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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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出会い

「レンーっ。そのうちってあとどのくらい歩けばいいんだよー」

イチハが文句を言いながらトキトの後ろをついてくる。

竜の穴を出てからすでに二日が経っていた。

その間誰にも会う事はなかったが、幸い強い獣にも出会わずに済んでいる。

レンドローブの忠告に従い、少しでも嫌な雰囲気の場所には近寄らない様にしているのが功を奏しているのかもしれない。


それでも角の三本あるイノシシや巨大な鼠の化け物などに襲われる事は有ったのだが、それは難なく退けることができた。

大猿とやりあった経験が大きかったものと思われる。


二日間で一番苦労した相手は長い角を持つウサギのような動物だった。

ものすごく速く動く為、攻撃が全く当たらないのだ。

それでもトキトとシオリで何度も何度も攻撃を受け続けると、次第に攻撃のパターンを見極める事が出来るようになり、最後はシオリの陽炎の剣の一撃で撃退できた。


夜はトキトとシオリで交代で番をしたのだが、夜行性のフクロウに似た猛禽類に一度襲われただけで、パムの協力もありトキトがそれを一撃で倒した後は何も現れなかった。


「イチハ。レンに文句を言ったって聞こえてないわよ」

シオリがイチハを諭している。

「そうだけどー。我慢できないんだもん」

確かに小学生の足に二日間歩きっぱなしの行程はきつい事は間違いない。

なるべく休みを入れるようにしてはいるものの、ほとんど一日中歩きっぱなしなのだから、文句の一つも言いたくなる。


「そういえばレンもどれくらい歩けば着くかわからないという様な事も言っていたしな。まさか一か月穴の底で待っていた方が結局早かったなんて事にはならないと思うけど」

「そんな事になったら許さないわ。ぶん殴ってやる」

「レンをぶん殴ったって自分の手が痛いだけだよ、シオリ」

「わかってる。言ってみただけ」

疲れているのだろう、シオリも殺気立っている。

加えて今朝からは獣一匹見かけない事もあって、緊張感もだいぶ薄くなっている。


「何か出てこないかなー」

「イチハ、いくらなんでもそれは不謹慎よ。強いやつが出てきたらどうするの」

これにはトキトもシオリの意見に賛成だ。


普通、野生の獣は出てこいと言ったからといって出てくるものでもない。

しかし、レンのおかげか剣や鎧のおかげかはわからないが、全くの初心者である自分たちがいつのまにか襲ってくる獣どもを退ける程度の事は難なくできるくらい強くなっている事を考えれば、言葉の力などと言うモノが存在してもおかしく無いようにも思えてくる。

その可能性を考慮すると、やはり余計な事は言わないようにするのが正解だろう。


「イチハ、シオリの言うとおりだよ。街に出るまで何も起こらないでくれた方がいいでしょ」

「だってー、つまらな……、ん。パム。どうかしたの?」

何気なく振り返ったトキトは、少し先で右手の藪を一身に見つめているパムに気が付いた。

尾を立てて、何やら警戒している様子に見える。

これはよくない傾向だ。

パムがこんな風になるときは気を付けなければいけない。


「シオリ、イチハを頼む」

トキトはシオリにイチハを任せ、駆け出した。

シオリはトキトが言うより前に、既にイチハを引き寄せている。

トキトはパムの隣に来ると、その藪を覗き込むようにしてしゃがみこんだ。


 「ワン!」

その時、何かの気配を感じたのか、パムが一声吠えた。

トキトがそれにつられてパムの方を見ると、それと同時に藪から何かが飛び出してきた。

その何かは、そのままトキトに激突すると、虚を突かれたトキトの事を仰向けに押し倒した。


一瞬、何が起こったかわからず混乱したトキトだったが、すぐに頭を振って立ち上がろうとする。

しかし、何かが胸の上に乗っていて起き上がれない。


「なにやってるの。トキト」

「きゃー、やらしい」

シオリが怖い目でこちらを見ている。

イチハは何やらからかっているような目だ。


「なにって、何かにぶつかられて…」

気が付くとトキトの上に乗っていたのは女の子だった。

しかも、偶然にもトキトの手はもろにその娘の胸を掴んでいる。

右手から、とても柔らかい気持ちのいい感触が伝わってくる。


「いつまでくっついているの。いやらしい」

「いや、偶然だよ、偶然。わざとの訳がないじゃないか」

慌ててそっとその娘の体の下から抜け出ると、トキトは彼女の身体を仰向けに寝かせた。

その娘はトキトとぶつかった時の衝撃の所為か、気を失っているようだった。


その娘は胴まわりだけ革でできているシャツにぼろぼろの大ぶりのスカートという格好で、お腹のあたりはコルセットのようなもので大きく絞られ、その紐を胸の前でリボンのように可愛らしく結んでいた。

