第十三話「十面埋伏」
それは、突然にジグ軍を襲った。
「敵襲!敵襲ーーーー!!!」
ロマの奇襲。油断していたジグは、不意をつかれた形で戦闘を開始した。
「ロマ軍が攻撃してきた!?」
「背後から700ほどの兵が飛び出してきて………!」
知らせを聞いて、レットは急いで刀を手にとる。そして、太い声で叫んだ。
「武器を持て!後ろの部隊を助けにいくぞ!」
700程度ならなんとか対処できる………。そう思った束の間、先頭の部隊から。
「うわあぁぁぁぁ!!!敵襲だ!敵襲!!!」
「おい、左翼からもきたぞ!」
「右翼もだ!!!」
僅か十数分の間に、ジグ軍は完全に包囲されてしまった。レットは、一人の男を思い出した。
まさか、リルネイルの………。そうか、あいつもここの指揮官だったか。
「ぬかったね」
レットは、奥歯をぎりと軋ませた。
ここで勝負を決めねば………!
アドは兵士たちに叫んだ。
「押しつぶせ!ここで終わらせるぞ!!!」
ロマ軍は一斉に敵に襲いかかる。が、ジグ軍は一歩も退くことなく戦い続けていた。そうなると、数で劣るロマは不利だ。ならば……
「全員散れ!作戦を移行する!!!」
ロマの兵士たちは、素早く草むらに身をひそめた。
「5、3、7、9、2!!!」
アドがそう叫ぶと、ロマ軍は敵の南から襲いかかった。そしてしばらく交戦すると、すぐに草むらに隠れる。今度は東。西、北、北東。攻撃しては退き、攻撃しては退きを繰り返した。
「この闇の中では、どこから来るかもわかるまい………」
全てはこのアドの思惑通り。ロマの兵はカタリナ周辺の地形を熟知している。それを生かし、敵の予期せぬところから攻撃をしかける。作戦は成功だ。
さあどうだ、レットとやら。今回は俺の勝ちだ。それとも、逆転の秘策でも持っているのかな……?
「まだまだ、ロマの歴史は終わらんよ」
アドは静かに笑った。
「耐えろ!!!耐えるんだ!!!あと少しでいい!!!耐えるんだ!!」
レットは必死で叫ぶが、突然の攻撃に怯んだジグ兵は後手に回ってしまい、徐々にその数を減らしている。現在9000。全滅するのも時間の問題だ。
「くそっ……くそ………!」
レットはぐっと歯を噛みしめると、前線に飛び出した。刀を抜かずに、拳で以て敵をはねのける。
「夜明けだ!!!夜明けを待て!!!」
レットはそう叫んで剣を抜いた。
「それまで耐えろ!!!絶対に死ぬな!!!」
夜明けまでという指標ができたおかげか、兵士たちの士気はみるみるうちに上がった。勇猛に敵陣へ突撃し、刀を振り回す。一方ロマ軍は、急に敵の勢いが増したことで押され気味になっていた。
「3、3、5!」
アドは必死に令を飛ばすが、一度後手に回ったら盛り返すのは難しい。損害は増える一方だ。
そして、夜明けがきた。太陽が東から昇り、ほの明るい陽光があたりを照らした。
「隊長………」
アドの副官、リアラは消えいるような声で言った。アドは
「うむ」
と恨めしそうに朝日を見つめ、全軍に命じた。
「撤退!撤退ぃ!!!」
ロマ軍は風のように去っていき、やがてあたりに静寂が訪れた。
数字の命令は出てくるところの指示ですね。
1…北 2…北東 3…東 ってな感じです。