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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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ソウゴの家

ソウゴが弟を連れてきてすぐ、トキト達の一行は彼らの家へと向かって歩き出した。


弟はトーゴと言う名で、がっしりしたソウゴと比べるとだいぶ細身な体つきの男だった。身長はソウゴよりも高く、短めの黒い髪を整えもせずそのままにしているというのに端正な顔だちのせいかそれが不快には思えない。

逆に男の目から見てもかっこいいと思える男だった。


道中はシオリを背負ったソウゴを先頭に、ルーを背負ったトーゴを最後尾にして後の三人(と一匹)を間に挟むようにして進む事になったのだが、その道は困難を極めた。

すぐに街道を外れ、とても道とは思えない場所を進まなくてはならなくなったからだ。


ついさっきシオリとルーが落ちた所と変わらない、碌に足場もない急勾配の、ほとんど崖のような場所をソウゴの後についていく。

トキトはリーナとイチハが落ちないように気を配りながらという事もあり、時間をかけてゆっくりと降りていくのが精いっぱいだった。

そこから先も獣でもなかなか通らないような険しい道を進み、しばらくすると崖の中腹に少しだけ平らな場所のあるところに出た。


そこで相談した結果、トキトとイチハとリーナの三人は、ソウゴが一旦先行し、そして迎えに戻って来るのをその場で待つ事となった。

三人の進みがあまりにも遅すぎたからだ。

このままでは怪我人の二人を日暮れまでにソウゴの家まで運ぶ事が出来なくなるという事で、怪我人のルーとシオリを、二人に先に連れて行ってもらう事にしたのだ。


シオリとルーだけ先行させる事については、少し不安に思う部分も無い事も無かったのだが、それ以上に二人の容態が心配だった。

ソウゴもトーゴも丁寧に運んでくれてはいるのだが、それでも少し大きく揺れるたびに二人がとても痛がるのだ。

一刻も早く手当てをしてもらうためにはソウゴに託すのが最善と、トキトはそう判断した。


ソウゴ達を見送った後、残されたトキト達はただひたすら待つ事に専念するしかなかった。

結局、そこで一晩過ごす事となったのだが、狭い場所で少々寝るのが窮屈だった他は特に不都合な事もなく、夜に鷹を一回りくらい大きくした鋭い爪を持った鳥に襲われた時も、トキトとイチハで難なく撃退した為、問題になるような事はなかった。


翌朝、約束通りソウゴとトーゴが迎えに来ると、彼等は今度はリーナとイチハを背負って行くと言い出した。

そして、イチハを背負ったトーゴはとっとと先に行ってしまい、リーナを背負ったソウゴがトキトの道案内をする為、そこに残ってくれた。

トキトはソウゴの助けを借りながらも、苦労して難路を進んで行くうちに、次第に難路を進むコツのようなものが掴めて来たのだが、それでもトキトがソウゴの家に着いたのは、既に日が暮れようという時間帯だった。


ソウゴの家では、シオリとルーはベッドに寝かされ、ソウゴ達の妹のユウリが看病をしてくれていた。

容態を聞くとシオリは左足を、ルーは右足を骨折していて、その他に全身を打撲していたのだそうだ。

二人はユウリが使ったという魔法のおかげで、とても穏やかな表情で眠っていた。


ユウリはシオリの枕元でシオリの様子を見てくれていた。

「ユウリさん、魔法を使って二人の手当てをしてくれたと伺いました。本当にありがとうございます」

そんなユウリにトキトが声をかけると、ユウリはすっと立ち上がりトキトの正面に立った。

トキトはこの時になって初めてユウリとまともに顔を合わす事となった。


ユウリは腰のあたりをベルトで絞ったワンピースを着ていて、その上に白いエプロンのようなものを着けていた。

ボリュームのあるセミロングの黒髪が、首から肩へと広がっていて、顔だちは二人の兄同様整っている。


ユウリはトキトと目を合わせて言った。

「いいえ、魔法と言っても私のできるのはほんの初歩の簡単なものだけなの。だから、痛みを和らげる程度の事ならできるけど、完全に治す事まではできないの。……。でも、心配しないで。私は怪我や病気の看護についても学んでいるから。多少時間はかかるかもしれないけど、二人とも元のように歩けるようになると思うの」


