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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第3章 風の里
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情報交換

グルボダにそんな弱点があったとは知らなかった。

それを知っていればこんなに苦労しなくても済んだのかもしれないと思うと言い知れぬ怒りが湧いてくるが、それをぶつけるべき相手はどこにもいない。


そんなトキト達を見て、彼らが弱点を知らなかったらしいと気づいたウィルマが驚いている。

「お前ら、弱点も知らずにグルボダに戦いを挑んだのか? バカじゃないのか。よく無事だったな、逆に大したもんだ」

少しあきれたような顔をしたウィルマは、けれどすぐにまじめな顔に戻った。

「だが、獲物はあたしがもらうからな。これは決定だ。後でくれと言ってもやらないぞ」


「ああ、それは別に構わないって言っているだろう。どうやって持っていくつもりか知らないが、好きに持って行ってくれ」

「ああ?いや、こいつの肉もなかなか美味だが、あたしがこいつを担いで持っていくわけないだろう。額の透明な角と大きな牙、それに尻尾さえ手に入ればそれでいいんだ。その感じだとあんたらは知らないのだろうが、額の角は魔力石より魔力を溜める事ができるとか言ってかなり高値で売れるんだ。実入りは白天狼には遠く及ばないが、それでもかなりいい獲物さ。……。あっ、だからって、もうお前らにはやらないぞ。あたしのものだからな」

ウィルマはよほど獲物を渡したくないのか、何度も念を押してくる。

まあ、大物を取り逃がした後なのだからそれも仕方がない事なのかもしれない。


「トキトはいらないって言ってるでしょ。そんなに欲しいのならとっとと持っていったらいいじゃない」

何故かシオリが喧嘩腰になっている。


「なんだ? この女」

ウィルマは大きな弓を持ったままその手を腰に当て胸を反らせた。

そのスタイルは抜群な事もあり妙に様になっている。


慌ててトキトが割って入った。

「待った待った。ここで喧嘩することはないだろ。今回俺達はウィルマに獲物を渡す気がないわけじゃないんだから」


すぐさまウィルマも言い返す。

「そっちが突っかかってきたんじゃないか。今度の女は前の女より品がないな。前の女の方がいい女だったんじゃないのか?」

前の女というのは、それはつまりリーナ王女なのだから、品があるのは当然だろう。

そんな事より、比較され、バカにされたシオリの怒りの方が恐ろしい。


「いや、シオリはこれでもなかなか強いんだ。魔法だって使えるし、旅をするには最高の相方だよ」

何とか褒めて矛を収めさせようと考えたのだが、やはりシオリの怒りは収まらないようだった。


「なにそれ、魔法とか、強いとか。どうせ私はリーナよりも品がないし、きれいでもないですよ。でも、あんただってそうじゃない」

そう言って当初トキトに向けていた矛先をウィルマに向ける。

「あんただって、リーナと比べたら気品も美しさも足元にも及ばないわ」


しかしウィルマもそんな事くらいでは動じなかった。

「だが、少なくともお前より出ている所は出ている」

そう言って、自慢のスタイルをひけらかすよう背筋を伸ばしてシオリの前に立つ。

ウィルマが背が高い事もありそうするとシオリを見下ろすような格好になる。

シオリの肩が震えているのがわかる。


「取り込み中悪いが、一つ質問があるんだがいいか?」

ここで、しばらく黙っていたアイカがまじめな表情で口を挿んできた。

ぶっきらぼうにウィルマが答える。

「構わないぜ。何だ」


アイカはウィルマの反応を窺いながら聞いた。

「奴隷狩りって知っているか?」


ウィルマはその質問にはあまり興味を持たなかったようで、おざなりに答えた。

「知ってるよ。どこかの村とか街を襲って人を掻っ攫って来て、どこか別の場所のお金持ちに売りつけるって言うやつだろ。昔は結構あったっていう話だぜ」


「あんた、奴隷狩りに関わっていないよな」

アイカまで何処か攻める口調になっている。

ウィルマの態度はとてもいいとは言えないので仕方がない部分はあるのだが…。


「何言ってるんだお前。あたしの仕事は魔獣狩りだ。奴隷狩りじゃあない。それに、今はもう奴隷狩りなんてやる奴なんていないだろう。村を襲ったりしたら軍が動くと思うぜ。いくらあたしらだってそんなリスクの高いことはしねえよ」

