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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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レーシェルの出自

結局、馬車の御者には用ができたのでここで降りると告げ、三人で歩いて王都エルファールへと向かう事にした。

馬車代はエルファールまでの代金を前払いしていたので大損害なのだが仕方がない。

レーシェルを助ける事が出来たと思えば安いものだ。


商人の乗っていた馬車は気付いたらもういなくなっていた。

あの後すぐにこの村を出発していったらしい。

トキトはレーシェルの私物がなかったのか心配したが、替えの衣類がある程度で他には何もないという事だったので気にしないことにした。


街道を歩いてみると、リーナは歩く事に慣れたのか、そこそこの速さで歩く事ができるようになっていた。

レーシェルも意外に健脚の様で二人のペースに余裕で付いてこれている。

たまにちょっとした段差に躓いてこけそうになるのはご愛嬌だが、ペースを落とさずに進めるのは有難かった。


「レーシェルはどこの出身なの?」

しばらくしてトキトがレーシェルの隣に並び、話しかけた。

「はい、ご主人様。出身といっていいのかどうかは分かりませんが、幼いころはポートワーズにおりました」

リーナがトキトとは反対側の隣に並び、レーシェルを真ん中にして三人で横一列になって歩いていく。


「じゃあ、あの商人のところに来る前はポートワーズにいたっていう事?」

「はい、奥様。十一歳まではポートワーズの騎士様の家に居りました。騎士様が戦死されて奴隷商に売られて前のご主人様のところに来たのです」


「今十四歳だよね。じゃあ、三年間あの商人のところにいたのか。ひどい目に遭わなかった?」

「いいえ、ご主人様。私は他の奴隷と比べると鞭打ちとか暴力的な仕打ちは少なかったと思います。女の奴隷は十五歳になると、その…、知り合いに高値で売られていくようなのです。その時に高く売れるよう肌に傷をつけないように注意しているという事を聞いたことがあります。多分そのせいで私も鞭打ちなどはほとんど受けずにすみました。私はよく失敗してしまうので、それなのに鞭打ちされないのが気に入らない方もいらっしゃるようでしたが…」

なるほど、それであの奴隷の男はレーシェルの事を目の敵にしていたと言う訳だ。


「でも、酷い事しないのも売るためだからね。大事にされていた訳じゃないと思うわ。実際に売られていった娘もいたのでしょう」

「はい、奥様。だん…元のご主人様は子どもを買う事が多かったようで、女は十五歳になると大概は売られていってしまいます。私が知っているだけで五人が売られていきました。付き合いは短い方達ばかりですが、昨日までいた人が急にいなくなるのは寂しいものです」


トキトはレーシェルに、もう大丈夫だ、と言ってあげたかったのだが言えなかった。

なぜなら自分たちは命を懸けて王のところへ行こうとしているのだ。

今リーナの事がばれたらレーシェルまでひどい目に遭わされるかもしれない。

それならまだあの商人の元にいた方がよかったと後悔する事になるかもしれないのだ。


「ねえ、リン。レーシェルを奴隷から解放する事ってできるんだよね」

奴隷はその持ち主に拘束されるが、奴隷でなくなれば自分で自由に行動できるようになるとリーナは言っていた。

だとすれば、レーシェルは何も自分達と一緒に行動しなくても済むようになる。


「官舎で買った時と同額のお金を支払えば可能だけど…。トキトさん、今あなたいくら持っているのですか? 今だから言いますけどあんな大金を持っているなんて私、知りませんでした。まあ、何にお金を使おうと、私がとやかく言う事ではありませんが」

もともとリーナはトキト達に助けられている身だ。

トキトが何にお金を使おうが文句を言える立場ではない。

それはリーナも分かっているので、商人との話の際にも話を合わせるようにしてきた。

しかし、あらかじめ知っていればもっと他の対応の仕方もあったかもしれないとも感じている。


「いや、あの金貨がそんなに価値のあるものだなんて知らなかったんだ。知っていればファロンデルムでリーナにもっといい物を買ってあげてたさ」

そんな高価な金貨をどこで手に入れたのか疑問に思ったリーナだったが、閃界人ならそんな事もあるのかもしれないと思う事にする。


「それは別に構わないのですけど…。でももし、それだけのお金を持っているのだとしてもレーシェルを今すぐ開放するのはやめた方がいいと思います。レーシェルは、今一人で放り出されても、どうしたらいいかわからないでしょうから。下手をしたら悪い奴に騙されて奴隷に逆戻りなんて言う事も考えられますし」


