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歴史の守り人~鬼を斬った男~


 火属性の魔法に水魔法を合わせると蒸気ができるよね。蒸気っていうのは圧縮するとすごい力を発揮する。水魔法を蒸発させた蒸気をうまく圧縮して、指向性を持たせれば、物理+熱の攻撃魔法、スチーム。


「ねえ、たっちゃん」


 いや、それならば水魔法で生成した水を雷属性の魔法で分解。水素を作ってそれを爆発させればエクスプロージョン! いや、こっちは着火と言う新たな問題が。


「たっちゃんってば!」


「うっせーな! 今全力で現実逃避してんだよ! 邪魔すんな!」


「けど、時間、押してるし」


「なに業界人みたいなこと言ってんだよ! このダメガエル!」


 そう、僕はいま、1561年の川中島にいるんだ。ここで明日、武田軍と上杉軍がすっごい戦争するんだって。そして僕の隣にはなぜかカエルの姿の晴さん。

 ガマガエルだかヒキガエルだかは知らないが結構大きなカエルだった。ふふっ、もうそんなことぐらいじゃ驚かないんだ。だってうちにはカメの姿のかぐや姫が住んでるからね。


「もう、そんな言い方しなくてもいいじゃない! おじさんだって必死に考えてるんだよ?」


「ざっけんな! そもそもオメーがつまんないこともちこんでくるからだろ! 何とかしろよ、名将なら!」


「名将だって無理なものは無理なんですぅ! しかし、ひどいよね、かぐやちゃん」


 そう、僕がなんでこんなに荒れているかと言えば、すべてはあのクサレガメのせい。あいつ、俺たちをこんなところに送り込んだあと、「これからニコ生みるから邪魔しないでね」と通信を切りやがった。どーすんだよ! これ!


「とにかくさあ、できる事を考えないと」


「まあ、そうですけど。けど、できる事って言っても。あ、そうだ、晴さん、晴さんの腹心的な人に訳を話して信玄公の所に連れて行ってもらうってのはどうです?」


「うーん。難しいかなぁ。おじさん、嫌いな人多いし。ほら、あそこの旗印、赤い鎧の連中いるでしょ?」


「ええ」


「あれがね、飯富の赤備え。おじさんのとこじゃ一番の精鋭なんだけど、あそこの大将、飯富虎昌ってのがさ、一人で90の首を挙げた事もある、あったまおかしい人なのよ。いっつも怖い顔でおじさんに文句ばっかり言ってさ。けど相手は大量殺人者だからね、おじさんも怖いわけ。ほんと大っ嫌い!」


「あはは、そういうのってありそうですよね。じゃ、あっちは?」


「ああ、内藤君ね。あれもさ、くらーい顔でネチネチ言うのよ。いくさとかまつりごとしか興味ないつまんない奴な訳」


「な、ならあっちは?」


「馬場ちゃんね、はいはい、馬場ちゃんはさ、結構仲良かったんだけど、ある時お菓子の取り合いで喧嘩になっちゃって、それ以来口きいてないの。頑固でね、普通に謝ればいいのにさ」


「はぁ、んじゃ、あそこ。武田菱の旗ですよね。親族かなんかじゃないんですか?」


「信繁かぁ。あいつ堅物だけどいい奴でね。けどこのいくさで死んじゃうから。あそこはやめといた方がいいとおもうなぁ」


「あんた、いい加減にしろよ! それじゃどこにもいけねーだろ!」


「仕方ないじゃない。嫌いだったんだし」


 そんな事でもめていると5人ほどの赤い鎧を着た男たちがやってくる。



「あ、ども、怪しいもんじゃないんで」


「んだ? おめえ、どこの衆のもんだ?」


「あ、いえ、未所属? これから決めるっぽい感じ?」


「なあ、元吉、これ、上杉の間者でねーか?」


「ん。俺もそう思っとった。辰、捕まえとけ!」


「また俺でねっか、ずるっちいな、おめえらは」


「こんなのは若い奴の仕事だべ? へんてこな鎧着てんだ。捕まえりゃ手柄になっかもな」


「んだば俺がやるべ! 辰、おめえは引いとけ」


 そう言って前に出た武者は問答無用で僕に槍を突き立てた。だが、槍はカチンと音を立て、鎧に弾かれる。


「おめ、良い鎧着てっでねえか。それは俺のもんにするべ!」


「三郎太、ずっちいぞ! そりゃ俺のもんだべ!」


「うわぁぁぁ!」っと声を上げ、カエルを掴んで走り出す。やばい、やばいよこの人たち、完全に僕の事鎧の付属物だと思ってる! そういう目、してるもの!


