表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
34/491

風の民

夕食後、ソウゴ達に頼み、トキト、リーナ、イチハの三人だけになる機会を作ってもらった。今後の計画を立てるためだ。

そして相談の結果、自分たちの正体を明かすことを決めた。

迷った末の決断だった。

彼等と一緒にいる間にエルファールの国軍に見つかったりすれば、ソウゴ達にも迷惑をかけてしまう事になる、と言うのがその理由だ。


シオリとルーは動かす事ができない為、少なくとも二人はここでしばらく療養するしかないし、トキトやリーナがこの場所から何処かへ移動するにしても、彼らの力は不可欠だ。

彼等に協力だけ求めておいて、何も言わないでいた場合、万が一、見つかって彼等も一緒に捕まってしまった場合、彼等は訳も知らずに罰せられることになる。

何も訳がわからないまま、恩人を牢獄の人にする訳にはいかない。


それに、何より彼らがいなければ自分達は終わっていた。

尾根の道から落ちたのはシオリとルーだけだったが、もしあのまま二人が助からなかったら、他の三人の受けるダメージも今とは比べ物にならないものだった事だろう。

特にイチハは二人が助かった今でさえ以前の元気はいまだ戻っていない。


だから彼らに嘘は付けない。

たとえ、そのせいで捕まる様なことになったとしても仕方がない。

その場合でも最後まで抵抗はするつもりだが…。


居間に戻り、ソウゴ達兄弟三人に集まってもらうと、トキトはそこで自分達の正体を明かした。

リーナが手配中のエルファールの第三王女だという事やその為偽名を使っていた事。

トキト達三人が風の民を装っていた事と、自分達が閃界と言われる異界から来たという事。

レンドローブの事も細かい点は省略しつつも正直に話した。

三人は閃界の話をした時とレンドローブの名前が出た時に顔色が少し変わったように見えたものの、他はずっと黙って大人しく聞いてくれた。


「我々は追い出されても仕方がない立場です。出て行けと言われれば出ていくしかありません。ですが、シオリとルーの二人だけはせめて傷が治るまで、ここに置いてやってはいただけませんか? 勝手な物言いだとは思いますが、お願いします」

トキトは最後にそう言って、深々と頭を下げた。

リーナとイチハもトキトに倣って頭を下げている。


対してソウゴは、あまり表情を変えていなかった。

「いや、そんな心配は無用だ。我々はエルファールの事情など関知していない。だから気にしないで、好きなだけ居てもらって構わない」

そして、トーゴとユウリと目で何か言葉を交わしてから、トキトの正面に来た。


「我々も君達の容姿は気になっていた。我々風の民とあまりにも似た容姿だからだ。リーナとルーの変装には気付いていたが、他の三人はそうではないと分かっていた。それなのに我々風の民と酷似している。もしかしたら我々が会った事のないどこかの家系の者かとも思ったが、風の民同士で知らない者がいるはずがない。だからおかしいと思っていたのだ。だが、閃界から新たに来たのだとすれば納得できる」


ここでソウゴは少し間を開けた。

その間を利用し、トキトは聞いた。

「何が納得できるんですか?」


その質問に対しては、別の方向から答えが返ってきた。

「実は私達の祖先も閃界人なの」

答えたのはユウリだった。


「私たち風の民は六十年ほど前に閃界の日本と言う国から来た閃界人の子孫なの。私達兄弟の場合は祖父と祖母が閃界人」

まさかこんな所で日本と言う言葉を聞くとは思わなかったので驚いたトキトだったが、自分達以外にもこの世界に呼ばれた人がいる事については聞いていた事を思い出した。

だが、レンドローブの話では過去二百年に現れた閃界人は自分達以外にはいないと言う話だった。

レンドローブは全て喰ったと言っていたのだ。


だが、彼らが嘘をついているとは思えない。

現に三人とも自分達日本人と良く似た容姿をしている。

レンドローブが見逃したのか、それとも別のルートが存在するのか分からないが、彼らの言っている事は信じられるとみていいのだろう。

初めてソウゴと話した時に感じた違和感もこの事が影響しているのかもしれない。


トキトがしばし考えに浸っているその間に、ソウゴが語り始めている。

「トキトはこの世界の国の成り立ちについてご存じだろうか。エルファールの姫様なら知っているだろうが、ベオソーン山脈とビオイオル山の間の中原と呼ばれる地域には現在七つの国と三つの自治都市が存在している。我々が調べたところによると、これらの国を興したのは恐らくは閃界人だ。何百年、何千年も前の話になるので、一部神話化し、伝説と化してはいるものもあるが、我々は恐らくそうだろうと思っている」