「ち、ちょっと待ってください。ご主人様。奥様。私のために無用なお金を払うなど、そんな話をしてはだめです。ご主人様にご迷惑をおかけする訳には参りません。私は、お許しいただけるならご主人様と奥様の元で働かせていただければそれで充分です。そして何十年かかるかは分かりませんがお金は自分で貯めます」

レーシェルは慌てて話に割って入った。

自分の為に大金を使う話をされ、驚いたのだ。


「レーシェルの言う事も分かるんだけど、訳有って俺達と一緒にいると良くないことが起こるかもしれないんだ。まあ、これからどうなるかは分からないけど、少なくともその輪っかは外しておいた方がいい。リン、官舎でお金を払えば輪っかは外せるんだろう?」

なにか言いたげなレーシェルを遮りトキトはリーナに問いかけた。


「その感じだとお金はまだ持っているっていう事ですね。……。ええ、お金を払えば奴隷からは解放できます。そうすればその輪も外してもらえます」

「よし、それじゃあそれだけはやっておこう。その後の事は追々考える事にしよう」


「ご主人様、奥様。そんな事をされたら私はどうすればいいか困ってしまいます。確かに私は大したことはできないかもしれませんが、一生懸命やりますので、どうか無駄にお金を使いませんようお願いします」

レーシェルは必死に訴えている。


「レーシェルは自由になりたくないの?」

あまり必死に言うのでトキトは疑問に思って聞いてみた。


「いえ、ご主人様。自由にはなりたいですが、それで他の誰かが不幸になるのでは嫌です」

「それなら問題ない。俺達はこのくらいのお金が無くなったって全然平気さ。不幸に何かならない」

レーシェルはトキトの言っている意味が掴みかねないでいるようで、何を言えばいいかと困っている。

確かに、そんな大金をポンと出す人がいるなど普通は考えられないだろう。

しかし、トキトの持っているお金はレンドローブのところから持ってきたもので、もともとトキトのものではない。

それに、レンドローブのところへ行けばもっとたくさんの金貨があったことも知っているのだ。

いざとなればそれを貰いに行けばいいだけの話だ。

レンドローブもダメとは言わないだろう。


「ねえレーシェル。うちの旦那様がせっかくああ言ってくれているんだから、甘えちゃっていいんじゃない。その輪っかは付けて無い方がいろいろと都合がいいと思うし、レーシェルが気になるなら、奴隷でなくなってもトキトの手伝いをすればいいじゃない。そうすれば恩返しにもなるわ」


「しかし、奥様。私ごときに使うお金があるのなら奥様が何かしてもらった方がいいのでは?」

「そんな事は気にしないで大丈夫。この人はこれから私のために命をかけてくれようとしているの。お金なんか目じゃないわ。ね、そうでしょう?」

トキトはリーナがまるで本当の奥さんのように振る舞うのを見て悪くないなと思いつつ、やはりこれから命がけになるのだろうなと改めて気を引き締めた。


「ああ、そうだな。これからが大変だ」

遠くを見ながらそう答えるトキトの横顔をレーシェルはじっと見つめている。

何か言いたいことはありそうだったが、レーシェルは結局黙っていた。


一方リーナはトキトの言葉でこれからの道のりを思い出すと、自分がレーシェルよりもよほど迷惑な存在に思えてきて落ち込みそうになっていた。

そんなリーナに気付いたトキトはわざと元気な声で言った。

「さあ、まずはサルヌイまで早い所行ってしまおう。大丈夫、きっとみんな上手く行くさ」

トキトはそう言うと何かをごまかす様にペースを上げた。

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