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第一話 俺と爺さん

 テレビを見ていると、たまに私は○○の生まれ変わりなんですとか言うタレントが居た。

 俺は今までずっと、そういうのはすべて嘘っぱちだと思っていた。が、つい数ヶ月前からそうは言えなくなってしまった。何故かというと――誰あろう、俺自身が転生などということを体験してしまったからである。しかも何故か、地球ではなく異世界にいるようだ。


 目が覚めた時、俺はボロイ小屋に居た。

 小屋の広さは四畳半ほどしかなく、生活設備は備え付けの小さな釜戸とベッドぐらいしかない。屋根は吹き抜けになっていて、天井板というものがなかった。梁とその上にある屋根板が丸見えだったのだ。なぜこんな場所に居るのかわからない俺は、当然のように近くに居る人間を呼ぼうとしたのだが。すぐに声がまともに出せないことに気づく。


「ギャギャ!?」


 驚いて自分の手足を見てみると、どう見ても高校生の身体ではなかった。丸っこいジャガイモのような手足は太く短く、部屋に置かれていた鍋などに比べて小さかった。いくら俺がピザデブだと言っても、明らかに手足と頭のバランスがおかしすぎい。どうみても幼児、いや赤ん坊だった。


 こうして自分の身体が赤ん坊になっていることを強制的に理解させられた俺は、それからしばらく情報収集に努めた。しかしなにぶん赤ん坊なので、わかることは少ない。意識を取り戻してから数カ月がたつが、わかったことは大きく分けて二つだ。


 一つは、俺はこの家で二人暮らしをしているということ。一人はもちろん俺で、もう一人は仙人のような雰囲気の爺さんだ。歳から考えると、爺さんは俺の父親などではない。たぶん、祖父でもないだろう。俺は生まれてから一度も両親に当たるような人物を見たこともなければ、話を聞かされたこともない。爺さんが祖父だとするなら、それはちょっと不自然だ。きっと俺はこの爺さんに拾われたんだろう。


 他人といっても、爺さんは俺のことをしっかりと世話してくれた。ミルクもちゃんと飲ませてくれるし、おしめもきちんと取り替えてくれる。手つきが不器用だったり、ミルクが濃すぎたりもしたが文句があろうはずもない。他人の子を拾って育てるなんて、なかなかできることじゃないし。


 二つ目は、今俺のいる世界が異世界だろうということ。

 これについては、爺さんが手から炎を出したときに気付いた。ライターも着火マンも持っていないのに、手のひらからボウッと青い炎が上がったのだ。大した大きさじゃなかったが、明らかに非科学的な現象だ。それまでも部屋の内装とか周囲の風景とかを見て何となく日本じゃないとは察していたが、これで俺の疑問は確信に変わった。


 せっかく転生したんだし、どうせなら強くなりたいよなあ……。

 異世界に転生したことを悟った俺は、漠然とそんなことを考えた。せっかく人生をやり直せる機会をもらったんだから、前世ではなれなかった強い男になってみたい。具体的には、不良をまとめて殴り飛ばせるぐらいに。


 しかし、いくらそう思っても身体は赤ん坊なわけで。とてもまだ鍛え始めることなんてできなかった――。




 時はあっという間に流れ、俺は三歳になった。

 最近になって言葉を覚え始めた俺は、世話をしてくれている爺さんの名前をようやく知った。

 彼の名前はオーガン。自称二百歳のスーパー老人である。

 年齢については適当に法螺をふいてるんじゃないかと思うが、その元気さと強さについては本物だ。この間も、自分よりふた回り以上も大きい熊を担いで帰ってきた。銃とかそんなものは一切持っていなかったから、素手で倒したんだと思う。現役バリバリのレスラーとかボクサーより確実に強い。


 そんな仙人みたいな爺さんは、住んでいる場所も仙人そのものだった。

 小屋は深い山々の中に立っていて、家の前を少し進むと断崖絶壁の深い谷が広がっている。さらに背後に広がる山森は深く、日が暮れると得体のしれない遠吠えが聞こえてきた。爺さんは「この森には人を食う魔物が住んでいる」と言っていたが、きっと嘘じゃない。


 こういう物騒な山奥での生活もあってか、爺さんは俺が戦い方を教えてほしいと頼むとあっさり承諾してくれた。基本的に毎日狩りと己の鍛錬しかしていないようだったから、暇だったのかもしれない。こうしてとにもかくにも俺は、爺さんから戦いの手ほどきをうけることになった。


「良いかの、まずは己の力を把握せねばならん。それがわからんことには、戦いようがないからのう。敵を知り、己を知ればそれすなわち無双という言葉もある」


 爺さんはもっともらしい口調でそう語ると、懐から小さな金属製の板を取り出した。爺さんはそれを俺に投げてよこすと、ごほんと咳払いをする。


「それは魔見板と言うてな、マクリムと呼ばれる特殊な金属でできておる。魔力を通せば通すほど黒くなるんじゃが、やってみい」


「はい!」


 クレジットカードほどの大きさの板をこすってみると、鏡でも触ったようにツルツルとしていた。比重が重いのか、ずっしりと手にめり込んでくる。俺は手に意識を集中すると、指先に力を込めてそこから血でも出すような要領で板に魔力を注ぎ込む。すると鉛色をしていた板が、ドンドンと色を変えて行く。


「ほう、ここまでいくか……」


 鉛色の板が濃いめの青色になったところで、変化は止まった。それを見た爺さんは、目元の皺を深めるとニヤッと言う笑みを浮かべる。どうやら爺さんの予想以上に、俺には素質があったらしい。


「こりゃ鍛えがいがあるのう。楽しみじゃあ……!」



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