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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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側道発見

結局出発は昼を済ませてからという事になり、リーナとルーはミティーニに用立ててもらった染料で髪を黒く染め、トキト達と合わせ全員で風の民の一行に扮することにした。


名前については、リーナはリンと、ルーはコノミと呼ぶことになった。これは結局イチハがリーナとルーのイメージで決めたもので、二人も風の民っぽい名前だと気に入ってくれたようだった。


全員の準備が整うと、トキトがミティーニから焼いたディゴラの肉を受け取り、宿を出た。

ダルネスとミティーニが送るというのを断り、キティエラに対しては館に向かって礼だけして声はかけずに発つ事にした。


なるべく人と会わないように注意しながらこの街の北門を抜けると、しばらくは岩肌がむき出しになった荒涼とした風景が続き、その先ですぐに山道になった。

荷物を増やしたくなかったので服装は全員トールの街に入った時と同じ服装だったのだが、リーナとルー、いやリンとコノミの服は洗濯され綻んでいた所は縫い直されており、また、髪は黒く染められていたため、雰囲気はだいぶ違って見えるようになっていた。


山道に入ると木々の数が増え始め、やがてレンドローブのいた森と同じような風景となり、その日はそこで日が暮れた。

しかし、元気なうちに距離を稼いでおいた方がいい、という事になり、交代で光を灯す魔法を使いながら歩き続けた。

途中、イチハをトキトとシオリとルーが交代で背負い、ほとんど休みなく夜通し歩き続けると、明け方にはその森を抜けることができた。

魔獣はかなり頻繁に出現したのだが、今まで出くわした事のないものは現れなかったので、学習能力の高くなっているトキト達の敵ではなく、ほとんどが一撃でケリがつき、危ない目には合わずに済んだ。


「これだけ歩いたのに山は遠いな」

ため息交じりにトキトが言うと、シオリの口からも弱音が漏れる。

「山道はきついわ。森の中を歩いていた時の方がずっと楽だった」

気が付くと、周りには人の背の高さほどの低い木は生えているものの、背の高い木はほとんど見えなくなっていた。

足元にも岩がゴロゴロと転がっている為、かなり歩きにくい。


「イチハももうダメ」

今まで随分頑張って歩いてきたイチハだったが、道端に少し大きめの石を見つけると、その石の上に座り込んだ。

すぐにパムが駆け寄り、イチハの手を舐める。

元気づけようとしているようだ。


「リン、コノミ、少し休もう」

トキトは少し後ろを歩いていたリーナとルーに声をかけ、ここで休憩を取ることにした。先は長いし、無理に歩いても疲れて動けなくなってしまうのでは仕方がない。


「街からは大分来たと思うんだけど、まだ馬でも通れるくらいの道だよな」

心配しているのはその事だ。

頑張って距離を稼いだつもりでも、追っ手に馬を使われたらあっという間に差を詰められてしまう。


「もうそろそろ道が険しくなって、馬じゃ通れなくなるはずです」

ルーが地図を見て確認している。

馬が通れない場所まで行く事が出来れば、追手のスピードはぐんと落ちる。

早くそこまでたどり着きたいところだし、もっと言えば峠も越えてしまいたい。


「何とか早く山を越えたいな。そうすれば最悪街道を外れても何とかなるような気がするんだけど……、今街道から外れて隠れても、結局はこっち側のどこかに戻って来ざるを得ないだろうしさ」

峠の向こう側なら海まで出なくても山沿いに進んで行けば何とかなる可能性もあるのだが、峠の手前で街道を外れても、トールか、せいぜいラウトノの辺りに戻るしかなくなる事になる。

そうなるとニトラを目指して来たこれまでの努力が全て無駄になってしまう。


「イチハももうやだ。戻りたい」

「戻ったら捕まって殺されちゃうんだよ」

少し脅すようなシオリの口調に、イチハもムキになって噛みついて来る。

「追手なんてトキトとシオリでやっつけちゃえばいいじゃん」

「だから、相手も殺しちゃダメなんだって」

言いながら、トキトもイチハの隣に座った。


「ずーとミティーニさんたちのところに居たかったなー」

ため息をつくようにイチハが漏らすのを聞き、リーナが近づいてくる。

「ごめんなさい。イチハ。それから皆さんも」


その言葉を聞いて、シオリがすっと立ち上がった。

「もう、謝らないで。私達は自分達でこうする事に決めたんだから、あなたに謝られる筋合いはないわ」

シオリはリーナを睨んだその眼を、イチハの方へとすぅーっと移動させていく。

「イチハだって分かっているはず。でも、何か言わないとやっていられないだけ。ねっ、そうでしょ」

頷きながら小さくごめんなさいと言っているイチハに、小さくありがとうと返したリーナはイチハの前に来てしゃがみこむと、イチハの頭を軽く撫でた。


そんな二人の様子を見ながら、何の気なしにイチハの後ろの草むらに目をやったトキトは、背の低い木々の間に何者かが通った後のけもの道のような跡を見つけた。


よく見るとそこには人の足跡のようなものが残されている。

街道の反対側には続いていないので、何者かが木々の向こう側から街道に出て来たか、街道から木々の向こうへ入っていったか、という事らしい。


「ここ、誰かが通った跡がある」

「えっ、どこ?」

トキトの言葉につられ、シオリもそこを覗き込む。

更に他の皆も集まってくる。


「そうですね、これは人の足跡です。しかもそう古いものではないと思います」

ルーはいち早く二、三歩奥へと進み、そこで地面の状態を確かめた。


「まさか既にこの辺りにまで追手が来ていると言う訳じゃないわよね」

「落ち着いて、シオリ。追手と言うには早過ぎるし、仮に追手が来たにしても、わざわざこんなわき道を好んで進む訳がないよ。それより、この辺にも誰か住んでいる人がいると思った方がいいんじゃないかな。もしそうなら、一泊くらいさせてもらえれば体力的にもずいぶん助かるんだけど…」

トキトはパムを伴って、街道から見える範囲でなるべく奥まで進んでみたのだが、足跡は途切れる事無く、その先もずっと続いている。


「トキトさん。この足跡の人は街道に向かって歩いて行ったみたいです」

すぐ後ろまで進んできたリーナが自分の足元を指さした。

よく見ると、確かにそこだけ足跡の形が完全に残っている。

その足跡はリーナの言うとおり、つま先を街道に向けているように見える。


足跡の様子をさらに良く見てみようと思い、トキトはその場に屈みこみ、リーナのすぐ近くへと顔を寄せた。

「ほんと、リンの言うとおりだ。……、俺達はずっと街道を歩いてきたけど、だれともすれ違わなかった。という事は、この先に誰かが歩いている可能性が高いっていう事だよね」

トキトは取り決め通りリーナの事をリンと呼んだ。

普段から言っておかないといざという時に間違えそうだと思ったからだ。


「そこ! 何こそこそやってるの! 何かわかったんならこっちに来てちゃんと教えてよ」

突然大声でシオリに呼ばれて驚いたトキトは、慌てて立ち上がりリーナから距離を取った。そして、すぐに仁王立ちで睨んでいるシオリの方へと歩き出す。

その時、リーナの顔がほんのり桜色に染まっていた事に、トキトは気が付かなかった。

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