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異世界でアトリエ始めます。  作者: 小雪
第二章:工房編
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クロノ

工房を買ってから一カ月が過ぎ季節はすっかり夏になりました。俺達はギルドで依頼を受けたりレジーナさんの所で修行したりと変わらぬ日々を送っている。



「特に良さそうな依頼はありませんわね。」

「最近討伐依頼が少ないよね。」


サヤの言う通り最近は討伐依頼が少ないのだ、何故かって?それは俺達が依頼以外の魔物も狩り過ぎた事が原因らしい。基本冒険者はその日暮らしの根なし草、依頼を受けてお金を稼げば大概使ってしまい、無くなればまた依頼を受ける。日本でなら確実にダメ人間扱いなのだ。


住民的には近隣から魔物が減るのは良い事だがギルド的には仕事を独占されると困る、しかし積極的に魔物を狩るのは推奨したい、中間管理職のような板挟みに遭う支部長の苦笑いに俺は内心謝罪した。


「アスナちゃん達はよく働くな。」

「本当、本当、もう少し肩の力抜いてもいいんじゃねぇか。」

「そうそうこの暑さだ倒れちまうぞ。」


ギルドに居た同輩が心配してくれる、俺が「お気遣いありがとうございます」と頭を下げると一様に微笑ましい物でも見るような視線を向けてくる。


「ガハハハハッ!嬢ちゃんは相変わらずだな。」

そう言って笑うのが以前魔族討伐の時に会った通称鮮血のガレスさん、名前は物騒だが気の良いおじさんだ。因みに俺の通称は『暴剣のアスナ』俺が大剣を軽々振り回す様からきてるらしい。


「ガレスの爺さんはお店に居なくていいわけ?」

「別に構わねえよ、文句言う奴はわしが張り倒してやる。とゆうか爺さんはよせ、わしはまだ120歳なんだからな。」

「十分お爺さんじゃんっ!」


サヤのつっこみは当然だと思っていたが、後々ソフィにドワーフの寿命は250歳程だと聞いて驚愕した。自分、エルフの寿命が最低でも500歳以上と聞いて眩暈を引き起こして暫く寝込んだのは言うまでもない。


「それで嬢ちゃん達は何か依頼を受けるのか?」

「う~ん、今の所無理する必要はないですし止めとこうかな。」


俺が腕を組んで考え込むと後ろがざわめく。振り向くと此方に微笑みなから近付く男、何処かで見た覚えがあるんだが俺が首を傾げるとサヤが口を開く。


「あれ?魔族討伐の時アスナを背負った人だよね。」

「そうなのですかサヤさん!」

二人は顔を近づけて何事か話をしてる。その間に彼は近くまで歩み寄った。

「久しぶりですね、あの時以来でしょうか。」

「あの時はありがとうございます、え~と」

「クロノと申します。」

「クロノさんですね、わたしは……」

「アスナさんでしょ、知ってますよ。」

う、何だか恥ずかしいな。彼の印象は礼儀正しい人って感じだ。


「(アスナアスナ、気を付けて乙女の勘が危ないって警告してる。)」

サヤがそう耳打ちしてくるが俺には何が危ないのか理解できていなかったがひとまず肯いた。


「アスナさんが治療して頂いた仲間も完全に治りました、本当に感謝致します。」

「いえいえ、そんな大袈裟な」

「そんな事はありません、宜しければ御礼をさせて頂ければと」


俺は気にする必要はないと何度も断ったのだが結局、後日御礼に伺うと帰って行った。離れて見ていた支部長や他の冒険者も微妙な顔を浮かべている。隣ではサヤが入口の方に威嚇しエレナさんが鋭い目付きで同じ方を睨んでいた。






俺はギルドで二人と別れレジーナさんの所に向かっている。最近二人に言葉遣いや仕種などを矯正されている、以前は自分の事を俺って呼ぶのも個性だと思っていたらしいが中身が男だと知って少し女性らしい振る舞いも覚えた方が良いとエレナさんが提案したのだ。

精神は肉体の影響を受けると聞いた事があったが本当のようだ、最近自分の体を意識する事も減った気がする。精神の女性化が進んでるのか、まぁ今更男に戻れる訳ではないのだから本来は良いのかもしれないが複雑だな。


レジーナさんの工房は都心と俺達の工房の中間くらいにある。最近コーネリアから買い付けにくる商人が来るようになったとレジーナさんが喜んで話していた。以前の宣伝計画の影響が残ってるらしく、俺の事を尋ねる人もいる様だがレジーナさんが上手く誤魔化してくれていた。


「こんにちは、ロイ。」

「アスナか……」

「冷たい、何その反応!」


俺はロイの頬をぐりぐりした。ロイは「恥ずかしいから止めろ」なんて叫んでるが俺は関係ないとロイの頬を弄り続けた。


「仲が良いね~、いっその事結婚でもしちまうかい?」

「御遠慮させて頂きます。」

「何も言ってねえのに断られた!!」

軽い漫才をしながら店番を交代する。俺が自分の工房を持った事もあって現在ロイが修行中なのだ。今後レジーナさんから卒業試験的な物があるのだが今は内容を知らされていない。