リーナが大きく一つ頷いた。知っていたという事らしい。だからこそリーナはトキト達が閃界人だと知った時、助けを求めようと思ったのかもしれない。


「我が祖父達も同じように国を興そうとしたのだが、残念ながらうまくいかなかった。住みよい土地はすでにどこかが手に入れた後だったので適当な場所が見つからなかったのだ。だから我々は分かれて世界中を旅して理想の地を探すことにした。それが風の民の始まりだ。我々は今、ある村を起点として世界の各所を巡り永住の地を探している」


ソウゴはここでいったん言葉を区切り、トーゴとユウリをちらと見てから続けた。

「と、言うのが風の民が世界中を旅している最大の理由だ」

最大と言うからには別の理由もある、という事なのかもしれないが、ソウゴはそれ以上話を続けるつもりがなさそうだった。

実際、細かい事まで聞いた所でどうしようもない事も事実なので、だとすると、聞かなくてもいいという事になる。

下手に首を突っ込んで、今以上にややこしい事に巻き込まれたりしたら、たまったものではないからだ。


「私達兄弟も住むのにいい場所を探し廻っているうちにここに来たの。今ある村じゃ不便だし、なにより一族全員が住むには狭い場所なの」

「なるほど、だからこんな辺境の地にいたっていう事か」

トキトがそんな風に言うと、ユウリは少し困ったような表情をしながらも頷いてみせた。


「そういうことなの。でも、ここに来ていてよかったの。でなければあなた達に会えなかったもの。さっき兄さんたちとも話していたんだけど、あなた達とはなんだか他人のような気がしないの。不思議と自然に振る舞えるというか、なんだか兄弟とか家族みたいに感じるの。そんな人となんてなかなか会えないもの」

ユウリはそう言って微笑んだ。

トキトの方も、ユウリ達三人には不思議な親近感を感じていたのだが、相手も同じように思ってくれていたという事で、これは嬉しい。


という事もあって、トキトがユウリの爽やかな笑顔に目を奪われていると、すぐ横からリーナの少し尖った声が聞こえてきた。

「トキトさん。……。ユウリさん達の好意は嬉しいのですが、私が長くここに留まると迷惑をおかけしてしまうかもしれません。それに、今まで言わなかったのですが戴冠式が終わると準備に駆り出されていた兵が警備に専念するようになるので、兄様と会う事が難しくなるのです。ルーとシオリさんがこのような状況の中で申し訳ないのですが、できる事ならすぐにでも王都に向かう事は出来ないでしょうか?」


「戴冠式っていつなの?」

「今日から数えて三十一日後です。今日はもう終わりますので実質は三十日後になります」

唐突な話にトキトは驚いたが、確かに、どうせ行くのなら、なるべく警備が厳しくない時期に行きたいと思うのは当然の事だといえる。


それに、リーナがここに留まっている間に追手が来た場合、ソウゴ達兄弟に迷惑をかける事になる事も間違いない。

リーナ探しが使命の部隊が髪を染めたくらいで簡単にリーナを見逃すとも思えないし、そうなるとソウゴ達兄弟まで捕まってしまう事だってあり得ない事ではない。

しかし、もしリーナがここに居なければ、つまりここに居るのがシオリとルーだけならば、風の民として誤魔化せる可能性も高くなる。

どのみち時間が無いというのであれば、ずっとここに居ても不利になるばかりだし、動けるメンバーだけでも動いた方がいいと考えるのは妥当だろう。


ソウゴが話に入ってくる。

「エルファールの兵士の事なら、何の情報もない状態なら、彼等はなかなかここまではたどり着けないとは思うのだが、お姫様の行方が分からないままなら、この辺りもくまなく調べられ、そのうちこの場所も分かってしまうかもしれない。そうなったらそうなったでこっちはそれでも構わないが、他に急ぐ用事があるというなら、そちらを優先してもらった方が、シオリさんやルーさんの治療のためにも助かると言えば助かる」


黙ってソウゴの話を聞いていたトキトはゆっくりと立ち上がった。

「いくら隠れていてもリーナが動けばそれなりに気配は残る。そしてそれを追う者はその気配のある場所を中心に探す…はず……。だとすると、動いた方がここを探し当てられる可能性は小さくなる…かもしれない」

リーナはトキトの顔を見つめ、その決断を待っている。


トキトは決めた。

「分かった。シオリとルーはソウゴ達に任せて、俺達だけでエルファールへ向かおう。急げばまだ軍の連中は街道まで来ていないかもしれない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