第四話「タイトルなし(思いつかない)」
「はあぁぁぁぁ!!!」
司令官の攻撃を次々と躱すレット。彼は攻撃された後に必ずカウンターをしかけているが、それも全て相手に躱されている。
進みも退きもしない攻防がしばらく続いた後、司令官の男は挑発するように言った。
「そろそろ本気を出したらどうだ?」
「さっきから本気出してるよ」
「いや、嘘だ」
「本当さ」
さらりと返すレット。しかし、男はなおも問い詰めた。
「いや、俺は見たことがあるぞ。二年前の話だ」
「…………!」
「二年前の戦争の時。お前は俺の部隊と鉢合わせたんだ。結果、俺の隊は惨敗。お前の剣技………人間とは思えなかった」
「2年前の話はよしてくれないか?トラウマなんだ」
「だが結局はロマの勝利だったな。お前の上司が無能だったおかげで。ジグがお前にもう少し多く兵を預けてやれば、結果はまた違ったかもしれん」
「オイオイ、やめろって……」
「そういえばウワサに聞いた話だが、お前は7年前に………」
そこまで言ったところで、レットが勢いよく斬りかかってきた。
男は咄嗟に刀を眼前に構えガードする。しかし、その勢いに圧倒され、男は数歩身を引いた。
「ははは!それでいい!!それでこそレットだ!!!」
バンダナの剣士は感情の高ぶるままに剣を振り回した。司令官の男はガードを続けるが、剣にガタがき始めていた。
「くっ………!」
そして、剣は粉砕された。絶え間ない連続攻撃に耐えきれなくなったのだ。
男は一瞬怯んだ。それをレットが見逃すはずがない。
彼は男を大きく蹴り飛ばし、仰向けに倒れさせた。
「ぐっ!」
起き上がる暇も与えず、レットは跳躍した。そして、剣を下に突き出す。いわゆる"下突き"である。
男は死を覚悟した。
ドスッ!
剣が突き刺さる音。しかし、それは男の体ではなく、その隣の地面を刺していた。
「………?」
司令官の男は怪訝そうな顔をしてレットの顔を見る。
彼は、これ以上ないほどに悔しそうな表情をしていた。その目は少し潤っていた。
「…………クソッ」
レットはクルリと踵を返すと、城門の方へ歩き始めた。
「ちょっ……副師団長!?」
兵士たちが慌てて呼び止めたが、彼は意にも介さず歩き続ける。
バンダナの剣士は、歩きながら男に言った。
「情けをかけたわけじゃない。それだけ覚えとけ」