商会ギルド支部長
俺達は支部長の部屋を出るとその足で以前宿泊していた宿に向かう。
「やっと帰ってこれたね。」
「そうだね、ハーピーと戦ったり露店で商売したりと忙しかったな。」
『僕は其れなりに楽しんだけどね。』
三者三様の感想を語り宿までの道を歩く、そういえばルークに挨拶してなかったな。まぁ情報屋と冒険者の関係ってだけだし律儀に挨拶しなくても平気かな。俺は澄み切った青空を見上げながらルークの顔を思い出していた。
「それにしてもDランクね、思っていたよりかなり早かったな。」
サヤは両手を頭の後ろに回して何処か考えているような嬉しいような複雑な顔をする。今回の昇格はそんなに早い物なのか?、まだDランクなのに。
「ハーピーの件がなければもう少し時間が掛かったのかもね。」
俺はソフィの頭を撫でながらサヤに返事をする。俺にはこの世界の常識がないから普通の人がどの位でDランクになるのか知らないけど、そこでソフィに訊いてみた。
『Dランクなら半年くらいだね。』
「半年……俺って此処に来て何日経ったかな、一カ月位かな。」
そういえば此処に来て日付を確認する事がないから忘れてた。普通ありえないと思うでしょうがこの世界にはカレンダーや時計なんて便利な物はないのだからしょうがないのだ。
後でソフィに確認、此処でもソフィ頼みなのが情けないが、一年は360日であり季節は日本と同じく春夏秋冬らしい。現在は春の35日になる、まぁ日本にいた時と略同じだと思っていいようだ。
宿に入るとメルが出迎えてくれる、相変わらず明るくて元気な女の子だ。
「お帰りアスナ、サヤ、また家に泊ってくれるんでしょう。」
「ただいまメル、またお世話にになるね。」
「メルまた泊りに来たよ!」
俺達はメルが用意してくれた食事を食べながらコーネリアで遭った出来事を話した。
「ふぅ~、久々だなこの体の芯まで温まる感じ。」
この宿自慢の温泉に久々に入り疲れを癒す。ソフィは温泉に入れない、ソフィ自身が入浴できない訳ではなく他の人も入るので温泉の中には浸かれないのだ。風呂場には入ってもいいと許可を貰ってるので後でお湯を掛けて洗ってあげよう。
濡れた髪をタオルで拭きながら自室に戻る。俺の髪は腰辺りまでと長く金髪でサラサラしてる。以前の俺はタオルで拭けば半乾きになるほど短いが今の俺は髪を洗うのも乾かすのも一苦労だ。勿論自分の体で楽しむなんて変態行為はしていませんので、体を洗う時に下は如何するのか困惑はしたが。
明日はレジーナさんの工房に行こうと決めてベットに潜り込んだ。
今日も良い天気だと宿の窓から空を見上げて身体を伸ばす。サヤはギルドに行って面白い依頼がないか見てくると別行動になった。
「おはようございますレジーナさん、ロイ。」
「朝から元気だねアスナ。」
「おはようさんアスナ。」
二人に挨拶をして先ずは掃除、店先に店内、工房と暫く空けていた分埃が溜まってる。元の世界でも掃除は比較的してたと思うがこの世界に掃除機なんて便利な物はないからな、体力的には問題ないのに時間が掛かる。そういえば家事スキルがあったよな、態々ポイントを使ったりしないけど。
「アスナ仕事を教えるよ!」
「はい、お願い致します。」
『頑張れアスナ!』
「あ、そのドラゴンちゃんはその辺に置いて来てね。」
「(ごめんねソフィ、暫く其の辺で待ってて。)」
『大丈夫だよアスナ、頑張ってね。』
ソフィはロイの居る店内に飛んでいく。俺はレジーナさんの後を付いて歩きながら心の中で気合いを入れた。
レジーナさんの教えは厳しい、簡単には覚えられない神様に授かったアビリティPを使えば簡単に出来るのかもしれないがそれでは意味がないよね何時かは使うのかもしれないが今は自分の力で一から覚えたい。日本に居た時も職人さんの技術を細かく見ていた訳ではないし、俺はひたすら教えられた事を怒鳴られながら繰り返した。
どの位時間が経ったのかレジーナさんが昼食を作ってくれるので作業を一旦中断して工房を出る。そういえば店内や工房には出入りしていたけど生活空間には入った事なかったな。
居間は飾り気もなく生活に必要な物が置かれてるだけの簡素な物だ。だけど清潔に整えてあり何処となく暖か味のある落ち着いた感じがする。
「ロイを呼んで来てくれるかい、さくっと作っちまうからさ。」
俺はレジーナさんに言われた通り、ロイを呼びに店内に入ると一人の女性がロイと話をしていた。
女性としては身長が高く、170はありそうで顔は綺麗だが少し眼つきが怖い、眼鏡を掛ければ秘書風だな。
「ロイ、其方の方は御客様?」
俺が尋ねるとロイが紹介をしてくれる。名前はシェリルさん商会ギルドの支部長をしているそうだ。何でそんな人が此処に居るのかとゆうとレジーナさんと幼馴染なんだって、結構年上な感じだが何歳なんだレジ-ナさん。
「貴女がアスナさんですね、話はロイから聞きました。何でもレジーナの元で修行を始められたとか。」
「はい、レジーナさんにお願いして学ばせて頂いてます。」
何だかシェリルさんの目は品定めをする様な視線だ、レジーナさんの幼馴染な訳だし俺を警戒してるのかな?