レジーナさんの工房は基本暇だ、用も無いのに来る場所ではないのだから当然といえば当然。奥から聞こえる怒声を聞きながら試験の事に意識を向けていた。




改装したお風呂は檜の香りがして良い気分です。最初の状態では一人くらいしか入れなかったけど今なら三人はで入っても平気だ。魔法を使えば準備も簡単だし日本の時より良いかもな。ソフィの体を洗ってあげてると二人も入って来た。


「アスナの背中流してあげる♪」

「今日は私の番ですわ。」

「二人とも、今更だけど羞恥心とかないの?」

二人はお互いの顔を見合わせ、別に気にしないと体を密着させてくる。

「アスナはあたし達を見て欲情するの?」

「直球だなサヤは、まぁ少しはする……かな。」

サヤはにやけ顔で擦り寄り、エレナさんが艶っぽく胸を押しつけてくる。何処のハーレム主人公だよ!!

俺の困惑を余所にソフィが気持ち良さそうに湯船に浮かんでいた。





俺は今三人でデートをしている、三人でもデートと呼ぶのかは謎だが。


「アスナさんこれなんてお似合いですわよ。」

「え~、アスナにはこっちの方が合うよ。」

エレナさんが持ってる服は露出度がかなり高く胸元が大胆に開いていてお臍が見える女を意識した服だ。

サヤの持ってる服も露出は結構あるが動き易い爽やかな印象を受ける。俺はサヤの進めた服を買い店の奥で手早く着替えた。


「キャ~♪似合ってるよアスナ!」

「そ、そうかな。」

少し照れくさいな、スカートも短いし。でもこうやって買い物するのも悪くないな。


「次は露店市を見に行きません?」

「露店か、いいんじゃないかな。」

「じゃあ早速レッツゴー♪」


露店市は多くのお店とお客で賑わっている、変てこな置物から希少な物まで多種多様な物が並んでいる。

「私はよく露店市を見て回るんですの。」

「何か探し物でもあるの?」

「いえ、ただこうして見て回るだけでも楽しい物ですのよ。」

「何か以外だな、エレナさんってそういう無駄な事しなさそうなのに。」

「あら、こうしてるのも無駄じゃないんです、偶に掘り出し物に出会ったりするんですのよ。」


その後暫く見て回るとエレナさんがあるお店の前で立ち止まる。其処には可愛いぬいぐるみや人形が置かれている。エレナさんの顔を覗くと目を輝かせてある一点を見詰めている、其処にあるのは猫の様な白い動物のぬいぐるみだ。


「破壊的な可愛さですわ。」

「他のぬいぐるみとそんなに違わないと思うんだけど。」

サヤにはよく分からないらしい、まぁ俺もそうだが。

「これはかの有名な………」

エレナさんは嬉々とした表情で話し続け、その後店主がもう帰ってくれと懇願するまで延々と続くことになる。



「もうエレナのせいで恥かいたよ。」

「何処が恥ですの、この至高の……」

「ハイハイそこまで、次行くよ。」

「待ってよアスナ」「待って下さいアスナさん」


デートは概ね良好、途中でナンパ野郎が来たりサヤが賭け試合で大負けしたりとあったが楽しい一日だった。三人で今日の事を話しながら家に帰ると家の前にクロノさんが来ていた。


「如何したんですかこんな時間に?」

「この間話した御礼をと思いまして」

「そうですか、すみません待たせてしまって」

「気にしてませんよ、此方が勝手に来たのですから」


クロノさんを居間に案内して紅茶の準備をする。二人は何やら面白くないようで表情が硬い。クロノさんとそんなに相性が悪いのかな?前にサヤが気を付けろって言ってたし何か感じる物があるのかもしれないな。


「どうぞ。」

紅茶を飲み微笑む。相変わらず冒険者っぽくない人だな。

「三人で住んでるんですか?」

「はい、一カ月程前からですが」

「良い家ですね綺麗で美しい三人にはお似合いです。」


サヤとエレナは男を警戒していた。喋り方といい表情といい、この男を信用してはいけないと訴えている。サヤとエレナはこの時ばかりはお互い協力してアスナを守らなくてはと目で伝え合った。


「長々と話してしまいましたね、アスナさんこれを……」

渡されたのは小さい木箱、中には綺麗な指輪が収まっている。

「え~と。」

「感謝の気持ちです、良かったらお受け取りください。」

指輪って何だか意味深だな、でも受け取らないのも失礼か。俺が箱を受け取ると満足そうに微笑み衝撃の一言を告げた。


「アスナさん、僕とお付き合いして下さい。」

「え、ええええええぇぇぇぇぇぇぇっっ!?」


驚愕に目を見開く俺と、険しい顔で睨む二人を余所にクロノは微笑み続けた。


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