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プロローグ




 サイレンが鳴り響く中を僕は悠々と歩いていた。

 僕が歩いた後ろでは爆発が起きている。倒した兵士達が燃えているのがわかる。さっきの兵士から拝借した手榴弾のピンを抜くと前方へと投げた。もう一度大きな爆発音があたりに響き渡ると、僕のための道が出来上がる。

 目指しているのは、この建物の最深部にいるターゲット。この軍事企業の社長だ。上司の指示に従って僕はターゲットを暗殺する。どんな場所にいるどんな人間であろうと殺す。多数の私兵を有するこの企業はなかなかセキュリティが高いのだろうが、人間を辞めている僕の敵ではない。

 爆破された壁の向こう側から三人の兵士が煙の中へ飛び出してくるのが、目に埋め込まれた赤外線センサーでえた。彼らは暗視ゴーグルもつけていないようなので、無防備に飛び出てきたところを一人目の顎に右ストレートを食らわせ気絶させると、流れるように彼から銃を奪って、三人の脳天に弾丸を仲良く二発ずつ撃ち込んで無力化した。あまりに一瞬だから、彼らは自分が死んだことにすら気づいていないんじゃないだろうか。

 声もなく倒れた兵士達の上に借りた銃を放り投げると、僕は前進を続ける。本国の人間が『人間戦車』と称したように、僕は歩いた後に破壊と殺戮だけを残して突き進んだ。

 八十三体の死体と十五回の爆発を背後に残して、僕はタイタス社の社長の前に手ぶらで立っていた。

 ジュラルミンケースを胸に抱えながら二人の黒スーツのボディーガードに囲まれているのが、僕のターゲット。ヘリに乗ろうと屋上に来たはいいけれど、あまりに早い僕の侵攻に驚いているようだ。砂漠のど真ん中に取り残された彼らは僕に狩られるのを待つだけだ。彼らにヘリなどに乗る暇はない。

 社長にすぐヘリに乗るよう指示をすると、二人のボディーガードが銃口を僕に向けた。その動きに無駄はなく、選りすぐりの護衛なのだろうとわかる。けれど、所詮は訓練しただけの人間だ。彼らのことを、僕はくまなく感覚していた。

 皮膚に縫い付けられた、温度、風圧、磁場、放射線などを感知する各種センサー類の情報が、脳に埋め込まれた拡張神経細胞を経由して僕の意識に上る。銃の射線、風による影響、コリオリ力の影響、二人の指が引き金を引く瞬間。全てを感覚し、計算している僕にしてみれば、どんな銃弾でも撃たれる前に避けられる。

 火薬が爆発する音が屋上に響き渡る。薬莢が鋭い金属音を立てて落ちる。僕は軽く体を傾ける形で避けていて、ボディーガード達が放った弾丸は当たらない。

 撃った反動で銃口がブレる。そのブレをスローモーションのように感覚しながら、一歩足を前に出す。

 間髪入れずに射出された二発目を、同じように最小限の動作で避ける。

 さらにブレる銃口。人差し指が再び引き金を引く。弾丸を避けながらもう一歩前へ。

 ボディーガード達の連射がコンマ数秒止まる。彼らの驚きを発汗と呼吸から感覚する。二人が放った計六発の弾丸は遠い虚空に消えた。次の弾丸が発射されるまでの刹那に数歩近づく。

 二人は焦りを見せながら引き金を引き続ける。反動によるブレも気にせずに、まるで化け物を相手にするみたいに狂ったように連射する。僕は軽くかわしながら一歩づつ近づく。

 これ以上は近づけないな。七歩ほど前に進んだところでそう判断した。これ以上近づけば弾丸の速度に体の速度が追いつけない。いくら弾丸を正確に感覚できても身体の性能に限界はある。それは仕方のないことだ。弱点じゃない。自分自身の性能の限界を正確に把握すればいいだけだ。

 その場で軽くステップを踏みながら、飛んでくる銃弾を避け続ける。空を切るだけでかすりもしない。彼らの足元に溜まっていく薬莢。そして、カウントが十五になったところで、銃の上部のスライドが開いて止まった。弾切れだ。

 虚しくトリガーを引く人差し指。楽しい時間もおしまいだ。右の男の元へ一足飛びに近づくと、右足のかかとで男の顎を蹴りつけた。前蹴りを食らった男は脳震盪を起こしてそのまま後ろへと倒れていく。顎を撃ち抜くように蹴り上げた右足を空中で一度体に引きつけると、体幹の回転に合わせてひねり、そのまま左の男の側頭部へと回し蹴りを叩き込んだ。

 左の男は、同僚が顎を蹴られて吹き飛んでいることに気づくよりも前に気絶した。意識を失って重力のなすがままに物理運動をする肉体が二つ。

 どさりと音がして、屈強なボディーガードはあっけなく倒れた。社長が恐怖のあまり動けないでいる間に、片方の男の拳銃を拾うと、男の装備の中からマガジンを探してリロードした。脳天に二発づつ。障害を排除すると、ターゲットの社長と向き合った。みっともないほど足が震えているけれど、仕方のないことだ。今までのターゲットだって同じようなものなのだから。

 「さようなら」

 そう呟くと、有無を言わさず射殺した。念を入れて三発。銃声がこだました。








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