第七話
エターナル・フォース・ブリザード(E・F・B)!!
このSSの更新は止まる!!
勢いだけでやってると冷静になったとき書けなくなって困るっていう・・・。
もうゴールしてもいいよね?
らいよーん・ちゃんねるー! ガオー!
by らいよん将軍
■ □ ■
学園地下深くに築かれた秘密基地。
ここに今、怪人達が一堂に会していた……秘密結社による秘密超会議である。
彼らは皆、一つの映像に釘付けとなっていた。
豪奢な赤の大広間。首領の椅子を頂に、青白く輝く空間投射モニターが掲げられている。
映されているのは、『馬頭怪人ウマナミン』の戦う勇姿!
「おお、おおおっ」
怪人達の間にどよめきが広がる。
「やった……やったぞ!」
「ついに巨大化薬の合成に成功したんだ!」
「うう、うううっ、涙が……」
ぎい、ぎい、と呻くが木霊する。
機密保持のため、意味の無い音しか叫べぬ木葉戦闘員達が、膝を着いて咽び泣いていた。
首領の御前にて姿勢を正さぬ無礼を、しかし上司であるはずの怪人達は誰も咎めることはなかった。
皆、男泣きに泣いていた。
「見よ、あの猛々しい姿! 巨大な体躯! ウマナミンの晴れ姿を!」
獅子の頭を持つ怪人が、雄叫びを上げる。
首領の椅子、その右側に巌のように侍る怪人である。
相応の地位に在る者にしか許されぬ場所は、その怪人が只者ではないことを示している。
当然である。
歴戦の兵を窺わせる傷が刻まれた顔面。
年経てもなお輝きを失わぬ鬣。
針金のように鋭い髯。
地響きの如く深く轟く咆哮。
その怪人、唯の老兵にあらず!
老いてより狡猾に、強く、気高く在り続けるは、ふるつわもの生き様よ!
顔面に刻まれた深い傷跡は戦士の証。歴戦の勇士の誉れ。
この怪人こそ四天王が最強の一、『金剛烈覇』――――――らいよん将軍である!
「ついにここまで来ましたな首領。世界と競う、この場まで」
「う、うん……あの、何で私ここにいるの……?」
「それこれも全ては首領のお力があってのこと。前首領のお側にお仕えし、数々の苦難を乗り越え幾星霜。
御孫様の時代となりて、ようやく、ようやくこの時が……! このらいよん、感激に打ち震えておりますわい!」
「あの、私のおじいちゃん、ただの庭師なんですけど……」
「ぐわっはっは! 超戦隊共を剪定する闇の庭師であった、ということですな! ただのなどと、流石は新首領様、器が広い。ぐわっはっは!」
「何それやめて! 闇のとか頭に付けるのやめて! 普通の! 普通の庭師だから! おじいちゃんに面白設定付けるのはやめて!」
「ちなみにこれが、秘密結社結成当時の記念写真です」
「プリクラ!? いや、これおじいちゃんだし! ていうか、おじいちゃんに角が生えてるし! ダブルピースしてるし! なにこれえ!」
「当時から前首領……おじい様はそれはもう凄まじい益荒男ぶりでございましたぞ。『森・ダークマン』の異名を聞けば、誰もが震え上がったものですわい」
「ダークマン!? 森・ダークマン!? やめてよ! 私もおじいちゃんも普通の森だよ!?」
「このような場所でまで、ご自身の偽装経歴を通そうとなされるとは……おお、このらいよん感服いたしました! ぐわっはっはっは! さあ、首領も下々の者に笑いかけてくださいませ! ぐわっはっは!」
「はひ……えひぇ、はは……ふへ……わけわかんないよぅ……」
モニターが掲げられた広場の頂に、赤カーペットが敷かれた豪奢な椅子に腰掛ける、少女が居た。
その少女、半泣きである。
半泣きで、怪人達に手を振っている。
ただの少女と侮るなかれ!
似合っていないレオタードにマント、角の生えた骨の兜……可愛らしい見た目はブラフだ!
この少女こそが秘密結社アヴァロニア、その首領である!