「あ、逃げんでねえ! 辰!」


「任しとけ!」


 辰と呼ばれた若者がものすごい勢いで僕を追いかけてくる。


「名将! 名将! 何とかして!」


「無理無理! とにかく走って! それよりたっちゃん! 手を緩めて! おじさん、首しまってるから!」


「すばしっこいな、この!」


「逃がすんでねっど!」


「誰に言ってんだ! 俺が逃がすわけねえべ!」


 いやぁぁぁ! 完全に人殺しの顔だもの! そういう顔してるもの! だが僕は元陸上部、なんて都合のいい設定もなく、ただひたすらに足を動かした。ばしゃばしゃっと川を渡ると向こうに人の影が。


「た、たすけて! たすけてくださーい!」


 その人たちは僕に気が付いてくれたみたいで槍を構えて赤い鎧の人殺したちに向かっていく。


「ほれ、おめえはこっちさこい」


「はい!」


 ところが赤い鎧の人たちはあっという間に向かっていった人たちを槍で刺し殺す。


「敵だぁ! 出合え、出合え!」


 僕の手を握った人がそう叫ぶと次々と鎧武者が現れる。


「深追いすんなって言ってんべ! このバカ」


「んだ、これ以上やっちゃ、虎昌さまに叱られっべ」


 僕を追ってきた若い人はあとから来た連中に小突かれながら悠々と戻っていった。


「あ、ありがとうございます!」


「ん」


 助けてくれた人はそう言って僕に縄をかけた。



 はい、現在地は上杉本陣の妻女山です。武田信玄の本陣とある意味世界で一番遠い位置かもしれないですね。ははは。


「かぐやさん! かぐやさん! お願いだから応答して! マジやばい、超絶やばいから!」


 しばらくするとポンと目の前に画面が開き、そこにソファに寝っ転がってせんべいをかじるカメの姿が。


『なによ、うるさいわね。今良いところなんだから』


「こっちは大ピンチですよ! 聞いて!」


『はいはい、大げさねえ』


「今、どこにいると思います? なんと、上杉の本陣なんですよ! しかも見て、ほら、縛られちゃって!」


『はぁ? 何やってんのよ、っていうか晴信は?』


「それが、全く役に立たなくて! ほんとダメガエルなんですよ!」


「ちょっと、たっちゃん? そんな言い方しなくったって」


「事実だろうーが! あれはダメ、こいつは嫌い! オメーがもうちょっと人間関係うまくやってりゃこんなことにはならねーんだよ!」


「仕方ないでしょ! おじさんだって、まさかこんなことになるとは」


『はいはい、仕方ないわね。そっちにうちの常駐スタッフ送るから。あとはそいつとうまくやりなさい。じゃ、そういう事で』


 ブツンと画面が消えるとそこに着物に袴姿の隻眼の男が立っていた。


「んで、俺がそのスタッフって訳だ。人使い荒れーよな、姫も」


「え、えっと。誰ですか?」


「ふふ、誰か当ててみろ。ま、俺はいわゆる英霊だからな。ヒントはこの隻眼にこの刀、髭切だ」


「あ、わかりました! だ」


「伊達政宗じゃねーから、言っとくけど。そっちはどうだ? 大膳大夫たいぜんだゆう?」


「うーん、難しいね」


「おいおい、信玄公ほどの人なら知ってて当然だろ? まあいい、俺は渡辺綱わたなべのつな酒呑童子しゅてんどうじ退治で有名な英霊だな」


「えっと、酒呑童子?」


「あーもう、これだから無教養は! 金太郎、知ってんだろ?」


「ええ、まあ」


「アレの先輩だな。俺は」


「へえ、すごいじゃないですか! 桃太郎で言えば犬ポジション?」


「そうね、たいしたもんですよ、おじさんもそう思う!」


「ざっけんな! 桃太郎で言えば俺が桃太郎! 金太郎が犬とかさるとか、戦隊もので言えばレッドが俺な訳!」


「そうなんですか、僕はてっきり脇役の人かと」


「あのな、俺は御伽草子にも書かれたすっげー有名な人なんだよ! そうだな、達也って言ったか?」


「はい」


「おめえの時代で言えばあれだ、」


