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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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突入

シオリの後を追って通りに飛び出したトキトは、通りに出てすぐに正面の路地に見慣れた姿を見つけた。

一目見て分かった。

間違いない、ディンブルだ。

あの魔法の声はやや遠目に隠れていたディンブルにも届き、慌ててやってきたのだ。

つまり警告はやはり根も葉もない嘘、罠だったのだ。


「リーナ、後ろを見ろ! ディンブルは無事だ!」

リーナが振り返りディンブルの姿を確認したのと、駆け寄った衛士がリーナの腕を捉えたのはほぼ同時だった。

リーナが衛士に引っ張られていく。


ディンブルも剣を手に駆け寄ってくるのが見えるが、まだ遠い。

シオリも魔法を連発しているが、最初の一撃で舞い上がった砂が邪魔して碌に狙いを定められずにいる。


トキトがようやく門の前まで来ると、リーナは三人の衛士に囲まれ二の門へと連れて行かれる所だった。

両腕を衛士に抱えられ、リーダーらしき衛士もその後ろについている。

直ぐに駆け寄ろうとしたトキトだったが、その時には別の三人に囲まれていた。

横を見るとさらに別の二人がシオリの魔法にやられて倒れている。

数が増えているのは、詰所にいた衛士が出てきたからだろう。


衛士は城の入口を守っているくらいなので精鋭なのだろうが、追い詰められていたトキトは手加減せずに剣を振るったため、一瞬で正面の騎士を戦闘不能にしてしまっていた。

そして後の二人は無視してリーナの事を追いかけていく。


残った二人に後ろから襲われれば一たまりもないのだが、それは気にしない。

事実、直後にその騎士の一人は吹き飛ばされ壁に激突、気を失った。

シオリの魔法が当たったのだ。


大きな音に驚き立ち止まってしまったもう一人の衛士には首の後ろにディンブルの剣が叩き込まれている。

峰打ちなので首は飛ばなかったものの、衛士はその場で崩れ落ちた。


二の門には四人の衛士が待ち構えていた。

その間をリーナを連れた三人の衛士が抜けていく。


僅かに遅れて、トキトはそこへ斬り込んだ。

トキトは斬り込みざま四人の間をうまくすり抜けようと考えていたのだが、それはうまくいかなかった。

衛士の一人とトキトの剣がまともにぶつかり、勢いを殺されてしまったのだ。


直後、別の衛士が一人吹き飛ぶのを目の端に確認しつつその衛士と打ち合っていると、すぐ後ろにディンブルの気配を感じて、背中合わせで衛士と向き合った。

「トキト、何やってんだ! リーナ様をみすみす敵に渡してしまうなんて…」


「悪い。ちょっと目を離した隙に…」

話している間にも二人は衛士達と打ち合っている。三対二なので数的には不利だ。


シオリが剣を構えて近づいてくる。

それを見た衛士の一人がそちらに目を移した。

その僅かな隙をトキトは逃さなかった。

鎧の隙間から足を斬る。


「グウォ」

トキトは確かな手ごたえを感じつつ、次の衛士の腕を剣の背で思いっきり薙いだ。

剣の背では傷を追わせる事はできないが、その衝撃で怯んだところへすかさず足に剣を刺しこんでいく。

悪いがこれでこの二人は追いかけては来れないだろう。

脚を狙ったのはそのためだ。


トキトが剣を戻した時、もう一人の衛士が崩れ落ちた。

ディンブルと打ち合っているところを後ろからシオリに襲われたのだ。


シオリの持っている剣は以前のレイピアではなく、トキトと同じような片手剣で、しかも剣の刃はつぶしてあった。つまり、その剣なら思いっきり振っても人を殺さずに済むという事だ。

本当にやばい時には腰に差した陽炎の剣を使うという事なのだろう。


「何じろじろ見てんのよ。早く追いかけるわよ」

「別に何も見てねえよ」

実際、トキトはシオリを見ていた訳ではなく、わざわざ細工した剣を持ってきたことに驚いて、その剣をまじまじと見てしまっていただけだった訳なのだが、シオリに強く言われると、妙に強く言い返したくなってくる。

