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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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再びの逃亡行

「本当に申し訳ない。俺の力不足だ」

城を出た三人はコルノザラウの街の城門を出ると、すぐに街道を外れ森へと入った。

街道は国軍と接触する可能性が高いと考えた為だ。


小高い丘の上にとりあえず安全そうな場所を見つけ、ディンブルはそこで二人にファフスデール家の支援が取り付けられなかったことを告げて頭を下げた。

その後、お互いに城の中での出来事について報告し合ったのだが、トキト達にとってはバル爺の言っていたことが嘘でなかった事が確認できたにすぎなかった。


「そうか、トキトも爺さんに会ったのか」

ディンブルも部屋に戻る途中、爺さんと会い、出口の方に行くようにと促されたらしい。

それで出口近くに早回りして待っていたのだそうだ。


「ところで爺さんの言っていた遠見の術ってどんなものなんだ?」

トキトが聞くと、ディンブルがそれを教えてくれた。

「遠くで起こっている事を見る事ができるらしい。といっても爺さんの場合、城の中からだと外の事まではわからないし、城の中はほとんど結界が張られているから使えないらしいのだがな」


「じゃあ、何で爺さんはお前らのやり取りが見れたんだ?」

考えてみると、城の内部には大概普通に結界が張られている。

数少ないとはいえ高位の魔法使いに城の中を自由に見て回られては困るからだ。

しかしもし結界が張られていたとすれば、爺さんにはディザルとディンブルのやりとりは分かるわけがないという事になる。


「もしかして、兄さんの部屋だけ結界を解除していたのか?」

それなら爺さんの魔法で見えるかもしれないが、そんな事をする意味があるのだろうか。

しかももしそうだとしたら城主であるディザルがその事を知らない訳がない。


「ねえ、ディザルって遠話の魔法が使えたよね」

リーナがディンブルに尋ねている。

遠話とは指定した遠くの人と会話ができる魔法だ。

「ディザルの遠話もそう遠くの人とはできないけど、城の中くらいならできるんじゃない?」


「要するにリーナ様は兄さんが意図的に爺さんに話を流していたと言うのですか」

そう考えるといろいろな事がすっきりと符合する、という事の様だ。


「まあ、どちらにしろディンブルの兄貴はリーナの事を知っていたと考えるべきだろうな」

爺さんでも知っているような事なのだから当主のディザルが知っていても不思議ではない。というか、当然知っていなければおかしい。

しかし、だとすると二人ともリーナを逃がそうとしていたという事になる。


「ファフスデール家っていうのは本当にリーナに好意的なんだな」

知っていたとすればディザルも意図的にリーナを逃がしたという事になるのだろうし、爺さんのあの言動も明らかにリーナの為のものだ。


「私は生まれた時からディンブルやディザルとは一緒だったから…」

「リーナ様はファフスデール家の太陽みたいなものだからな。多かれ少なかれ皆リーナ様の笑顔に癒された事があるんだよ。ファフスデール家の者は皆リーナ様が大好きなんだ」


「そのファフスデール家でもさすがに王家に黙ってエルファールまで連れて行く事はできないということか…」

トキトとしては、事の顛末の総括として言っただけだったのだが、それを聞いたディンブルは深くうな垂れるとかすれた声で言った。

「申し訳ない…」


深く落ち込んでいる様子のディンブルを見て、トキトはディンブルの肩を叩いて言った。

「い、いや。別にディンブルが落ち込むことはないさ。みんな好意的だということが分かっただけでもここに来た甲斐はあったよ。リーナが自由になった暁にはきっと力になってくれるに違いないからね。でも、少しくらいは美味しいものも食べたかったな」


ディザルとディスバルデの誘導に従わざるを得なかったとはいえ、滞在時間が短かった為、碌に食べ物を食べている時間がなかった事が悔やまれる。

これからしばらくは、また美味しい料理とは無縁の生活が続くのだろう。


「すみません。二人とも、私のために…」

「いいえ、私がリーナ様の為に働くのは当たり前の事。そのような物言いはおやめください」

リーナに最後まで言わせないというようにと、言葉を被せてディンブルが言ってくる。


トキトもそれに加わった。

「俺達はリーナのネガティブ発言なんか聞きたくないんだよ」

「俺達って…、俺は別にそんなことは……」

トキトの言い様にクレームをつけようとするディンブルを無視し、トキトは言った。


「俺達はリーナに生き延びてもらって、幸せになってもらいたいんだ」

「でも、トキトは私とは何の関係もないというのに…」

リーナが申し訳なさそうに俯いて言う。

トキトはそんなリーナの肩に手を掛けた。


「俺はここまでリーナとかなり長い時間一緒に生活してきて、それなりに信頼関係も結べたものと思っていたんだけどな。それは俺の思い違いだったのか?」

「いいえ、そういうわけではなのですが…」

リーナは頭を少し上げ、トキトの顔を下から覗きこむようにして見つめてくる。


その予想以上の可愛らしさに内心照れながら、トキトは軽い口調で続けた。

「第一、リーナを自由にしてやらないと後でイチハに何を言われるかわからないし、シオリには蹴っ飛ばされそうだろ。だから、リーナが俺の事を可哀そうだと思うのならとっとと兄さんからお墨付きとやらをもらって来てくれ」

ディンブルが横で、イチハとは誰だ、シオリと言うのは何者だ、などと聞いてきているが、トキトはとりあえず聞こえないふりをすることにした。

リーナは少し元気を取り戻したように見えた。


「そうですね……。だいぶ弱気になっていたのかもしれません。こんな私ですが二人ともこれからも私に力を貸してください」

「もちろんさ。そしてみんなで力を合わせて生き延びよう。生きてさえいればきっといい事に巡り合える」

トキトの横ではディンブルも頷いている。


「ありがとう、みんな一緒に幸せになりましょう」

リーナはとびっきりの笑顔で二人の間に飛びついていった。

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