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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第1章 竜の穴
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レンドローブ

トキトがシオリの頬を右手の甲で軽く三回ほど叩くとシオリの意識は回復した。

あっという間の出来事ではあったのだが、トキトにとっては長い一瞬だった。


シオリは、意識が戻るとすぐに聞いてきた。

「あいつはどこ。 イチハは…、大丈夫?」

「大猿はレンがやっつけてくれた。イチハはレンの背中の上だ。大丈夫。」

三匹目がシオリにまさに飛び掛かろうとしたあの時、レンドローブはその尻尾で一瞬のうちに三匹目を叩き飛ばしていた。

あまりの速さにトキトは一瞬何が起こったか全くわからなかったくらいだ。


イチハがレンの上で背中の突起につかまって二人の方を心配そうにのぞきこんでいるのが見える。

「イチハは大丈夫だ。それより、お前の方は大丈夫か?」

トキトはシオリを気づかって聞いてみた。

「うん、鎧のおかげかしら、大丈夫みたい。……。けど、お前って呼ばないで。」

「悪い。別に他意はないんだけど……。呼ばれたくないなら呼ばないよ。でも、良かった。俺もこの鎧には助けられたよ。それと、レンにもね」

トキトはそう言うと赤い竜を見上げた。


『我はいつからレンと呼ばれるようになったのか』

レンドローブが覗き込むように首を回してくる。

背中ではイチハが必死にしがみついている。

パムも一緒だ。


「とっさだったからね。悪かったよ。レンと呼ばれるのは嫌か? でも、とっさに呼ぶにはレンドローブは長い名前だから、そう呼ばせてもらえると助かるんだけどね」

『いや、主殿が望むなら我は別に構わんが、ただ、今までそんな風に呼ばれた事はなかったのでな』

顔色は分からないが、レンドローブは特に嫌がっているようにも思えない。

それよりもトキトは主殿と呼ばれた事の方が気に掛ったのだが、あまり気にし過ぎないようにしようと思い直した。


「じゃあ、今後はレンと呼ばせてもらうよ」

レンドローブは軽く頷いてトキトとシオリの前に顔を向けた。

その首の上からイチハが下をのぞきこんでいるのが見える。


「レンちゃん。レンちゃん。どうして起きてくれたの。まだ寝ている時間のはずでしょ。ひょっとしてイチハのおかげで傷が治っちゃった?」

小さな胸を思いっきり逸らして、イチハが自慢げに聞いている。


『もしかしたらそうかもしれん。だとすれば、小娘のおかげで主殿の命に答えることができたということにもなる。礼を言わせてもらおう』

「小娘じゃないって言ったでしょ。イチハだってば。まあ、でも少しは役に立ったんだね、良かった。」


大猿との戦いの間もずっとイチハは竜の上から動かなかった。

恐らくはその所為でイチハは大猿の狙いから外れたのだろう。

イチハまで狙われていたら戦況はどうなっていたかわからない。


「改めて言わせてもらうよ。ありがとう、レン。レンが助けてくれなければ全滅していたかもしれない。本当に助かったよ」

『我は主殿の命に従っただけだ。それに、あんな雑魚など礼を言われるほどのことでもない』


「あの大きいのが雑魚か…。まあ、レンから見ればそうかもしれないが、俺たちにとってはとても雑魚とは言えない相手だったと思うけど…」

トキトは言いながらシオリを見るが、そこではシオリもうなずいている。


『確かに普通の人間なら少し荷の重い相手ではあるかもしれんが、我が主殿は風刃の剣に暁の鎧、シオリは陽炎の剣に静寂の鎧、いずれも国宝級の装備をしているのだからあんな大猿ベルグごとき相手にならないはずなんだがな』