トキトはそれが不思議だった。


だが今はそんな事を考えている場合ではない。

ディンブルの駆けていく姿を見て、我に返ったトキトは余計な事は頭から除けて、リーナの事を追いかけた。


リーナはまだ三の門の内側には入っておらず、二人の衛士に引きずられるようにして急かされている。

何とか三の門に入る前に追いつきたいが微妙な距離だ。

トキトは、すぐ前を走るシオリに聞いた。

「魔法は球切れか?」

リーナを引きずっている衛士を一人走れなく出来れば、追いつけるのではないかと思ったのだ。


「まだ、何発かは打てると思うけど、無駄使いはできない。ほら、上を見て」

城壁の上を見ると、弓を構えた衛士が二名それぞれに弓を引いている。

なるほどあれを倒すにはロングレンジの武器が必要だ、などと思っているうちに遠慮なく矢が放たれた。


衛士が弓を放つところから見えていたトキトはわざと射線に入り剣で矢を払った。

衛士が驚き一瞬動きが止まったところにシオリが魔法を叩き込む。

あっという間に二人の弓兵は吹き飛ばされ、見えなくなった。


が、このわずかな時間にもリーナとの距離は離されている。

ややあってリーナを連れた衛士が三の門へと差しかかった。

三の門を守っている衛士は六名もいるようで、さすがに一瞬で通り抜ける事は出来そうもない。


その時、トキトの脇を大きな空気の流れが掠めていくのが分かった。

シオリの魔法だという事は直ぐに分かったのだが、今までのものとはどこか違う感じがする。

敢えて言うなら初見の一撃に近い感じか。


「ダメ、もう魔法は出ないみたい」

リーナを連れて行く衛士を狙った攻撃は力不足に終わってしまったようだった。

だが、これが意外な功を成す。

途中で制御がきかなくなった空気の塊は先に行くほど拡散し、衛士に届くころには周りの砂を大きく舞い上げていたのだ。

瞬間、衛士は舞い上げられた砂の渦に包まれる。


しかし、リーナを引き連れた衛士はそんな中でも構わず三の門へと向かっている。

風上を背にする形になった為、比較的視界を奪われずに済んだようなのだ。


すぐ後にディンブルが続いていく。

あらかじめ門で待ち構えていた衛士たちが砂の嵐をやり過ごしているわずかの間に、ディンブルはその風に乗るようにして衛士たちの間をすり抜けて行った。


砂嵐が収まり衛士たちの眼の前が開けると、そこにいるのはトキトとシオリの二人だけだった。

不可解に思う間もなく乱戦に突入する。

まずはトキトが騎士の一人と剣を交える事となった。

相手を殺さないよう加減しているトキト達に対して相手は本気だ。

ただ職務を全うするため侵入者を排除しようと必死になっている。


二合ほど剣を打ち合うと、別の衛士が斜め後ろから迫ってくるのが見えたので、これを避けると同時に剣を交えていた衛士をそちらの方へと軽く押しやる。

慌てた衛士は止まろうとするのだが、そう簡単には止まれない。

剣先をお互いに向けないよう腕を上げ両手を広げる事で、なんとかぶつかる寸前で回避することに成功した様だった。

この大きな隙を見逃す手はない。

トキトがたて続けに首筋に峰打ちを叩き込むと、二人は呆気なく崩れ落ちた。


一方、シオリもトキトに少し遅れて衛士の中に飛びこんでいた。

シオリは飛びこみざま一人の衛士の首に突きを繰り出し、そこから振り返りざまに別の衛士の胴を一閃、なぎ倒した。

剣は刃が潰してあるので死にはしないのだろうが、シオリの剣筋には躊躇が見られない。

たて続けに二人を戦闘不能にする。


あと二人。

トキトがそう思ったその時、何やら後ろが騒がしくなっている事に気が付いた。

ゴーという唸るような音が近づいてくる。

これは何者かが自分たちを追って来たとしか考えられない。

それも一人二人ではなく大挙して…だ。


「トキト、後ろから誰か来る」

シオリもそれに気が付いたようだった。

斬りかかる剣を躱しながらも盛んに後ろを気にしている。


「まだ距離がある。まずはここを片付けよう」

トキトは目の前の衛士の足を狙って斬りかかった。

衛士は足は捨てたとでも言うように、構わずトキトの胸を剣で突いてくる。

思わず避けそうになるトキトだったが、意識して剣を胸で受け、同時に衛士の足に剣を突き刺した。

そして衛士が脚をやられた事よりも自分の剣を弾かれた事に驚いているその隙に、トキトは剣を戻してその衛士に近づくと、通り抜けざまに剣の柄で股間を思いっきり突いた。

衛士が泡を吹いて倒れていく。


「あーあ、かわいそう。痛いんでしょ、そーゆーの」

見ると、シオリの向こう側にも泡を吹いて倒れている衛士がいる。

「そっちこそ、もう少し加減してやったらどうなんだ?」

「何言ってんの。トキトが胸に剣を受けるような真似をするから思わず力が入っちゃっただけじゃない」

どうやら、シオリはトキトがわざと剣を胸に受けた所を見て、必要以上に力が入ってしまったらしい。


「仰々しいから今は胴しかつけてないけど、お前だってこの鎧の堅さは知ってるだろう。だからわざと胸で受けたんだよ」

レンドローブの所から持ってきた鎧の性能がいい事は良くわかっている。

だからトキトはあえてその鎧で剣を受けたのだ。


「ふん、ちょっと忘れてただけよ、って、なれなれしくお前って呼ばないでって言ってるでしょ」


いちいち怒った様な言い方をされるのが引っ掛かるが、それでもトキトはシオリが自分の事を気にかけてくれていたと思うと、嬉しかった。

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