「何時まで喋ってるんだいシェリル?、折角の料理が冷めちまうよ。」
「レジーナ、怪我をしたと聞きましたがもう大丈夫なの?」
「勿論大丈夫さ、この子、アスナが治してくれたからね!」
レジーナさんが俺を前に突き出す。俺は皆の視線が集中して一気に顔が紅くなるのを感じた。シェリルさんは親友を助けてくれてありがとうと御礼を述べた。俺は二人の関係を全然知らないが良いなと思わずには要られなかった。
「私はそろそろ帰るわね、アスナさんは自分の工房が欲しいそうですね。もし自分の腕に自信が付いたら私の所に来なさいね。」
シェリルさんはそう言うと帰って行った、レジーナさんには工房なんてまだまだ早いと俺の頭を撫でた。
その後食べたレジーナさんの料理はメルのと違って大味だが家庭的で好かった。
その後の修行も怒鳴られながら続けたがレジーナさん曰く筋は悪くないそうだ、これも神様のおかげなのかもしれないが俺は楽しくて仕方なかった。
宿に帰りサヤとお互い今日の出来事を話す。サヤの方はギルドでエレナさんに会ったらしいまた言い合いをしたのか少し不満顔だ。特に面白い依頼はナシ、ただギルドで俺達の事が話題になっているらしい。
着々と人気者になっているのかね、自惚れ過ぎかな俺は考えるのをやめた。
サヤと別れて自室に戻る、メニューを開くと細工のレベルが上がっていた。そろそろ工房に関係した技能を取るべきかな、其れとも戦闘系かな悩むが直ぐに決める必要もないかと布団に入る。異世界だろうと布団の中は気持ちが良いなと薄れる意識の中で考えていた。
翌日も朝からレジーナさんの工房で修業中。石の加工は結構集中力が要る、最後に作った装飾品を鑑定。
【守りの御守り】ランクE 効果 物理的ダメージを僅かながら軽減
自分としては良く出来たと思うがレジーナさん曰く練習すればその程度簡単に出来るだって。まだまだ先は長いね。
次の日はサヤと迷宮探索、四階層はヘルハウンドとガーゴイルが徘徊している。
ヘルハウンドは見た目大型の犬、ガーゴイルは悪魔っぽい石造だ。ヘルハウンドは口から火を吐くが射程はそれ程広くない、だが俺もサヤも近接タイプなので近付いた所を狙われると危ない。所見の攻撃で少し髪の毛を焦がされた、回復魔法が髪の毛にも有効なのが救いだったけど。
ガーゴイルは石造の様な魔物なので体が固い、最初は馬鹿正直に剣を何度も叩きつけて倒したが火魔法の『ファイヤーエッジ』で刀身に炎を纏わせる事で簡単に斬れた。それでも四階層は少しキツイかな、魔法使いとか要ればまだまだ先に行けると思うんだけど。
俺達はギルドで換金をする、魔物の素材をかなり売却したおかげで商会ギルドのランクがEに上がった。順調だね。現在の所持金は白金貨1枚程、白金貨は金貨50枚で1枚だね。そろそろ装備とか買おうかな剣は兎も角防具はかなり傷んできた。
武器屋や防具屋はギルドの近くに建っている、俺達は防具屋に入り店内を物色をする。
まさにRPGって感じの店内だ、壁には色々な鎧や盾などが飾ってある。俺も何時か作ってみたいな。
「ねえアスナ、この鎧なんかいいんじゃない?」
サヤが指差した鎧はかなり重そうな重量感たっぷりの騎士が着そうな鎧だ。きっと俺が大剣を軽々持つから勘違いしてるな。
「サヤ、俺が持ってる剣は特殊で俺専用に魔法が掛かってるんだ、だから軽々と持てる訳で力が強い訳じゃないよ」
「そうなんだ……そうだよね、アスナ全然筋肉質じゃないから違和感はあったんだよね。でも魔法か、あたしも大剣を軽々振り回したり出来るのかな?」
「う~ん、俺が特殊な魔法を使った訳じゃないから分からないかな。」
完全に嘘って訳でもないがサヤに隠し事するのは罪悪感があるな、でも本当の事言ってもね。
俺達が店内の商品を長い事あれこれ物色してたので店の人が苦笑いしていた。結局買ったのは魔物の素材を使ったプレートアーマー。全身を鉄の鎧で覆った物ではなく固い魔物の皮などを使い、急所などを守りながら動き易いように作られた逸品だ。
サヤは防御力よりも動き易さに重点を置いた防具を選ぶ、俺の買った物も動き易いように調整してるが防御力も高める必要がある為に多少動きは制限される。
外に出ると日が沈む時間だ、暗くなる前に宿に帰る事にした。
それからもレジーナさんの工房と魔物退治と忙しくも充実した毎日を過ごす。そんなこんなで一カ月が経ち細工師としても成長していたある日ギルドにある緊急依頼が舞い込んだ。