 そう綱さんが言いかけたとき、見張りがやってきて、俺に握り飯と水をくれた。


「なーに一人で騒いでんだ? 大人しくしとかなきゃダメだべ?」


「あ、はい、すみません」


「殿様があとで連れて来いって言ってた。それまで大人しくしとけ」


 そう言いながらも上杉の兵の人は僕の縄を解いてくれた。


「余計な事しなきゃ縛らねえでもいいんだ。わかんな?」


「はい、ありがとうございます!」


 ちなみに僕がいるところは仮小屋の一つ。元々物置みたいなところだ。見張りの人は外から鍵をかけるとどこかに去っていった。


「ふう、あぶねえところだったな」


 綱さんの声はすれども姿は見えず、ふと下を見るとそこにでっかいアマガエルがいた。


「あの、カエルにならなきゃいけないルールとかあるんですかね?」


「ばっか、どうせ化けるなら愛らしい生き物の方がいいだろ?」


「そうね、おじさんもそう思うよ」


 ま、人の趣味はいろいろだからね。


「で、話の続きだ」


 僕としてはそこは非常にどうでもいい事なのだが、カエルの綱さんは僕に出された握り飯をかじりながら話を続ける。非常に今更だけど、胡坐をかいて飯を食うカエルって一体。


「おめえの時代で言えばな、俺は五木ぐらいは有名だな。五木、知ってんだろ?」


「えっと、どの五木っていうか」


 これだよこれ、そう言って綱さんは手に付いた米粒を舐めると立ち上がり、ギーガシャン、ギーガシャンと言いながらロボットダンスを披露した。


「な? うめえもんだろ? 五木はこれが得意なんだ」


「えーっと、僕の知ってる五木とは違うかもですね」


「ばっか、五木っていえばこれだろ? 四天王なんて呼ばれて。ま、俺も四天王だからな」


「えっとちなみに、残りの三人は?」


「金太郎、坂田金時に、卜部と碓井だ」


「いや、そっちじゃなくて五木のほうです」


「なんだ? 知らねえのか? まずは森だな。こいつはサイレンの真似が得意でな、今じゃルパンなんて呼ばれてやがる。次は谷村だ。顔にセロテープはった変な奴でな。たまに研って女に入れ替わる。そして最後は料理のできるデブと女たらしのハゲのコンビだな」


「それものまね四天王! 五木に失礼だろ! マジで! しかも古いし!」


「お、そうなのか? ま、そのくらい有名って事がわかりゃいいんだ」


 確かに五木は有名だし、ものまねの方の顔のでかい男も有名だ。つまり綱さんは世間ではコ〇ッケくらいの認知度があると言う事だ。


「で、綱さん、この後どうするんです? この名将は全く役に立たなくて」


「もう、たっちゃん?」


「ま、あれだ。さっきの見廻りが言ってただろ? 謙信公が直々にって」


「そんなこと言ってましたね」


「俺も色々見てきたが、信用って面じゃ謙信公が一番だ。なんせほとんど口きかねえからな。だからよ、この際洗いざらいぶちまけちまえ。それで、謙信公に便宜を図ってもらうんだよ」


「謙信公って、現在戦争してる相手ですよね?」


「別に信玄公のケツに薬塗るのが武田勢じゃなきゃいけねえ、なんて決まりはねえだろ? 軍使かなんかにしてもらえば訳なく武田本陣に行けるってもんよ」


「うん、おじさんもそれが良いと思う。謙信公とも話してみたいし」


「へえ、晴さんもやっぱりそういう思いってあるんですね」


「そりゃそうよ、龍と虎、そう言われた両雄よ? 話したいことはそれこそいっぱいあるの!」


「ンじゃ決まりだ。引き出されるまではおとなしく寝とけばいいさ」


 綱さんはそう言ったがその時は意外に早く、すぐに僕は上杉謙信の前に引き出された。カエルの二人はごそごそって僕の鎧に入り込んだ。晴さんはまだ硬い感じの皮膚だけど、綱さんはぬめぬめして気持ち悪かった。




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