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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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和やかな朝食

シオリやリーナの誤解を解くのは大変だった。

幸いイチハがきちんと説明してくれたので大事には至らずに済んだのだが、その後もトキトはシオリに会うたびに白い目で見られる事となった。

確かに悪い所もあったとは思うのだが、いつまでも引きずられてしまうと辛い。

久しぶりのベッドだったというのに、トキトは疲れが全く取れなかった。


さえない頭を振るようにして食堂へと向かったトキトは、そこで朝食の準備をしているミティーニと会った。

「あら、トキトさん。昨日は大変でしたね。でも、おかげで皆さんの緊迫した雰囲気が少し和らいだようなので、良かったのではないですか?」

ミティーニはトキトの事を慰めているつもりなのかもしれないのだが、トキトにしてみれば、これは少しも慰めになっていない。

これからその緊迫した雰囲気の方々を相手に話しをしなければならないのだ。


トキトがミティーニに軽く会釈をして食堂に入ると、リーナとルーは向かい合う形ですでに朝食をとっていた。

「おはようございます」

トキトは二人と目を合わさず挨拶すると、リーナの隣の席に座った。

「おはようございます」

ルーの声が素っ気なく感じるのは気にし過ぎだろうか。


「おはようございます、トキトさん」

顔を上げ、二人を見ると二人とも微笑んでいた。

「リーナもルーもだいぶすっきりした様だね」

風呂から出た後はすぐに部屋に押し込められたので、シオリにさんざん怒られたこと以外、皆がどんな様子でいたのか、トキトはよく覚えていない。

だから清潔な石鹸の香りのする二人姿はトキトには新鮮に感じた。

特にリーナは美しかった。

着ているのはミティーニが用意してくれたただの部屋着なのだろうが、身体全体から清楚な美しさがにじみ出ている。


「ええ、久しぶりにルーとお風呂に入らせてもらいましたから。トキトさんがイチハちゃんと一緒に入ったみたいに…」

トキトは思わず飲んでいた水を吹き出しそうになってしまったが、何とかこらえた。

ゆっくりと隣のリーナを伺うように見ると、リーナがトキトの事を見て笑っている。


「嘘です。ちょっとからかっただけ。昨日の事はイチハちゃんから聞きましたから。イチハちゃんもお風呂用の服を着ていましたしね。でも、昨日のトキトさんとシオリさんのやり取りを見ていて、私も仲間に入れてもらいたい…なんて思っただけです。すみません」

トキトからすると、シオリには怒られていただけで少しも仲の良さそうな所は無かったと思うのだが、リーナはそうは受け取らなかったらしい。


「いや、もっと別の感じでリーナとは仲良くなりたいな」

この状況を誤魔化す思いもあり、トキトは勢いで柄にもない事を言ってしまっていたのだが、半分以上は本当に思っている事でもあった。


「私の前でリーナ様を口説かないでください」

珍しく鋭い眼つきでルーが身を乗り出してくる。

リーナはトキトと反対側を向いて俯いている。

「いや、別に口説いたわけじゃ…、ごめんなさい」


気まずさを感じたトキトが謝ると、リーナはびくっと肩を震わせた後、すぐに笑顔に戻って言った。

「それくらいの事で謝らないでください。私達はこれから生死を共にするのですから」

口調からリーナが何故か怒っている事が伝わってくる。


その時、ミティーニがトキトの分の朝食を持って来てくれた。

トキトはミティーニが持ってきてくれたその朝食を受け取ると、すぐにそれを食べ始めた。

パンと野菜とスープ、それにディゴラの肉を薄く切って焼いたものが少々。

昨日倒したディゴラはあの後キティエラの指示で何人かで回収し、それを解体して街の人たちに配ったらしい。

それをミティーニが朝食に使ったのだ。


「おっはよー、トキトー、リーナー、ルー」

少しして、イチハが跳ねるように食堂に入ってきた。すっかり元気が戻ったように見える。

少し遅れてシオリとパムも入ってくる。


「おはようございます、皆さん。あれっ、一人ロリコンが混じっているみたいだけど」

「昨日さんざん謝ったじゃない。イチハに経緯(いきさつ)は聞いたでしょ。そんなに怒らないでよ」

イチハはトキトの隣に、シオリはトキトの正面の席に着いた。

パムはイチハの膝の上に収まったようだ。


「イチハもあの後、シオリに怒られちゃった。トキトとお風呂に入っちゃダメだって。トキトが狼さんになっちゃうんだって」

イチハがトキトを下から見上げるように見つめてくる。

幼いイチハだが、そうすると少しだけ艶っぽく見えてドキッとする。


「いっ、いや、そんな事にはならないから」

トキトは慌てて手を振り否定してから、シオリに向きなおった。

「何吹き込んでるんだよシオリ」


「ほら、今だってイチハを見ていやらしいこと考えてたでしょ。わかるんだから」

シオリの目つきは冷たい。まるで氷のようだ。


「考えてないって。シオリの考え過ぎだよ」

しらばっくれるトキトにさらに言い返そうとするシオリよりも早くリーナが言った。

「三人は本当に仲がいいんですね」


拳を振り上げかけていたシオリは、リーナの事を見て我に返ったようで、握りしめていた拳をゆっくりと下ろした。

そのタイミングを狙っていたかのように、ルーが口をはさんでくる。

「皆さん、早く朝食を済ませてこれからの話をしませんか」


確かに今はふざけている場合ではない。シオリも表情を改める。

「早く食べて、これからどうするか話し合いましょう」

シオリの言葉にその場にいた全員が頷いた。

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