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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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街の外

「もうそろそろ森を出てもよさそうなものだと思うけど…」

シオリの魔法は途切れることなく続いていた。

シオリはなんともない風を装ってはいるが、かなり疲れているものと思われる。

それでも、イチハを背負っているトキトを気遣い、なんでもない様子で足元を照らし続けている。


「やっと着いた。畑だわ」

ようやく森の木々が途切れ、出た場所は畑のはずれだった。

遠くに街の篝火が見える。


「よかった。戻って来れた」

トキトもほっと一息ついた。シオリも魔法を解いて腕を降ろしている。


「あー、早くお風呂に入って寝ましょう。それにしても、この街の人達、冷たいんじゃない。誰も私達の事、探してくれている様子はないみたいよ」

シオリの口調は少し怒ってはいるものの、疲れているせいかあまり強い言い方はしていない。どちらかといえば落胆したと言う感じだ。


トキトはそんなシオリの言葉を聞きながら、辺りの様子を見回していたのだが、その風景に違和感を感じていた。

「おかしい。ディゴラがそのままだ」


トキトのやや緊迫した声音に、シオリは一瞬緊張した様子を見せたものの、すぐにその緊張を解いた。

「なんだ。何かと思えばそんな事か。もう夜だからじゃないの。人手も足りなそうだったし…」


「でも、ディゴラの肉は相当うまかったぞ。あれをほっとくなんて考えられなくないか?」

以前、トキト達が倒した時は、焼いて持って行ったくらいだ。

食糧が十分ある大きな街なら別かもしれないが、自給自足の街なら、ディゴラの肉は貴重な食料になるはずなのだ。


「確かに。森の中ならともかく、畑の真ん中で倒れているディゴラをそのままにしているのはおかしな感じがするわね。食べないまでも、畑の邪魔だろうに…」


そんな事を話しながら、畑の隅の休憩小屋の前を通り掛ると、トキトはおもむろにそこに置いてあったコンロの様な道具を持ち出して、それに火をつけた。

「何やってるの? すぐそこが街よ」

「お腹がすいてさ。ディゴラの肉でも食ってから帰ろうよ。イチハも大丈夫みたいだし」


「どういう事よ。早くベッドで寝ましょう。もちろん別々にだけどね」

「あのさあ、最後の一言いう必要ないでしょ。……。いや、お腹がすいたのも本当だけど、なんか嫌な予感もするんだよね。気のせいならいいんだけど、念のために腹ごしらえしておいた方がいいような気がするんだ。ディゴラはうまいし」


シオリも森を抜けるまでの間、だいぶ気を張っていたようで、疲れていたのか、あまり強くは反対してこなかった為、結局、その場でディゴラの肉を焼いて食べる事となった。


トキトとシオリで、頭を貫かれ絶命していたディゴラを食べる分だけ解体し、焼いて食べる事にする。

少し多めに焼いたのは、お土産として持って帰る為だ。

その間イチハはぐっすりと寝たままで目は覚ます事は無かった。


トキトもシオリも少しだけ食べるつもりでいたのだが、二人とも意外にお腹が空いていたようで、いつの間にかたくさん食べてしまっていた。

しかし、そのおかげで回復した二人は、その後ようやく東門に向かって歩き出した。


東門には門番はいなかった。

ディゴラの肉を焼いている時、なぜ門番は近づいてこないのだろうと思っていたが、いないのでは来るはずもない。

閉まったままの門をシオリが恐る恐る押してみると、門はあっさり開いてくれた。


「これじゃ門の意味ないんじゃない?」

「でも、入れないよりはありがたい」

「まあ、そうだけど…」


門を抜けても、街の中は静かだった。

遠くから微かに人の声は聞こえてくるのだが、人の往来は見られない。

「どういう事?」

「わからない」

街で夜を過ごすのは初めてだが、それでも街に異様な空気が流れていることは分かる。


「とにかく、早くリーナ達と合流してしまおう」

「イチハもちゃんと寝かさないと」


宿屋のある通りの入口辺りまで戻って来ると、さすがに人々のざわめきが聞こえるようになってきた。

角を曲がると五人くらいの人だかりが出来ている。

その中の一人がトキト達の事に気が付いて駆け寄ってきた。ミティーニさんだ。


「トキトさん、ご無事だったんですね。よかった。待っていたんです」

どういう訳かミティーニさんは慌てている。


「トキトさんとシオリさんが門の外へ出て行ってすぐに、館の騎士エルバサンが来てリーナさんを連れて行ってしまったんです。私もルーさんも止めたんですけど、エルバサンはこの街では一番強いのです。とてもかないませんでした」


話しを聞いたトキトは、街で一番強い人がなぜディゴラ退治に行かなかったのか、と思い、怒りがこみ上げてきた。

そして、もしかしたらあれはトキト達を街から誘き出す為の罠だったのかもしれない、という考えが頭をもたげてくる。

しかし、だとすると自分達の事をあっさり街に入れた事は辻褄が合わない。

リーナ達を国軍に引き渡すつもりなら、トキト達の事は引き渡しが完了するまで街に入れない方がいいはずなのだ。

トキトは分からなくなってきてしまった。


「それで、リーナは?」

「おそらくまだ館の中にいらっしゃると思います。ルーさんと一緒に何度もお館様をお訪ねしたのですが、中に入れてもらえませんでした。それでも、ルーさんは館に潜り込もうと色々していたみたいなのですが、先程、塀から落ちて足を痛めてしまって、今、夫に手当てをしてもらっています。パムちゃんも今はルーさんの側にいます」

恐らくはリーナの素性がばれたのだろう。

名前すら特に隠していた訳ではないので、分かる人には分かって当然だったという事だ。


「トキトさん。何でリーナさんは連れて行かれてしまったのですか? まさか何か悪いことをしたのではないですよね。……。ごめんなさい。リーナさんはそんな人ではありませんね。」

ミティーニも良く見ると服があちこち破れていて、手にも擦り傷がある。

ルーと一緒に館に侵入しようとしたのかもしれなかった。


トキトが何も言わないのを見て、シオリがトキトを一瞥してからミティーニに聞いた。

「エルバサンとかっていう奴は、リーナを連れて行く時に何か言っていなかった?」


「何かリーナさんを連れて行く理由を難しい言葉で言っていたと思うけど、良くは分かりませんでした。エルバサンは普段はいい人なんだけど、あの時はすごく怖かった。あっ、でも、王族がどうのこうのって言っていたような気がします」


「トキトっ!」

王族という言葉に反応したシオリが大きな声を出した。

その声にミティーニが驚いている。


「ルーにも話を聞いてみよう。どうするかはそれからだ」

トキトはイチハを背負ったまま、宿の中へと入って行った。

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