摩訶不思議な
午前6時50分、6時55分、7時と設定された目覚ましのアラーム。何度も何度も、携帯のアラームが彼を起こそうとしていた。四度目のアラームでようやく、大原春海は目が覚めるのだ。重い体を起こし、彼が起きて先ず一番にすることは、トイレに行くこと。次に水を飲み、コーヒーを淹れる為にお湯を沸かし、その間に携帯をチェックしながら煙草を吸う。ちなみに彼は一日に二箱煙草を消費するヘビースモーカー。マルボロメンソールライトを一日に四十回も愛でている。重い喫煙者だ。
「またこいつか・・・」
夜中に何度も着信履歴を残した女の名前を見て、春海は呟いた。彼は独り言も多い。特に家にひとりでいる間は、外にいる間よりも多い。さらに悪口も多くなる。賢い人間は独り言が多い、と昔、馬鹿が言っていたことがある。じゃあその馬鹿は生涯独り言を言うことはないだろう。
春海が一本目のマルボロを吸い終える頃、お湯は沸く。ブラックコーヒーを淹れ、それを飲みながらもう一本のマルボロを吸う。今度は携帯を見ながらではなく、朝を迎え動き出したコンクリートジャングルと、その住人たちを見ながら、だ。
大きな溜息をするに近い伸びをし、ふと彼は呟く。
「昨日は3時間か・・・」
春海は不眠症という大きな悩みを抱えていた。午後、仕事にしっかり集中できないことが辛かったし、何よりも目の下にできた隈がいちばんの悩みだった。メラニン色素の問題だかなんだかで、目の下に一度できてしまった隈はもう一生取れることがないからだ。レーザー治療でもなんとかならないものだろうか。神経質な春海にとって、それは辛いことであった。
なぜ、彼が毎晩寝られないのかというと、そこには幾つもの理由があった。