シャツもスカートもあちこち擦れているものの造りがいい事はうかがえる。

染めているのかピンク色の髪を後ろで一つにまとめていて、肌の色は透き通るように白いのだが、手も足も擦り傷だらけだった。


「だいじょうぶ?おねえちゃん」

イチハが声をかけるが返事はない。


「やっと人に会えたけど、気絶しちゃったみたいだね」

「トキトのせいね」

二人がトキトを睨んでくる。


「いやいや、どちらかと言えばこっちの方が被害者でしょ」

「どこが? なんかいい思いまでしていたみたいだし」

「だから、あれは偶然だって。大体狙ってできるわけがないでしょ」

「へー、やっぱ狙ってたんだ」


シオリがからかって言っているのはわかっているつもりだが、どうしても反論したくなってくる。

トキトが、ちがう、と言おうとしたその時、イチハがそこに割って入った。

「待って、パムがまだ何か言いたそうなの」


見ると、ついさっきその娘が現れた藪からは少し離れた場所にある、別の草むらが揺れている。

パムが先ほどとは比べ物にならないほど警戒しているのがわかる。


トキトはおもむろに剣を抜くと、それを身体の前に持って来て構えた。その辺りからはどう見ても邪悪な気配が立ち上っている。

「シオリ、そこは頼む」

イチハやシオリに加えて、ここにはもう一人別の女の娘までいるのだ。

できるだけ離れた方がいいとトキトの予感が言っている。

トキトはわざと音を立てながら皆のいる場所から離れていった。


何者かは解らないがどうやらつられてくれたようで、草むらの先のざわざわした気配もトキトの足音の後を付いて来る。

少し開けた場所まで来た所でトキトが向き直ると、そんなトキトの前にそいつは姿を現した。

シオリ達からも見る事の出来る位置だ。


現れたのは全身が堅い鎧で覆われたサイのような獣で、体長は四メートル程度。

鹿のように立派な二本の角が前に向かって生えていて、口の横からは二本の鋭い牙が突き出ている。

そのサイも急に目の前に剣を構えた男が現れた為か、驚いて動きを止めている。


今までに相手にした事のある三本角のイノシシと比べ、随分と大きい事は確かだが、今身に付けている装備があれば、何とかする事は可能だと判断できる。

トキトはいつ相手が突進して来ても対応できるようにと、剣を構えたままゆっくりと近づいていった。


と、後ろから耳慣れない女性の声が届いてきた。

「だめ、×××!」

とっさの事で、何と言われたのかよくわからなかったトキトだっだが、何やら切迫した言い方に煽られ、反射的に横の茂みに飛び込んだ。


直後、何かがトキトの脇をかすめ、トキトがいた場所のすぐ後ろにあった木がトキトの頭のあたり高さで折れ、ゆっくりと倒れて行った。

裂け目からは、青白い放電が起こっているのがわかる。


びっくりしてサイの方を振り返ると二本の角の間、ちょうど額の上あたりに何やら青白い光が瞬いているのが見える。

どうやらそこから電撃を飛ばしてきたという事らしい。


すぐに光が輝きを増し、二発目の攻撃がトキトの前の茂みを襲ってくる。

トキトは直撃は逃れたものの目の前が一瞬真っ白になった。

どうしよう。

トキトが迷っているその間に、次の電撃が後方へと飛んでいく。

トキトのいる茂みではない、シオリ達のいる方だ。

シオリとイチハは倒れていた娘に肩を貸しながら森の中へと入っていくところで、電撃はシオリのすぐ後ろを抜けていき、木の枝を貫通していくのが見えた。


ほっとするのも束の間、サイが次の攻撃に入ろうとしているのがわかる。

前足で地面を強く掻きだすような格好をした後、すぐに走り始める。

サイの額の上では青白い光が瞬いている。

このサイは動きながらでも電撃が撃てるらしい。


狙っているのは遠くにいる三人のようだ。

そちらに向かって駆け始めている。

トキトの事は先ほどの電撃で倒したと思っているのか気にするそぶりも見せていない。


この隙を狙うしかない。

不思議と恐怖心は湧いてこなかった。

トキトはサイがトキトの横を通り抜けていくタイミングで藪から飛び出すと、刹那、風刃の剣を振るった。


すると剣はちょうどサイの角を薙ぐような形になり、二本の角はきれいな切断面を残し、その半分くらいの所から先が吹っ飛んだ。

同時にそこに出来かかっていた青白い光も四散する。

サイはトキトの方に向きを変える為、急停止しようとしたようだったのだが、しかしその時にはトキトは既にサイを追って走っていた。


そして後ろから一閃。

サイは大きな音とともにどうと倒れて事切れた。

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