トキトはユウリの大きな黒い瞳に惹きつけられていた。

それで固まってしまい、トキトがユウリの差し出した手に気付いた時には、既にリーナがユウリの手を取っていた。

遅れて出したトキトの手が空を掴む。


「私からもお礼を言わせてください。ありがとうございます。私も若干は魔法が使えるのですが、治癒や回復の魔法を習うところまではいきませんでした」

「へー、あなたも魔法が使えるの?」

魔法を使える人がよほど珍しいのか、ユウリはもうリーナの方へと興味を移している。


「ええ、ウルオスで少し習いました。留学途中で呼び戻されてしまったので大した魔法は使えませんが…」

「じゃあ、私とどこかで会っているかもしれないの。私もウルオスに三年程行っていたの。こんなところで魔法を使える人と会えるなんて嬉しいの」


ユウリがリーナの手を握り返している。

「使えると言っても簡単な魔法しか使えないのですけどね。あっ、そうだ」

ここでリーナは、ユウリの手をするりと抜けた。

そして、すぐにイチハの手を引き戻ってくる。


「この子も簡単な魔法なら使えるんですよ。私が使える程度の簡単な魔法ですけれど、私が教えただけであっという間にマスターしてしまいましたもの」

「まあ、すごい。魔法はそう簡単に覚えられるモノなんかじゃないと思うの。彼女、天才じゃないの? ……。うん、それならあなたもウルオスに行くべきなの。きっとすごい魔法使いになれると思うの」


イチハは、初めはシオリの方を見ながら、何やらじっと考えている様子だったのだが、やがてリーナとユウリの方を向き、小さな声では有るものの、はっきりとした口調で二人に聞いた。

「そこへ行けば、魔法が使えるようになるの?」


「そうね、それでも何年かはかかると思うけど、あなたなら確実に使えるようになるわ」

リーナは以前教えた時から、イチハには素質があると確信していた。

なので、迷いなくそう答えた。


そんな二人の背中にユウリが手を添えて言う。

「ねえねえ。二人とも、あっちで落ち着いて話をした方がいいと思うの」

ユウリは、そんな風に二人を別の部屋へと誘うと、両方の手で二人の背中を押すようにして、部屋から出て行った。

三人で魔法談義に花を咲かせるつもりなのかも知れない。


ユウリ達が部屋から出ていくと、ベッドに横になっている二人とトキト以外には誰もいなくなった。

ソウゴとトーゴは別室で何やら働いている。

夕食でも準備しているのかもしれない。


シオリもルーも浴衣のような薄手の前合せの寝巻の上から布団を掛けられている。

二人とも穏やかに寝ているが、少しだけ覗く地肌にも打撲の痕があり、きれいな顔には小さな擦り傷がいくつもついている。


トキトは、自分の力のなさに落胆していた。

たまたまレンドローブに勝つことができ、そのおかげで特別な力を得て、レンドローブからも期待され、何でもできるような気になっていたのではないだろうか。

以前の自分にはできなかった事が、少しくらいできるようになったからといって無敵になった訳ではない、という事は、充分わかっていたはずなのだが、こうして目の前にシオリが倒れているのを見ると、力を過信していたのではないかと反省せざるを得ない。


今回の事故の際には、トキトとしては出来る限りの事をやったと言っていいだろう。

現にイチハとリーナの事は守ったのだ。

しかしそれでもトキトは悔やまれて仕方がなかった。違うやり方だってあったはずなのだ。


少なくとももっとゆっくりと進むべきだった。

追手を恐れるあまり行程を強行し過ぎたため、みんなに疲れがたまってしまい、いざという時に力が出せなくなっていた、と言う事も確かにあるのだ。


行けるだけ行こうと言ったのはトキトだ。

トキトは、その責任はすべて自分にある、と感じていた。


特に、あの時の、崖を落ちて行くシオリの表情は忘れられない。

普段トキトを頼らないシオリが珍しく見せたトキトを頼った眼差し。


しかしその眼差しに答える事はできなかった。

本当は自分の身を投げ出してでも飛び出したかったのだが、両手に支えるリーナとイチハの手を離す事はできなかった。

あの時の事を思い出す度、トキトは今でも全身から脂汗が滲み出てくる。


「トキト、飯ができたぞ。大したものはないけど、我慢してくれ」

不意にソウゴに声を掛けられ、トキトはそれで我に返った。

「ありがとう、今行く」

トキトはそう言って、もう一度二人の顔を確認してから部屋を出た。

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