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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第1章 竜の穴
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自主訓練

その後しばらくは特に何事も起らず、レンドローブが眠りについたその時から、あっという間に四日の時が流れた。


イチハはそれが楽しいのか一日のほとんどの時間をレンドローブを治す魔法?に費やしている。

その成果が出てきているのか、四日前と比べると、珠の中の紫色の光はだいぶ強く濃くなってきているようだった。


一方、トキトとシオリもイチハに負けないよう、パムに導いてもらった剣がうまく使えるようにと、練習を始めた。

最初は剣なんか振れない、と乗り気ではなかったシオリも、イチハに感化されたのかトキトと一緒に立木を相手に剣を振るうようになり、時には二人で剣を合わせたりした。

と言っても、あくまでも形だけの打ち合いレベルではあるのだが…。


今も二人は打ち合い形式の練習をしている所だった。

その合い間、シオリがイチハの様子をちらと見て言う。

「ずっとああしているなんて、イチハの集中力も大したものね」

「結局、俺達もイチハに負けられないからってこんなこと始めたんだもんな」


トキトはレンドローブの鱗の色に近い深い赤の鎧を、シオリは銀の装飾のついた白の鎧をそれぞれ身に着け、各々右手に剣を持ち対峙している状態だ。

ここからトキトがゆっくりと剣を振り下ろし、それをシオリが払うという動作のシュミレーションを行っている。

鎧を付けてさえいれば、怪我はしない事は確認済みだ。


「しかし、その姿、良く似合ってるよな。その鎧がシオリのためのオーダーメイドだと聞いても驚かないよ」

シオリは綺麗な白い鎧を身に着けていた。

胸当ての端や肩の部分に銀の彫刻が施され、絞られたウエストから装飾を施した腰の防具がスカートのように広がっている。

機能性だけでなく気品と美しさが感じられる逸品といえる。

パムが見つけてきた鎧の中では唯一の女性用と思われる造りのものだったのだが、これがシオリにぴったりのサイズで専用に造ったものと言ってもいいくらいのものだった。


「何言ってるの。トキトのだって」

トキトが身に付けているのは深い赤色の鎧。

レンドローブの色と同じ色合いのものだ。

シオリの鎧より幾分無骨ではあるものの、そんな中にも高貴さも感じられる。

男性用の鎧は何点かあったのだが、トキトにサイズが合うものはこの赤いものしかなかった。

しかし、シオリの言うとおりこの鎧はトキトの体にぴったりで、トキトも動き辛さのようなモノは全く感じずにすんでいた。


「いや、鎧じゃなくて中身に差があるんだよ。良いように考えたとしても、高貴なお姫様と下っ端の兵士位の違いはあるんじゃない?」

「何くだらないこと言ってるの。バカらしい。本物のお姫様はもっと気品があって優雅だわ」

トキトは、下っ端の方は否定しないのな、と突っ込みそうになったが、止めておいた。


「イチハだって似合ってるっていえば似合ってるよな」

実はトキトとシオリの格好に刺激を受けたイチハは、どこかからローブと手袋とブーツを見つけてきて身に付けていた。

残念ながら帽子は見つからなかったようで、黒い布を巻いて誤魔化している。


「そうよね、なりきっているものね」

「俺達は怪我をしないように鎧を付けることにしたけど、別にイチハはあんな恰好をする必要もないんじゃないかと思うけど……」

「いいじゃない、やりたいって言うんだから。可愛いし」


「まあ、いいけど……。でも、イチハのやっている事って、少しは効果があったのかな」

レンドローブの傷口はもうほとんどふさがっているように見えるのだが、トキトは剣がほとんど全て埋まる位の所まで突き刺した訳なので、その傷は躰の奥まで達しているはずで、その状態までは解らない。


