六話
ダンジョンが再度開かれてから2日後、ダンジョンには冒険者の姿があった。
「全く、誰一人戻らないって言うならもっと上のランクのやつを使うべきだろうが...」
ため息を吐き出しながらジョフは入り口へと足を踏み入れた。
調査許可という名の"ハズレくじ"をつかまされた二人は足取り重く進んでいく。
「ここ、少し広がってっすよね?」
後ろを歩くキースは両手を広げながら広さを確かめている。
「小さな荷車くらいなら引けそうだな。見た目より凹凸も少ない」
岩肌は手入れをしているかのようだ。
「さぁて、1層はどうなっていることやら?」
開けた視界に写るのはおおよそ前回と同じく、なだらかで高低差のある草原である。
「あの辺りだよな。櫓があってこちらを見ていたのは」
二人は道の先に見える櫓へと向けて歩き出した。
「あなたは?」
櫓の側に置かれたテーブルにはいくつかの料理が並べられており、それらを1体のゴブリンが味わうように食べている。
その背後には細身のゴブリンが控えており、その奥では将軍クラスのゴブリンが焚き火に肉を当てて焼いている。
『俺はこの迷宮のヌシ。ギルドへ向けたメッセージを伝えるためにいる』
唯一席に座っているゴブリンが食べる手を止めて語り出した。
『質問をするといい。答えられることには答えよう』
「じゃあまずコレ。何か細工がしてあんの?」
キースは懐から取り出した鎖付きのメダルを指して言う。
『ん?あぁ、君らが最初の来訪者か。こんなときに送られるとは随分くろうしてそうだね。それには通し番号と単純な魔法が込められている。持ち主にささやかな幸運が訪れるくらいのものだ』
「あー、これのお陰でカードの引きが良くなってたんスね」
『発動の条件は正規の取得。戦いを汚すものには相応しくない』
「なるほど。じゃあこの前の領主の私兵には無縁かな」
「先日の部隊は死んだのか?」
『生きてるよ。ちょっと働いてもらってるけど扱いは捕虜と同じ』
「捕虜として、金と交換できるのか?」
『するよ。銀貨百枚ごとで無作為に1人。相場ってそれくらいでしょ?』
「多分......?」
冒険者は相場に馴染みがないので、二人はちゃんと答えることは出来なかった。
『今回の事はあまり嬉しくなかったが、命を張りたい人向けの道を作ることになった。あっちの道は今までと同じだけど、そっちの道は外と同じように戦えるようにした』
振り返ったゴブリンは背後で焼けた肉を持って立ち尽くす将軍ゴブリンと目があってしまう。
『ごめん忘れてた。お皿に置いてくれる?』
しょんぼりとした雰囲気でお皿に取り分けるのを見ながら話を戻す。
『経験より物が欲しいなら従来のルートで進むといいよ』
「随分親切なんすね?」
『別に入り口を作らなくても良いんだけど、人を出入りさせた方が簡単だから』
『他にはあるかい?』
「研究者が話をしたがると思うが、そいつらを連れてきてもいいのか?」
『良いよ。でもその時は俺意外が対応するかもしれないけど』
「他に聞きたいことが出来たらまた聞きに行く」
『もう帰る?じゃあちょっと試験を手伝ってよ』
「試験?」
ジョフが聞き返す。
『以前君にぼこぼこにされた子が復讐したいって張り切ってるんだ』
「戦えばいいんだな?」
『そう。で、君にはどちらが勝つか賭けてもらおうって話』
ゴブリンはキースの方を見ながら説明をした。
「場所は?」
『同じ場所で、同じ方法で』
指差す方向にはかつてゴブリン達を殴り倒したリングがあった。
「それで、どうするんすか?」
帰路。
キースはそう訪ねる。
「主は争いを好まない。それくらいは言うかもな」
「そんなもんッスかね」
「迷宮主の後ろに控えてたゴブリン、あれは将軍より上だと言っても信用されないだろ」
「それもそッスね。弱そうなゴブリンが上位種を従えてるとか不気味でしょうがなかったッス」
「この小盾にも何か効果があるんだろうなぁ......説明が面倒だ」
「言わなきゃわかんないっしょ。ギルドじゃこのメダルも変哲なしって鑑定されてましたし?」
「それもそうだな。じゃ、報告が終われば酒でも飲むか。お前の奢りでな」
「そこは平等じゃないんスか?」
「五回、手持ち全部賭けてたよな?」
「豪快に使って宣伝ッスね!」
二人の足取りは軽く、弾むほどだった。