ばかばかしい、とでもいうような態度だ。


「すぐ先の村が襲われたらしい。ついさっき行ったばかりだが、今、村はゴーストタウンだ。人っ子一人いない」


「何言ってんだ? あたしだって昨日そこの先にある村へ寄ったばかりだが、普通だったぞ。まあ、ここ最近はグルボダのせいで他の村から孤立して困っていたみたいだがな」

ウィルマが指差しているのはトキト達が来たのとは反対の方向だ。


「あたしはその村の村人にグルボダを退治してやるって約束してきたんだ。まあ、二頭いるなどとは知らなかったがな」


「ねえ、アイカ。ウィルマは関係ないと思うよ。ウィルマは口は悪いけどそんなに悪い奴じゃない。それに、単純だから嘘がつける性格じゃあないし。だからこの先の村の事も本当なんじゃないかな」

グルボダのせいで他の村との交流ができなくなっていたのだとすれば、孤立していたというのも納得できる。

もしそうなら、村人はグルボダの所為で苦しめられたのかもしれないが、グルボダのおかげで助かったともいえそうだ。


ウィルマの表情が一瞬険しいものになる。

「何かひっかる物言いだが、まあいいか。お前たちのおかげで一つ手に入ればいいと思っていたグルボダの角も二つ手に入るわけだしな。おっと、そうだ。話があるならちょっと待っててくれ。先に獲物を回収してしまうからな」

ウィルマはそう言うと、すぐに目の前のグルボダの角などの回収作業に入った。

手際よく角と牙の部分だけを取り出していく。


トキトはこの間にシオリとアイカを促して、繋いでおいた馬を取りに戻る事にした。

三人だけになったところでシオリが言ってくる。

「何あの女、少しぐらいスタイルがいいからって私の事バカにして」

シオリはリーナと比較された事をまだ怒っている。


「少しからかっただけだよ。気にすると余計に面白がられるよ」

実際、そんなところなのだろう。

トキトにはウィルマはシオリの事をからかっているようにしか見えなかった。


「何、トキト、どっちの味方なの?」

「どっちの味方かって、そんなのシオリの味方に決まってるだろ。当たり前じゃないか」

トキトが迷いなくそう言ってのけるのを聞いて、シオリは何も言えなくなった様だった。

噛みつくような勢いを無理やり飲み込み、言葉を失っている。


でも、それはそうだろう。

トキトにとってシオリとイチカは一緒にこの世界へと飛ばされてきた大事な仲間なのだ。

最も優先するべき存在だとトキトはそう思っている。


「トキト、あのウィルマっていう女、信用していいのね」

今度の声はシオリとは反対側から、アイカの声だ。


「ああ、さっきも言ったがあいつは嘘が付けない奴だ。それはあいつの言動を見ても分かるだろう? だからさっき言っていた事も本当の事だと思うよ」

仮に奴隷狩りをやっていたとしたらそのことを自慢げに話しそうなイメージだ。


「だとすると、誰の仕業なのか。……。とりあえず、この先にあるという村まで行ってみるしかないか」

恐らくこの先に村は一つしかないに違いない。

そうでなければその村が孤立するはずがないのだ。


「そうだな。それしかないだろう。ただ、もしそこで何もわからなかったとしてもそこから先へは進まないで引き返そう。これ以上危険な目には遭いたくない、というか、遭わせたくない」

「私もこんな強い魔獣がいるなんて想像していなかったからな。知っていたら来ることに賛成しなかった」


ここまで危険な目に合うのはアイカにしてみても想定外の事だったらしい。

戦ってみてわかったのだが、グルボダはかなり厄介な魔獣と言って良い。

奴隷狩りの連中が引き返す選択をしたのだとすれば、その点に限っては正解だったと言えそうだ。


「でも、弱点を知っていればここまで苦労しなくても済んだような気もするけどな」

しかしアイカはそうも付け加えた。

ウィルマのようにあの細い尾を一撃でダメージを喰らわす事は難しいだろうが、確かに知っていれば別のやり方があったかもしれない。


話しながら歩いているうち、馬を繋いでおいた場所に到着した。

馬は無事だった。

おとなしく周辺の草を食んで待っていてくれたようだ。

三人で馬に跨りウィルマのいる場所まで戻る。

そして嬉々として作業をしているウィルマにトキトが声を掛けた。


「ウィルマ、どうだ。終わったか?」

トキトの問いかけに、ウィルマは作業をしながらの状態で振り向きもせずに答えてくる。


「おお、お前たちか。お前たちは結構大物を仕留めてくれたみたいだな。これだけ立派な角を持つグルボダなんてめったに見ないぞ。おかげでいい収穫になる。これだけのものが手に入ったんだ、今回の狩りはこれで終わりでいいかな」

ウィルマはそこまで言うと、初めてトキトを振り返った。


「ほう、お前らいいもんに乗ってんじゃねえか」

そしてトキト達が馬に乗っているのを見て、ウィルマは丁度良かったとばかりににやりと笑った。

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