第十四話「才能」
「はぁ……負けた」
戦の後、砦に帰ってきたレットは放心状態。まさか自分が負かした男に負かされるとは。
レット最大の屈辱であった。
「なぁにが悪かったんだー?」
ブツブツと呟きながら、自室に戻って寝転んだ。悔しさに顔を歪ませて、彼は叫んだ。
「チクショー!!!」
そもそもあの砦は森に囲まれていて守るに易い。そこを攻めるのが間違いだったんだ。つまり悪いのはあのクソジジィだ!いやまて早まるな、そもそも13000で18000に勝つなんて無理だったんだ。相手の数が少なかったとはいえ、こっちは兵が少なくて士気も下がり気味なんだ。つまり悪かったのは…………
「やっぱりあいつじゃねーか!!!」
「ほう、あいつとは誰かね?」
「な………」
何故後ろにいる………?
彼の背後にカリヴァが座っていた。普段通りのにこやかな表情を浮かべているが、ちらちらと殺気が垣間見えている。
ぞくっ。彼の背筋が凍った。
「いやいや、あいつっていったら………!あの……えーと、ギルト!そう、ギルトのせいです!」
「ほう、そうか」
「…………」
「悔しいかね?」
唐突にカリヴァが聞いた。レットはか細い声でそれに答える。
「………そりゃあ」
「……失敗から学ぶのが賢者、成功に溺れるのが愚者」
「は?」
「昔、偉い人が言ったそうだ」
「………ふぅん」
中年の男は変わらず笑っている。しかし、先ほどの殺気はすでになく、ただ優しい笑顔を浮かべていた。
「よかったじゃないか」
「?」
「今失敗してよかった。これからは、同じ失敗をしないで済む」
「……ひどく楽観的ですね」
「私はね、君に期待しているのだよ」
レットはその言葉を聞いて、少し驚いたような顔をした。カリヴァは続ける。
「私はもう年老いて前線には出なくなったが、若い頃は『戦場鬼』と呼ばれて恐れられたものだ。だが、君は私を軽々超えられるほどの才能を持ってる。いや、私を超えるどころじゃない、歴史上あらゆる人間たちを見ても、きっと君が一番だ。……君はきっと、世界を動かすような、大きな男になる。だから、今のうちにたくさん失敗しておこう。それがあとで、君の糧になる」
「…………」
「じゃあ、私は仕事があるからいくよ。あ、援軍はよこさないよ。君なら勝てるだろうからね」
ゆっくりとした動作で立ち上がり、部屋を後にする。バタン、という音がして、静寂が訪れて数秒、レットは呆然としていた。
「才能ねぇ………」
自分にあるかどうかはわからないが。もしあるというのなら………
「存分に使ってやろうじゃねーか」
果たして次の戦で彼は勝利できるのか。ノーなら、それは即ち敗北。それだけはさせない。絶対にさせない。
固い決意を胸にして、レットは一人策を練っている。