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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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依頼

トグルが去って少しすると、荒れ地にいたベルーの群れに変化がみられるようになってきた。

群れの端から少しずつ小さな集団が離れていくようになったのだ。


焦る気持ちを押さえつつ、しばらくその場で待機する事にする。

群れが分かれ始めた今、迂回するとなるとさらに大回りをしなくてはならなくなり、結局戻るのにも時間がかかる事になる為、体力だけ失って得るものがない。

止むを得ず、その場でもう一泊する事にして、ベルーの群れが散るのを待つ事にした。


携帯していた食料も底をつき、持っていた食べものは全て無くなってしまったのだが、幸い食料には困らなかった。

大きな群れから分かれて森へ向かい始めたベルーの小集団を狩ればよかったからだ。

大集団に襲われれば危険だが、五、六頭の小集団程度なら問題ない。

軽く仕留めて焼いて食べたのだが、残ったベルーは火を恐れて近づかなくなったので余計な接触も避けられ一石二鳥となった。


「何か別の手でも考えないといけませんね」

翌朝、焼いたベルーの肉を食べながらディンブルが言ってきた。

「別の手とは?」

トキトも食べながらディンブルに聞く。

「戴冠式に間に合わなかった時にどうするか、ですよ」


既に戴冠式は三日後に迫っている。

前日の儀式の時を狙って城に入ろうと考えるなら、明後日には王都エルファールにいなければならない。

これまでの事を考えると、エルファールまでは最低でもあと五日は見なくてはならないだろうから、普通に考えればもう手がない事になる。

次の機会を待つしかない状況だという事だ。


「何かいい手があるのか?」

「いや、しばらくは潜んでいるしかなさそうだ。ファロファロとのいざこざも今は落ち着いているし、他国と事を構える事もないからな。だから王直属の軍以外の軍隊も首都に残る可能性が高いんだ。そんな状況の中、無策でエルファール城に潜入しようなんて自殺行為だ。どこかで情報を仕入れつつ、ひたすらチャンスを待つしかない」


見ると、リーナは黙って隣に座るシロの背中を撫でながら、時々肉を食している。

「リーナはどう思う?」


リーナは少し考えてから答えた。

「私は、予定通りエルファールへ行きたいと思います」


「リーナ様、式典以降は軍も城に常駐するでしょうし、城の中にこっそり入る事なんてできないですよ。それよりはまた身を隠して時期を待つ方が…」

「いいえ、これ以上逃げるのは無理です。これからは式典に割かれていた人員も私の捜索に回されるでしょうから、とても逃げ切れないでしょう。それに、お二人にもこれ以上ご迷惑はおかけできません」


「迷惑なんて思いません」

すかさずディンブルが力強く反論するのに対しトキトは静かに問いかけた。

「で、どうするつもりだ」

自分と同じようにトキトも即座に否定すると思っていたディンブルは厳しい目でトキトの事を睨んだ。

それに気づいたリーナがディンブルが言葉を発する前に言った。


「とにかくエルファールに行こうと思います。そしてその時点で最善の策をとって城内に入ろうと思っています。もし、捕まって殺されるのなら私はそれまでの運命だったという事です。どのみち運よく兄上に会えても受け入れてもらえるかどうかなんて分からないのです。つまりは賭けみたいなものです。これから私に成すべき事があるのなら生きられるでしょうし、そうでないならそこまでの命だという事なのでしょう。そう考えれば城に入っても同じようなものです。もちろん、そんな中でも最善は尽くさないといけませんが…」


「会えたとしたて、兄さんが許してくれる可能性はどのくらいあると思っているんだ?」

「五分五分ではないでしょうか。兄は私の事を可愛がってくれました。ですから、恐らく個人的には殺したくはないと思っていてくれていると思います。けれど、兄は理由もなく掟を破る人でもありません。ですから、今まで通りにするかもしれません」


「行ってみなければわからない。つまり結局は運っていう事か」

「はい、そうなります。ですから、もうこれ以上待つことはないと思います。戴冠式前日が一番都合がよかったのは事実ですが、後は同じです。運に頼るしかありません」

どうせ運に頼るしかないのなら早めに決着をつけたいという事だろう。

ディンブルも黙って何やら思案している。


「よし、じゃあもう少しベルーが散ったら予定通りエルファールに行こう」

トキトの発言に、リーナと一緒にディンブルも小さく頷いている。


「でも、その前に試したいことがあるんだ」

その言葉にリーナとディンブルが顔を見合わせる。


「いや、できるかどうか分からないからあまり期待しないで欲しいんだけど…。うん、少しだけ一人になってくる。心配しなくていい、集中したいだけだから」

そんな風に言いながら、トキトは戸惑う二人をその場に残し、一人近くの岩陰へと向かった。


トキトが思いついたのはレンドローブの力を借りる事だ。

そろそろ一か月近くは経つはずなので、彼の言葉を信じれば、近場なら飛べるようになっていてもいい頃だと思ったのだ。

今いる場所が近場と言えるかどうかは微妙だが、頼んでみる価値くらいはあるとみている。

そもそも、その頼みが彼に届くかどうかが問題なのだが、彼の言葉によるとトキトが成長すれば遠くにいても会話ができるようになるはずだという事だった。

あれ以降、かなりの距離を移動しているはずなので、可能性は低いのかもしれないのだが…。


トキトは岩陰に入ると額に手を当て集中した。

そしてレンドローブに呼びかけてみた。

『レン、助けてほしいんだ。聞こえたら返事をくれ』


しかし、しばらく待っても返事は聞こえてこなかった。

『エルファールの王都まで二日以内で行きたいんだ。もし来れるのなら来てその背に乗せてくれないか』

何度か繰り返して見たのだが、やはり何の返事もない。


だめか…。

自分の修行が足りないのか、そもそもこんな長距離ではもともとダメなのか、良くは分からないがどうやら言葉は届かなかったらしい。

トキトは止む無く二人の所へ戻る事にした。

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