初めての商売
少し文章を変更しました3/12
翌朝俺はルークと出会った酒場に来ていた。
ルークの姿は見えない、今日は居ないのかと帰ろうとするとルークが入って来た。
「おはようございます情報屋さん。」
「あれ、もう僕に仕事の依頼かい?」
ルークは特に驚きもせず当然のように話す、予想道理な展開って事なのかと思ったが今は如何でもいいかと思考を切り替えた。
「早速で悪いんだけど今度装飾品の露店をする事になったんで何か良い情報持ってない?」
「露店で儲かる情報ね……」
ルークは頭を掻きながら考える、正直この手の話しはルークには興味がない話しでもあった。手っ取り早いのは商人に訊いた方が良いのだがそんな事を聞きたい訳でもないだろう。
ルークは考えた末に一つのアイディアが浮かんだ。
「この前君達の噂話を話しただろう。」
「そうだね、美少女冒険者だとか何だとか。」
『なんか面白そうな事を考えていそうだね。』
ソフィが面白がるが俺には何だか嫌な予感しかしないぞ。ルークの話は噂話を逆手にとり俺達の知名度と装飾品の出来を宣伝するという物だった。
『簡単にすると、アスナが広告塔にり街を練り歩き今後の露店の布石をする訳だな。』
「(俺としては広告塔なんて勘弁して欲しいがレジーナさん達の為だ仕方ないと気合いを入れる。)」
「僕が情報を拡散してあげるよ、もっとも何処まで良い噂が広まるかは君達次第だけどね。」
俺はルークに噂拡散の依頼と情報料を払って店を出る、まずは二人にこの事を話さないと。
宿に戻りサヤとロイにルークと話した作戦を伝える。ロイもサヤも俺の話を聞いた途端張り切りだしどんな格好にするか話しだした。サヤの顔が恍惚の表情を浮かべているが気にしては駄目だと思う事にする。兎にも角にも今日は一日俺を着飾る準備に充てられた。
「この服が良いと思わない?」
「いや、装飾の事を考えるとこっちの方が俺は……」
二人は真剣に話合いを続ける、ロイよ此処は女物の服を扱うお店なのによく堂々としていられるな。俺は服がどうこうの話しよりこの店に居る事が落ち着かないよ。だって普通の服だけじゃなくて下着まで置いてるんだぞ。
元男の俺には敷居が高い、此処で女になったのだからと喜ぶ奴は変態だよ。
「アスナも見てるだけじゃなくて試着して!」
俺はサヤの剣幕に押されて着せ替え人形の用にひたすら試着を繰り返す。
『フフ、神様も面白がって見てると思うよ。』
ソフィが完全に傍観者として見てる、終わったらドラゴンの丸焼きにするぞと心の中で毒づき溜息を吐いた。
サヤとロイ、何時の間にやら店員やお客を巻き込み品評会に発展。
「御客様には此方の方が……」
「センスないわねー、こっちの方が断然良いわ!」
「何言ってますの、この艶やかな路線の方が……」
噂は着々と広がっている、良い物も悪い物も。
夕方まで品評会は続き、ようやく収まると宿に帰って今度は装飾品選びに移行、結局夜遅くまで俺の着飾り作戦は続いた。
今日も朝から大忙し、宿の女将に手伝ってもらい髪型だの化粧だのと俺は弄繰り回されている。最初の抵抗も此処まで来ると何処かに行ってしまったようだ。綺麗になっていく自分を鏡越しに見ながら自分の綺麗さに見惚れそうになっていた。
『おお!綺麗になったねアスナ。』
「綺麗だよアスナ♪」
「・・・・・・」
三者三様の反応を俺に返してくる、ロイはどこか茫然とした感じで俺を見てる。初めて自分の顔を見た時から美人だなと思っていたが此処までとは、神様が人気者になれるぞと押していたのも肯ける。あの時は男として頼んでたけどな。
「早速街を練り歩こう!」
俺とサヤは腕を組んで街中を歩く、腕を組む必要はないのだがサヤがしたがったのでそうなった。街中を歩くと周囲の視線が集中する、最初からそれが目的ではあったがいざとなると困惑する。
以前の俺ではこんなに注目を浴びる事なんてなかったからな。
