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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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ルート検討

朝食をとり終わると、皆でリーナの部屋に集まった。


二つあるベッドの片方にリーナとルーが、もう片方にトキトとシオリが二人づつ向かい合うように座る。イチハはその間に椅子をもってきて座った。

全員の真ん中に小さなテーブルを置き、ルーの持っていたエルファールの地図を広げる。

テーブルは部屋の隅の花瓶を置く台として使っていたものを使わせてもらった。

空気を読んだのかパムは部屋の隅で横になっている。


「さて、どこに向かおうか」

トキトが口火を切ると、すぐにリーナが話し始めた。昨日から色々と考えていたようだ。


「トールは辺境の街ですが、それでもこの街からは三つの街道が伸びています」

リーナは三本の指をたててそう言うと、すぐに人差し指だけを残し、後の二本を折りたたんだ。


「一つ目はラウトノへ向かうルート。このルートが一番普通のルートになります。ラウトノへのルートは街道もきちんと整備されていて旅をするには一番安全なのですが、追手はこの方向から来ますので必ずどこかですれ違う事になります」

リーナはシオリの目を見てひとつ頷き、指をもう一本立てて二本にした。


「二つ目は港町ニトラへ向かうルート。このルートは峠越えのルートで、かなりの山道な上、街道の整備は碌にできていません。かろうじて道が分かる程度にはなっていますが注意しないと街道から外れてしまってもおかしくない様な場所もあると聞いています。その上かなり険しい道のりで、馬での行き来すらできない区間さえあるほどです。このルートだと追手から逃げるのには一番都合がいいのですが、道中は魔獣も多く危険です。その上その先は海路でベルクロイを目指すことになるのですが、船の上だと逃げ場がなくなるリスクもあります」

トキトは広げた地図に見入りながら聞いている。


リーナは三本目の指をたてた。

「最後は廃墟の街ラフィに向かうルートです。ラフィは二十年前まで存在した最果ての小さな街で、今は人が住んでいません。ラフィからはトールへの街道しかありませんから、ラフィに行った場合、そこで身をひそめて追手をやり過ごすか、エルファールからは離れてしまいますが、謎の大陸と呼ばれる東の大陸に渡るかという選択になると思います」

地図を見るとラフィの先にも森は続いているようではあるのだが、その先は陸地はなくなっていて、海の先には東の大陸があるらしい。


「東の大陸ってどんなところなの?」

イチハは少し興味があるのか、ルー越しにリーナを覗き込むようにして聞いている。


「実はよく分かりません。聞くところによるとラフィから船で十日ほど行くと見えてくるらしいのですが、私の知る限りでは誰も行った人はいません。近づくと体調が悪くなる人が多くて誰も近づかなくなったという噂です」

トキトは顔を上げ、少しシオリの様子をうかがって見たが、特に反応はないようだった。恐らく昨晩話していた中にこの話もあったのだろう。


「リーナ、その三ルート以外のルートってないのかな。例えば俺達が来た森の中のルートとか…」

「確かにそういう手も考えられます。けれどその場合魔獣と出会う可能性がぐっと高くなる事と移動速度がぐんと遅くなる事は覚悟しなければなりません。それに、もう私たちがトールにいることがばれてしまったので、付近の森はしらみつぶしに探されてしまうでしょうから、今までのようにゆっくり歩いて行く訳にもいかないと思います」


「じゃあ、この真ん中の山を越えるっていうのは?」

トキトは、地図のある一点を指さして言った。

トキトが指さしたのはエルファール王国中央にある山脈で、王都エルファールと東部の中心都市カリムノスやラウトノ、トールとの間を隔てる山々だ。

街道を使うと山脈を大きく迂回し南部の大都市ファロンデルムを経由するか、山脈の反対側の端の比較的標高の低い峠を抜け、さらに海路を経由する事でしか王都エルファールまではたどり着けないのだが、中央にそびえる山を越えてしまえば行程は約三分の一に縮まる。


「ラウールの山々を越える事ができれば行程が短くなるのは間違いありません。しかし、ここの山々は高くて風も強いので相当な重装備をしなければ凍えてしまいます。過去何人もの商人がここを越えようとして命を落としているのです。なんとか山を越える事が出来るのは、トールからニトラへ抜けるルートくらいしかありません」


トキトは頷いて、地図から目を離すと、リーナの事を見つめた。

「うん、大体わかった。で、リーナはどうしたいと思っているの?」


するとリーナは少し考えてから口を開いた。

「昨夜、少しルーやシオリさんと話したのですが、その時は結論は出ませんでした。でも、その後考えて、私は一番うまくいく可能性が高いのはニトラへ向かうルートではないかと思いました。野獣の出るかもしれないルートなので、皆さんに助けてもらうことが前提になってしまうのですが…」


「そんなの当たり前じゃん。ね、トキト」

イチハが即答すると、トキトもシオリも頷いた。


そしてシオリは、今度はトキトに顔を近づけ、少し戸惑いながら小さな声でトキトに聞いた。

「ねえ、トキト。レンの力って借りられないのかな?」

シオリが小さな声で聞いてきたので、トキトも小さい声でシオリに言った。

「近場なら一か月で行けるって言っていたけど、山越えとなるともっと待たないときついんじゃないかな。それに奴は俺たちのすることに期待してるって言っていた。できるだけ俺達だけでやるべきなんじゃないか?」

シオリは小さく頷き、そして黙った。


リーナはトキトの判断を聞かせて欲しいと言った後、黙って返事を待っている。

「わかった。ニトラに向かおう。とにかく山を越えて、地図じゃよく分からないけど場合によってはニトラの手前で山沿いに森に入って街に出ないようにして、エルファールを目指すことも考えようか。でも、それもまずは山を越えてからだ」

見ると、リーナもシオリも頷いている。

イチハとルーは初めから決まったことには従うというスタンスだったので、何も異論はないようだ。


「それじゃあ、すぐに発った方がいいわね。なるべく追手から距離をとりたいし」

シオリが立ち上がり、イチハの手を引き部屋を出ようとする。


その前にとトキトが皆に向けて言う。

「じゃあ、みんな着替えたら俺の部屋に集まって。それと、その時までにこれからの旅に必要なものがあったら考えておいて。行く前に揃えられるものは揃えておいた方がいいから」


イチハがトキトを振り返る。

「ねえ、トキト、何でトキトの部屋に集まるの?」

イチハは今いるリーナの部屋に集まるものだと思っていたのだ。


「万が一着替え中に入っちゃったら、シオリの説教で出発が遅れちゃうだろう?」

トキトはイチハに向かって親指を立てた。


大体の場合において、着替えるのに時間がかかるのは女性の方だ。

シオリは何か言いたげな目をトキトに向け、しかし何も言わずに、イチハの手を引き部屋の戸を開け出て行った。

パムがイチハの後を追いかけていく。


二人の事を見送ると、トキトも椅子から立ち上がった。

そしてそこで思い出したようにリーナとルーに向かって言った。

「それから、リーナとルーはこれからは偽名を使った方がいいから考えておいて。それと、できれば髪の毛も染められないかな。なるべくリーナ達だと分からないようにしたい」


「ミティーニに何か髪を染めるモノがないか聞いてみます」

ルーの返事を確認したトキトは、出発の準備をするために自分の部屋へと戻っていった。

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