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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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合流

翌朝、昨晩のうちに良く焼いたディゴラの肉をリーナの持っていた布に包み、それを片方の肩に背負うような格好で、トキトは四人の先頭を歩いていた。


結局、昨晩はルーの目印になればという事もあり、ディエゴの肉を焼き続けたのだが、残念ながらルーは現れなかった。

火は朝まで絶やさなかったし、日が昇ってからしばらくの間も煙を立ち上らせていたので近くにいればわかるはずなのだが、現れなかったという事は、ルーはかなり大きくはぐれてしまったという事なのかもしれない。

残念だが、とりあえず合流は諦めた方が良さそうだ。


行き先をラウトノからトールに変える事になり、これからまたかなりの距離を歩かなければならなくなった事に加えて、もともとリーナを追っているエルファール国軍の兵士にも気付かれないよう、街道には出ず森の中を進む事にした為、ここから先もまだまだ時間がかかるし、疲れも溜まる事が想定される。

それでも目的地が決まった事でトキトはすっきりとした気分だった。


「それにしても、あの時は剣を持っていなくてよかった」

思い出すように空を見上げながら呟くトキトに、良く聞こえなかったのかすぐ隣まで近づいてきたリーナが、トキトの事を下から覗き込むようにして聞いて来る。


「何ですか?」

予想外に至近距離からの返事にトキトは思わず一歩後ずさった。


改めて見てみても、リーナはやはり美しい。

王女だと聞いた所為もあるのかもしれないが、こうして歩いているだけでも気品が感じられる。

こんな状況で、服などはあちこちが破け泥で汚れているのだが、それでもそこには色気というか艶のようなものが感じられる。

シオリも美少女だと思うのだが、この点ではとてもかなわないだろう。


「いや、リーナに初めて会った時の事だよ。何か出てきそうなときは大概剣を構えるんだけど、あの時は剣を構えなかった。剣を手にしていたらリーナに怪我をさせてしまうところだったからよかったなって思ったんだ」

「そうだよね、おかげでリーナの胸……」

口を挿もうとするイチハの言いたい事に気付いたトキトが、慌ててイチハの口を押えようとする。が、イチハがすぐに逃げた為、期せずして追いかけっこが始まった。

リーナはただ首をかしげている。


「なにそんな所でじゃれ合ってるの。森の中ではいつ何が出てくるかわからないのよ。私だけ警戒しながら歩いてたらバカみたいじゃない」

一番後ろを歩いていたシオリが、トキトとイチハがじゃれ合っているのを見て、二人の所まで小走りに駆け寄ってくる。


イチハはそれさえうまく躱していく。

「はーい。ごめんなさーい。だって、黙って歩いているだけじゃ疲れちゃうんだもん」


そして、少し離れたところにいたパムの所へと駆け寄っていく。

イチハがいなくなると、シオリはさらにトキトに近づき、厳しい目つきでトキトの事を睨みつけた。

腰に手を当てて胸をそり、仁王立ちだ。

結構大きな胸してるんだななどと一瞬邪まな考えが浮かんだトキトだったが、すぐに心の奥に押し込んで何気ない振りをする。


「ふざけてないで、ちゃんとやって」

良く考えると、なぜそんなに怒っているのかよく解らないのだが、先程やましいことを考えてしまった事もあり、何となく強くは出られない。

とりあえず謝ろうと口を開きかけたところで、イチハの叫ぶ声が聞こえてきた。

「みんな!来て!誰か倒れてる。ルーさんかも!」


真っ先に動き出したのはリーナだった。

トキトも内心助かった…と思いつつ、すぐに気を引き締め、走り出す。


「止まって! ゆっくり!」

が、すぐにイチハの厳しい声がして、リーナもトキトもそこで止まった。

そこへシオリも合流し、そこからは三人でゆっくりと近づいていく事となったのだが、その辺りには特に変わったモノは見当たらなかった。

他と変わらないただの背の低い草むらがあるだけだ。

その草むらの手前でパムが尻尾を激しく振っている。


ん? 

パムが反応する時には、大概そこに何かがあるはずなのだが、トキトが慎重に見回してみても、残念ながらそこには何も見あたらない。


「ほら、そこ」

しかし、イチハはすぐ目の前の草むらを指さしている。

何もないじゃないか、と言おうとしたトキトは、そこに有る微かな異変に気がついた。

よく見ると、その草むらの下が、穴になっている。


正確に言うと、目の前の草むらは、森の中にできたクレバスを覆うように育った蔦のような植物の上にできていたようなのだ。

一見しただけではまずわからない、わかりようもない場所なのだが、草むらの間に微かに隙間が出来ていて、その下が空洞になっているのが見て取れる。


そのあたりの草をまとめて一掴みして、ぐっと引っ張ると、草が一気にはぎ取られ、深さ三メートル程のクレバスが姿を現した。


「ルー!」

そのクレバスの底に横たわる人影を見つけた途端、リーナは走り出そうとし、その所為でリーナの足元が崩れ落ちた。

リーナの体がクレバスの中に落ちそうになるギリギリの所でトキトが捕まえ引き戻す。


「気を付けないとリーナまで落ちちゃうよ。落ち着いて」

言いながらトキトはシオリにリーナを預け、もう一度辺りの草を退けた。

そこに現れたのは長さ五メートル、幅二メートル、深さ三メートル程の小さなクレバスだった。

わかってさえいればジャンプすれば飛び越える事が出来るくらいの小さなクレバスだ。

その小ささゆえ蔦に覆われ、藪のように見えた為、天然の落とし穴となっていたのだ。


クレバスの底には女性が一人倒れている。

髪は少し紫がかった赤のショートカットで、前髪をそろえ、横の髪は耳から顎のあたりまで巻き込むようにしている。


それにしても、良くこんな場所を見つけたものだ。

さすがはパムだという所だろうか。

パムが何か要求するように見つめているのに気付き、トキトはパムの頭を少し乱暴に撫でてあげた。


そして隣で下に向かって盛んに呼びかけているリーナとイチハを横目に見ながら、クレバスの底へと降りていく。

このクレバスは、気を付けて降りれば難なく降りる事の出来る程度のものではあるだが、気づかずに落ちた場合は大きなダメージを喰らってもおかしくない。

ルーは、きっとそうやって気を失ってしまったのだ。


「大丈夫か?」

そう声をかけながらトキトが身体を大きく揺さぶると、ルーはそっと目を開けた。

そしてそのまましばらくトキトの顔を見つめ、おもむろに服の腰のあたりに手をやると、そこから小ぶりのナイフを取り出して、それをいきなりトキトに突き付けてきた。


トキトは、まさか助けに行ってナイフを突きつけられるとは思っていなかった為、うまく反応できずにいるうちに、ルーがそのナイフで突いてくる。

「うわっ! 何すんだ!」


後ろに倒れ、わずかにナイフをかわすのだが、狭いクレバスの中ではそう逃げ場がある訳ではない。

情けなく尻もちをついてしまった後は、もう身動きの取りようがなかった。

剣を抜く事もあきらめ両腕を頭の上で交差するように重ねたトキトは堅く目をつぶって覚悟を決めた。


「待って! ルー。 その人は味方よ!」

そこへリーナの声が降ってくる。

その声に気付いたルーはクレバスの上を見上げ、しかしなかなか状況が理解できない様子でしばらく戸惑ってはいたものの、最終的にはゆっくりとナイフをおろしてくれた。

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