人が本を出したところで、重版の壁は厚い。それどころか、実績のある作家さんであっても、「重版出来(じゅうはんしゅったい)です!」の言葉はなかなか聞けなくなった。


 まして、新人の本というのは売れない。本当に、びっくりするほど売れない。

重版なんて、事前の知名度が高いか、営業さんが凄く巧い売り込みをかけたか、よほど内容が良いか、マーケティングが巧くハマらない限り、夢の夢なのだ。


 そして、重版を出来ない、いわゆる盆百の作品は、『初めに刷ったうちの何十%売れたか』、いわゆる消化率で続刊できるかどうかが決まる。これまた面倒見が良いレーベルは消化率をあまり気にせずに続刊を決めるところもあるらしいが、総じて、出版業界というのは、嫌と言うほど数字にシビアである。拙作『あなたの未練』も、続刊ラインには微妙なところで、結局続刊は出せなかった。幸いなことに、「未練」は、一冊で完結している作品であったのだが。


 こんなことを言うと編集から怒られてしまうかも知れないが、私はシリーズものは頭から前提においておらず、一冊一冊、完結するように書いているし、また、何十万字と続く物語には挑戦すらしたことがないので、続刊が刊行されないのは納得できていたが、それでも『もう一冊出したい。もう一冊だけ』という脳内麻薬にはハマった。


 結果、多くの作家がやっていたことに漏れず、私もTwitterでは「書籍化したい」のつぶやきが多くなった。一冊出してて何を言うか、と言われるかも知れないが、言わずにはいられないのである。


 書籍化作家が呟いている「書籍化したい」は、ふざけているのでも驕っているのでもなく、本心から出てくるつぶやきである。


 また、社会的なプレッシャー、と言うのもある。

 私は親戚・職場には本を出したことはオープンにしていたので、「次の作品はどうなってるの?」という圧力をモロにくらい、むしろ本を出していない方が残念がられないだけ心が健全でいられたかも知れない環境に追い込まれていた。


 Twitterでは『先生』と呼ばれるが、次の出版の話もない。元作家。元本を出したことがある人。この立場は、自尊心を本当にさいなむ。周囲が続々と書籍化を決めていくのを横目で見つつ、『やばいぞ、次の作品を出さないと、作家じゃなくなってしまう』という圧力に苦しむことになるのだ。

 仲良くなった他の作家さんが次々と書籍化を決めていくのは、本当にプレッシャーだ。『自分も何とかしなきゃ』と焦燥感に駆られ、『書籍化』を前提として書くため、かえって自分の書きたいことが書けなくなってしまうこともかなり多い。


 ――本当は簡単なことで、諦めてしまえば良いのだ。


「私は、少なくとも一冊出したぞー!」


 と。


 でも、『もう一冊出したい』というのは、本当に麻薬である。

 見栄もたしかにある。だが、その動機の大部分は『商業創作への飢え』であると思う。

 〆切りと戦い、本を世に出し、売れる・売れないに一喜一憂する。何より、買って頂き、読んでくれる読者さんがいることの嬉しさ。

 この一連の流れを体験してしまい、クリエイターになってしまったら、その、『創る喜び』を知ってしまったら、もう二度と「健常者」には戻れない。


 そういう危うさが、「作家デビュー後」には常につきまとう。一冊出しただけなのに、引き際になっても引けないでいる人は多くいる。私を含めて。


 クリエイターを目指している人は、どうかご覚悟していただきたいところだ。

 予言しよう。あなたも、デビューしたら99%そうなる。


 それでも、あなたがクリエイターを目指すのなら(若しくは、すでにその毒に染まっているのなら)。


 私が言えるのは、あの『冴カノ』の名言ただひとつである。


 ようこそ、クリエイターの世界へ。

 一緒に血反吐を吐きましょう。


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