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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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馬上の途

ディンブルの隠れ家を出てから二日の後、トキト達はコルノザラウの街に着いた。


コルノザラウまでは途中の村には泊まらず、できるだけ馬を走らせ夜は野営で済ませた。

当初ディンブルが「リーナ様をこんな所で休ませるわけにはいかない」と息巻いていたのだが、追手に見つかるような形跡はできるだけ残さない方がいいという説得に応じ、渋々納得した格好だ。


馬に乗る組み合わせでもひと騒動あった。

馬は二頭用意してあったので二人づつ分かれて乗る事になったのだが、馬を操れるのはディンブルとリーナしかいなかった。

自ずとリーナとトキト、ディンブルとレーシェルが同じ馬に乗る事になったのだが、それをディンブルが嫌がったのだ。

結局、リーナに言われて渋々その組み合わせで纏まったのだが、トキトがリーナに教わってすぐに馬を操れるようになり、普通にリーナをエスコートできるようになったので、ディンブルは余計に面白くなかったようだった。


そんなディンブルも、故郷コルノザラウの東門をくぐる頃には気持ちはだいぶ軽くなっていた。

「やっぱりこの街は良いな」

思わず漏れたその言葉にレーシェルが反応する。

「はい、ディンブル様。街並みもきれいだし、奴隷たちも変に縮こまっていないですし……、落ち着いたいい街ですね」


ファフスデール領内での奴隷の扱いはエルファール国内ではいい方だといえる。

比較的裕福な土地柄な上、領主に領地を広げようという野心も無く、得られた富は民のために使っているので、奴隷に無理な使役を強要するような事もほとんどない。


ディンブルは街を褒められ、だいぶ気分が良くなっていた。

「城の中はもっときれいだぞ。まあ、エルファール城とは比べられないけれどな。それでもなかなかのものだと思うぞ」

「はい、ディンブル様。それは楽しみですね。でも、私などが城に入ってもよろしいのでしょうか。皆さんにもご迷惑をおかけしてしまうのではありませんか?」

レーシェルはそのことがずっと気掛かりだったのだ。


「何を言っているんだ。君は俺達三人の命の恩人なのだから、そんな事を気にする必要はない。とはいえ、俺達はこの国のお尋ね者だから本当は偉そうなことも言えないのだけどね。でも、この街の中なら大丈夫だ」

「ありがとうございます、ディンブル様」

心配するなと言うように、ディンブルは軽く手を振った。


そうこうしているうちにファフスデール城の城門が近づいてくる。

トキトが馬を寄せディンブルに耳打ちした。

「大丈夫なんだろうな」


「街に入る時だって大丈夫だっただろう。城にだって普通に入れるに決まっている。自分の家なのだからな」

確かに、街の入口の城門ではディンブルが一言「通る」と言っただけで四人とも何の検問も受けずに通る事が出来た。

いわゆる顔パスと言うヤツだ。


「まあ、そうなのだろうけど、そう簡単にあっさり城に入れるなんて想像できないな」

「トキトの心配も分からないではないが、皆、リーナ様が俺と一緒にいるとは思っていないのだから、城の出入りくらい普通にできるさ。トキトの方こそ堂々としていてくれよ。変な動きをされるとかえって怪しまれてしまうからな」

リーナは髪の色が見えるように浅めの帽子をかぶっている。

帽子のつばは広めなので、俯いてさえいれば顔は隠れ、染めた黒髪だけがよく見える。


「分かった。信じるよ」

トキトはそう言って、馬を下げディンブルの斜め後方へと落ち着いた。


城の入口へと差し掛かると、さすがに一旦衛士に止められはしたものの、ディンブルと一言二言やりとりしただけですぐに通された。

その時、トキトはディンブルと話していた衛士の後ろにいたもう一人の衛士が厳しい目でディンブルとトキトの前、つまりリーナの事を睨むように見ていたことに気が付いた。

いきなり斬り掛かってきそうな雰囲気さえ醸し出している。

しかし、結局、その男は何も言わず、斬りかかってくる様な事もなかったので、トキトはほっと胸をなでおろした。


城に入るとディンブルが自慢げに馬を寄せてきた。

ほら、問題なかっただろう、とでも言いたげだ。

トキトはそれには気が付かないふりをして言った。

「で、これからどうするんだ?」

二頭の馬は併走した状態で、この状態だと四人で話す事が出来る。


「俺もしばらくここには顔を見せていなかった訳だし、まずは兄貴に挨拶に行かないとだな」

久々に実の兄に会いに行くと言う割には、ディンブルはあまり嬉しそうでもない。

ディンブルが何か考えている様子でいると、リーナが口を開いた。

「私も行った方がいいのかしら…」


リーナはディンブルの兄であるディザルとも幼馴染だ。

いくら髪を染めていても間違いなく正体はばれてしまうだろう。

そんな所へリーナを行かせていいものだろうか、という思いがトキトには有る。

「そこまで信用していいんだろうな」


少し厳しめの口調で言ってきたトキトの問いかけに、ディンブルは少し考えてから答えた。

「そうだな、王家から何か圧力がかかっているかもしれないし、まずは俺一人で…、いや、レーシェルの事を頼みがてら様子を見てみよう。その間、二人は俺の友人として俺の部屋で待っていてくれ」

結局、安全を見て、少し様子を窺っておこうと考えたようだった。


トキトもそれは同感だった。

そうなると、次はレーシェルの事が心配になる。

「レーシェルの事は任せて大丈夫なんだろうな」


「その点は心配のないようにしておく。レーシェルは王家とは何のかかわりもないのだから万が一俺達が追われることになっても大丈夫だ」

トキトは俺も王家とは関係ない、と言い返そうとして、もう十分関わり合ってしまった事に思い至り、言い返すのを止めた。


代わりにレーシェルに声を掛ける。

「最悪、レーシェルだけでも幸せになってもらわないとな」


するとレーシェルはむきになって言いかえして来た。

「いいえ、ご主人様。私だけなどという事は考えられません。ご主人様も奥様もディンブル様もみんな一緒です」

レーシェルは身を乗り出し過ぎて、馬から落ちそうになったところをディンブルに押さえられている。


「レーシェル、落ち着いて。わかった、わかったよ。だから、レーシェルはこの城で待っていてくれ」

「はい、ご主人様。私はここで待っている間に必ずご主人様のお役にたつ何かを身に付けます。ですから、必ず迎えに来てください」


「わかった。約束するよ」

この先どうなるかわからないのにこんな約束をして大丈夫なのかと言う思いもあるが、まあいいだろう。

そうでも言わなければ話が先に進みそうも無いとも思い、トキトは軽く返事をしてしまっていた。

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