「そうなのか?でもそんなこと言ったって俺たちは元々ここの住民ではないんだ。今まで戦いなんかしたことがなかったんだから仕方がないだろ。」

と、トキトはそう反論したところで気付いた。


「ん?国宝級?これ、国宝級の代物なの?」

自分の持っている剣と鎧を見比べながら、聞いてみる。


『そうだ、我が長年にわたり各国から受けてきた貢物の中の一つ、だな』

レンドローブが心なしか自慢げにしているように見える。


『我はこの大陸の中部を縄張りとする竜だ。大陸の中部は人間が多く住んでいる地域だからな、各国に何年かに一度生贄の娘を出させている。その辺に転がっているものの中にはその際に貢物として差し出されたもの多い。どうせ我には使いようもないものなのだが、いつごろからか皆競って貢物をするようになったのだ』


「貢物をすれば生贄は返したという事?」

シオリが口を挿んでくる。

生贄の娘と言うところが気になったようだ。


『まさか。我は貢物など一度も望んだ事が無い。やつらが勝手に差し出してくるだけだ。大体貢物などといって、人間どもの価値観で良い物だと言われても、我には使い様のないものばかりだしな』


平然と言ってのけるレンドローブに恐る恐るシオリが重ねて尋ねる。

「じゃあその生贄の娘はどうなったの?」

トキトが慌ててイチハの様子を見るが、イチハも真剣に聴いている。


イチハに聞かせていい話なのかと迷っている間にレンはあっさり答えて言った。

『もちろん食ったさ。我もたまにはうまいものを食いたいしな。だが別に人間に敵意があるわけでもないからそれ以上は何もせんよ。普段は野獣どもで腹を満たしているし、そもそもそんなにものを食わなくても生きていけるしな』


「じゃあ、人間を食べなくてもいいじゃない」

シオリが怒って食って掛かる。

「レンって本当に人を食べてたんだ」

イチハの言葉にも抗議の色が込められている。


『お前たちの事は主との誓約があるから襲わない。だが、我も生き物だからな、食べなければ生きてはいけない。同じ食べるならうまいものの方がいいであろう。もっとも、我々は文化的な生活を送っている人間をむやみに襲ったりなどしないがな。だからこそ一定の数以上は喰わないように生贄を出させているという訳だ』

レンドローブは何食わぬ顔でそう言い切った。


シオリとイチハはまだ何か言いたそうにしていたが、結局、抑えたようだった。

トキトも含めここにいるもの全員は誓約さえなければ、いや誓約はあってもそれを破棄されてしまえば、今すぐにでも食べられてしまうかもしれない状態なのだから下手なことは言えない。


しかしトキトは思い切って聞いてみた。

「レン。その言い方なら人間を食べなくても生きていけるんだろう。なら、悪いけどこれからは人間を食べないようにしてくれないか?」


『それは命令か?』

レンドローブはしっかりとトキトの方に向きなおり、しっかりと目を合わせて聞いてくる。


「いや、そうではないが、希望と言うか、お願いと言うかそんな類の話だよ。できれば人がお前に喰われるところなど見たくない」

トキトはレンドローブの事を伺うように下から見上げ、しかしはっきりと言った。

シオリとイチハを気遣っての要望でもある。


レンドローブは何かを考えるように少しの間黙っていたが、やがてゆっくり口を開いた。

『主殿がそう言うのであれば、お前たちが生きている間だけならば人を喰わないと約束しても良い。だが、それ以上は約束できん』


「それでいい。そうしてくれ」

シオリもイチハもまだ何か言いたい事はありそうだったが、結局、黙っていた。


『わかった。まあ、それならば我の寿命からすればわずかの時間だ。我慢できないこともない。それよりも久々の閃界の者達がこれから何をするのか興味がある。我も主殿と契約した以上、関わることになるのだろうしな』

久々とはどういう意味なのか、それに他にもよく考えれば分からない事はたくさんある。

情報はできるだけ仕入れておくに越した事はない。

命にかかわる問題でもある。


「レン。いろいろと聞きたいことがある。教えてほしい」

トキトはこの世界の事について、レンドローブに聞いてみる事にした。

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