女性の視線はまだいい、見惚れてたり羨望の視線も嫉妬の視線もまだ許容範囲内だ。だが男共の視線だけは気持ちが悪い、女性は男の視線に敏感だって聞いた事があるが本当なんだな男共が何処を見てるのかが手に取るように解る。其の所為で余計に気持ち悪さが増大してしまう。本人達は気づかれてないと思ってそうだがな、俺も以前は美人を見ると目で追っていたから気持ちは理解できるが自分の事となると話は別だ。
『男は単純だね、胸と尻を舐めるように見ているな。』
「(解ってるから言わないで、寒気がする)」
俺は全神経を集中して鉄の心で歩き続けた。
「アスナ、そろそろ何処か店に入ろうか。」
サヤの先導で宝石などを扱うお店に入る。お店の中は綺麗で高そうな宝石が並び、お金持ちしか入れない場所なのだと思わせる。
「いらっしゃいませ。」
揉み手をしながら小太りのオッサンが現れた。コイツも胸元に視線を向けてくるが我慢だ。
「何かお探しですか?」
「ううん、ちょっと中を見させてもらうね。」
俺達は宝石を一つ一つ観察する、鑑定眼で見る感じだとどれもランクC止まり、効果もないし完全に唯の宝石のようだ。見た目ではレジーナさんの作る装飾品の方が劣るが性能でいえば完全に上だな。
その後も色んな店を歩き回りお昼になって人が大勢いる大衆食堂に入る。
俺が入ると今まで賑わっていた店の中が静寂に包まれた。
サヤはそうなるだろうなと予測していた、アスナの姿は美人なだけではなく気品と傅かせるような力強さに溢れているから。皆呼吸する事さえ忘れたかのようにアスナを見る、良い感触だと心の中で喜びながらアスナを席に誘導した。
「何だか凄い反応だよな。」
アスナは妙に男っぽい喋り方をする、それも魅力的なのだが。
「当然だよ、アスナの美貌は種族問わず老若男女に影響するんだから。」
あたし達が席に着くと周囲の人達も我に返り普段の賑やかさを取り戻す。
アスナはまだ周囲の視線に慣れないみたいだね、羨望や嫉妬の視線だけじゃなくて性欲的な視線もかなり混じってるから仕方ないよね。
アスナには初めて会った時から惹かれる物がある。美人な事もペットに子竜を連れている事も。だけどそういった見た目よりアスナには自分と同じ物を感じた。『自由に楽しく生きたい』そんな気持ち。
アスナはちょっと頼りない、周りの視線を気にし過ぎてるような上手く言えないが母性本能を擽られるとゆうか兎に角、守ってあげたくなる。
あたしはアスナに性欲を向ける下種共に注意を払いながらアスナとの食事を楽しむ。
アスナに手を出したら生まれた事を後悔するほど痛めつけてやると周囲に呪詛を飛ばした。
『何だかサヤから不穏な空気を感じるね。』
「(そうだな、此処は知らない振りをしていよう)」
俺はサヤから感じる黒いオーラを見なかった事して食事を取る事にした。
夕方になり宿に帰って噂の経過をルークから訊く。
「いやぁ思った以上に反響が凄かったね。」
「それで噂の拡散は順調なの?」
「それが僕が何もしなくてもどんどん噂が広がっているよ。」
この調子なら露店を開いた時見に来てくれるお客も少しはいるかなとアスナは考えていたがこの予想は後々間違いだと気付く事になる。
翌日俺達はロイが準備していた場所に露店を設営していく。簡単な市場みたいな物なので準備は一時間もあれば完成した。
「頑張って完売するぞロイ、サヤ!」
「おう、伊達に姉ちゃんの手伝いしていた訳じゃねぇからな。」
「まかせなさいアスナ♪」
俺達は気持ちも新たに気合いを入れて営業を開始した。
最初は完売を目指すと言っていながら数個売れたらいいな位の気持ちでいたが蓋を開けるともの凄い数のお客が押し寄せてきた。
露店を開いてる広場には大勢の人だかりができて次々に商品を手に持った奥様方が買い漁っていく。俺とロイは接客の対応に追われサヤには並んだ人達の対応を任せる。お昼を過ぎた頃には完売になるが完全に予想外な展開に俺達は喜びながらも疲労困憊で宿に引き上げるのだった。