「イチハは効いていると言っていたわ」

「だといいけど……。ん? どうした? パム」

すぐ近くの茂みにいたパムが上の方をじっと見つめいる事に気が付いたトキトは、パムの視線を追うように上を見上げた。


シオリもつられて上を見る。

「別に変った所は見当たらないけど」


「まさか……、もう一匹降りてくるんじゃないだろうな。レンドローブの時は偶然が重なったから何とかなったけど、もう一回は無理だぞ」

今度竜と戦ったらまず勝ち目はない。

どちらのものかはわからないが、どくんどくんという心臓の音が聞こえてくる。

トキトは落ち着くようにと自分自身に言い聞かせ、目を凝らして上を見た。

が、竜の姿など一向に見えてこない。


「……そういう事ではないみたいね」

そんな風に言うシオリの声に合わせ、トキトが視線を下ろして見ると、パムがレンドローブの方へ向かって走っていくところだった。


パムはそのままレンドローブの背中を登り、イチハの隣へと近づいていくと、ゆっくりとそこに腰を下ろした。

パムが動きを止めると、トキトはシオリと目を見合わせた。

イチハがレンドローブの背中の上に登るようになって以降、夜以外でパムがイチハの隣に居ようとするのは珍しい事だったからだ。


「何?どういう事?」

「パムは何か不思議な力があるみたいだから、変わった行動をすると警戒しちゃうよな」

パムとしては何か言いたい事があったのかもしれないが、パムはしゃべれるわけではないので残念ながらその意図まではわからない。


「イチハの隣に行きたかった……だけ……なの?」

パムはイチハの隣に伏せする状態で寝そべっていて、もうすっかりくつろいでいるように見える。

くだらない話なんかしていないで、お前らもやることをやれ、とでも言っているかのようだ。


「続けようか」

「そうね。やっておくに越したことはなさそうだものね」

二人は剣の練習を再開した。


それにしてもシオリの剣の上達は早かった。

スマートな見かけによらず運動神経はいいらしい。

トキトの剣と同様にパムが拾ってきたシオリの剣も素人目にもかなり素晴らし物だとわかる代物ではあったのだが、そのすばらしい剣で立木を突いても、修練を初めた最初の頃は剣先が一センチ刺さればいい方だった。

それが今では直径が十五センチ位の細い木なら完全に突き抜けるくらいにはうまく突けるようになっている。


今は、動くものに対応できなければ実践では使い物にならないだろうという事で、寸止めでの対戦形式での立会をやるようになってきているのだが、トキトもたまに胴や胸にいい感じの当たりを喰らうようになってきている。

鎧は少なくとも今の力では、たとえいいのを貰ったとしても、傷一つつけることができない事がわかっているので、当たってしまっても怪我をすることはないのだが、結構痛い。

トキトはさすがに女の子相手に打ち込むことはできず、もっぱら受ける事だけに専念している状態なのだが、そのおかげで攻撃を避ける事が上達しているような気がしていた。


シオリの突きを避け続けながら、形だけの反撃を繰り出すトキトに対し、シオリはさらに突きを繰り出してくる。

いくら突いても、トキトに避けられてしまうので、思わず力が入ってしまったシオリは、咄嗟にトキトの顔面目がけて剣を突き出してしまっていた。

顔面は鎧のない部分で、そこは狙わない約束にしていたのだが、あまりに上手く避けられてしまうので、ついつい勢いで手を出してしまったのだ。

トキトはそれを頭をぐっと後ろにそらして間一髪の所で躱し切った。


「ごめん! 大丈夫っ」

シオリは慌てて剣を引き、仰向けに倒れたトキトを覗き込んだ。

が、トキトは遠くを見る目をしたまま何も答えない。


「大丈夫っ。どこか打った?本当にごめん。つい気持ちが入りすぎちゃって…」

シオリにしては珍しく取り乱しているのはわかるのだが、トキトの目にはそんなシオリの様子など入っていなかった。

シオリの頭越しにもっと上を凝視せざるを得ない状態だったからだ。


「何か…居る」

トキトは覆いかぶさるように覗き込んでいるシオリを振り払うようにして押しのけた。

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