第十二話「指揮官の雪辱」
「将軍!」
カタリナ砦の屋上に飛び込んで来たのはアド。先の戦いでレットに敗北した男だ。
「ジグ軍13000がこちらに迫っています!どうしますか?」
砦に進軍してくるジグ軍を屋上から眺めていた将軍は、アドの知らせを聞いて口を開いた。
「待っているのはいささか飽きたか………面白い。この戦、俺が出よう。アドはここで待機だ」
「あ、あの!将軍……」
「うん?何だね?」
「えっと……いや、何でもないです…………」
何かを遠慮したアド。その瞳を、男はしばし見つめた。
「うーーむ………」
「あ、あの……………」
「あいわかった!この戦、お前に指揮を任せる!」
「!? 将軍………!」
「雪辱が、したいのだろう?」
将軍はニッと笑って、地上にいるジグ軍を親指で差した。
「ぶちかましてこい、アド!」
「は………はいっ!」
男の名はハジャ。国内でも有数の戦好きで、地位は中将。年は50。しかし、その老いた眼にはギラギラと燃える闘志が映っている。この男、後にレットを再三にわたって苦しめることになるのだが、それはまた後の話だ。
アドは、おおよそ6700人の兵を連れて砦から出た。この兵士たちは、ディラ砦の戦いにおいて彼の指揮の元で戦い、そして撤退した兵である。
これは雪辱戦だ。
そう思うと血が騒ぐ。気分が高揚して、今すぐにでも闘いたくなる。戦場こそ己の居場所。
アドは不適にニヤリと笑うと、兵士たちに告げた。
「作戦を言おう。主だった者はこっちに来てくれ」
「さあ、いくぞ」
レットは、ジグ軍13000を連れて歩き出した。時刻は午後9時。砦はもう目と鼻の先だ。
「斥候!罠があるかどうか見てきてくれ!」※斥候…偵察兵のこと。
「アイサー、レット」
偵察兵は20分ほどで帰ってきた。
「罠は見当たりませんでした。恐らく籠城するつもりでしょう」
「うーむ……じゃあ朝まで待って、それから出撃だ。適度に休んで、万全の状態で戦うぞー」
レットは兵士たちに野営を命じた。
レットは、正攻法で勝つ気など毛頭なかった。彼の作戦はこうだった。
13000のうち半分程度の兵で以てゲリラ的に攻撃をしかける。そしてすぐに退く。これの繰り返しだ。
ロマ軍は屈強な兵士ばかり。だが、人であることに変わりはない。いつ攻撃をしかけてくるかわからない、どれほどの兵力でくるのかもわからない、そんな状況が何日も続けば僅かな綻びが出る。
それはどんどん広がっていき、やがて敵は戦意喪失。ジグ軍の勝利だ。
こっちは常に万全な状態にするため、5000の兵を兵站(輸送のこと)部隊にあて、物資が尽きないようにする。
ジグ軍はいつまでも戦える。が、ロマは違う。いつか限界がくる。人を以て人を制す。
退き際などを間違えれば一瞬で水泡に帰す作戦だが、成功すればこちらの勝ちだ。
この作戦……絶対に成功させてみせる。
レットは、真剣な表情で砦を眺めた。
「待っていろよ、カタリナのヤローども。もうすぐそこは俺たちのもんだ」
この直後に、大変な事態が彼を襲うことなど、レットは知る由もなかった。