「かわいいぜぇ」
「新首領はかわいいぜぇ」
「悪の首領がこんなに可愛いわけがない」
「俺達の首領のかわいさは留まるところを知らない」
「あの日みた首領の名前を僕達はまだ知らない」
「首領に中の人などいない。あるとしたらそれは首領という名の普通の森さゲフンゲフン!」
「馬鹿お前消されるぞ! 空気嫁し!」
「勘違いじゃないけど勘違い乙!」
「おい、ちょっと待てお前ら落ち着け。普通の森さんが森・ダークマン様なわけないだろうが。あんなにかわいいのに」
「いや、その理屈はおかしい。それだと普通の森さんがかわいくないことになる」
「普通だろ! 普通の森さんは普通だろ!」
「普通だな!」
「ああ、普通だな! かわいいと思ったけど何かの間違いだったぜ!」
「普通だよな!」
「普通です! 首領!」
「首領は最高に普通です!」
「ひゃあ首領は普通だぜえ!」
「ふ・つ・う! ふ・つ・う!」
「なんだろう……全然嬉しくない……」
最後は森・ダークマンの声である。
ぎーぎー、としか聞こえない戦闘員達の暗号音声は、彼女の被った大きな角の生えたヘルメットによって、元音声として翻訳されて聞こえるのだ。
ヘルメットには集音マイク機能もあるために、聞きたくもないことも聞こえてしまう。
泣くべきか笑うべきか、それが問題だ。
「ところで、さっそく首領のブロマイド売られてるらしいぞ」
「おい、もれにも一枚よこせし」
「一番人気が首領、二番人気がアシナ……げふんげふん! ウルフ様。三番人気がパンツァー・ドラッへ様」
「おい、もれにも一枚よこせし!」
「あー、三番パンツ様かー。相変わらずだなー」
「ウルフ様は四天王辞められても人気あるよなあ」
「クールビューティー残酷ドSキャラだったはずが、今では尽くしたいのに裏目に出ちゃうダメダメツンデレキャラだからな」
「一粒で二度おいしい。おいしいです」
「わんわん丸様に殺意を覚えんこともない。が、ウルフ様のあの一面を引き出したのがわんわん丸様であって……うぬぬ! もにゃもにゃする!」
「まあまあ、パンツ様を見て癒されようぜ」
「ああ、パンツ様を見てると安心するよな」
「不動の二番手ポジションの安定感は異常」
「ベジタブル王子ポジションだよな」
「ちょっと! わたくしがあのワンコの下とかふざけないでくださいまし! あとわたくしのことおパンツとか言いやがったのは誰ですの!? ぶっ殺しますわよ!」
ローライズの少女が何やら喚いているが、戦闘員たちはほんわかとした表情でそれを眺めていた。
全員メットに顔が隠れていて、ぎーぎーとしか聞こえない会話であったが。
「まあ、待て。今日はめでたい日なんだ。パンツの話はやめようや」
「ちょっ、呼び捨て……ってわたくしはおパンツじゃないと何度言えば!」
「そうだな。パンツなんか今日はどうでもいいな」
「聞いてくださいまし! 話を聞いてくださいまし!」
パンツパンツと連呼された少女は、「衣装だもん。パンツじゃないから恥かしくないですわ」と涙目になっていた。
後のアヴァロニア学園学園長である。
少女はその後、自らの言葉を実現することとなる。
そう、パンツではないのだから、恥かしいものではないのだと。
アヴァロニア学園女子制服総ローライズ化まで、後5年――――――。
「さあ皆の者! 首領を称えるのだ!」
裂迫の圧力とともに、らいよん将軍が片手を高く掲げた。
「森・ダークマン様万歳! 結社万歳!」
秘密結社式秘密的美しき敬礼である!
「ダークマン様万歳!」
「秘密結社万歳!」
「森・ダークマン様万歳!」
「森! ダークマン! 森! ダークマン!」
「略して森マ――――――」
「カーッ!」
怒声と共に森・ダークマンが首領用大椅子の肘掛を殴り付けた。
失言をした戦闘員の足元に、ぱかっ、と大穴が開く。
ドップラー効果を残しながら戦闘員は奈落の底へと落ちていった。
無用心な発言は、死あるのみである。
「わわわたしのことをっ、ももっ、モリマ……んんんがーッ! その名前で呼ぶんじゃない! 略すな!」
「ぎっ、ギー!」
「誰か言うと思った。誰か言うと思いました! いい? 人の身体的特徴をあげつらうような人は! 私が地獄に送っちゃうんだからね!?」
「ギー!」
「おお、新首領……やはりワシの目に狂いはなかった。立派に御役目を果たされて……このらいよん、涙で前が見えませぬ!」
泣きそうになりながら下半身をマントで隠す森・ダークマンに、おいおいと漢泣きを始めるらいよん将軍。
今日も秘密結社は平常運転である。
「しかし」
「ああ、しかし」
「ようやく、ここまで……!」
怪人と戦闘員達は、目に涙を浮かべてモニタを見上げる。ウマナミンの雄々しき姿を。
ウマナミンの嘶きに大気が震える。その凄まじさや、モニタ越しであるというのに音の壁が圧し殺さんと迫ってくる様だ。
ウマナミンを中心とした一帯の建造物の、ガラスというガラスが、一斉に爆ぜ散った。
巨大化された肺腑から発せられる声量は、物理的威力を持って周囲へと撒き散らされたのである。
でかい、と誰かが口にした。
正しく、その通りである。これ以上の説明は不要だった。
あの巨大な姿こそが、数多く存在する秘密結社が例外なく切り札とする、怪人の巨大化である。
数多と存在する秘密結社には、当然ランク分けが存在する。
高ランクとそれ以外を分ける決定的な要因こそが、怪人の巨大化法を有しているか否かにあった。
秘密結社アヴァロニアでは、薬効により巨大化するに至ったのである。
露と消えるしかない弱小組織の一つでしかなかったこの組織も、巨大化薬の合成に成功し、ついに世界の名だたる秘密結社と競う、そのスタートラインに着いたのだ。
スタートライン、それ即ち――――――超戦隊の有する超巨大ロボットとの戦闘である!
ウマナミンは待っていた。
何処からか飛来した五つのメカが、合体し超巨大ロボットとなるを、ただ静かに気を廻らせ、待った。
そうだ。
合体途中を狙うなどと、卑怯な真似はしない。
真正面から打ち破ってこそ、同胞の無念は晴れる。我が憎悪は成就する。
そうだろう――――――。
ウマナミンは天を仰ぎ、何をかに語りかけているようであった。
数十秒とない短い時間の中、五つのメカが集まり、人型となる。
正義戦隊の超巨大ロボットだ。
剣を構え、見得を切った超巨大ロボットに、ウマナミンが今一度嘶きをぶつけ、駆け出していく。
そうだ。
完全となったこいつを下してこそ。
『真正面から打ち破ってこそが――――――悪の華道よ!』
モニタの中でウマナミンが叫んだ。
巨大化したウマナミンの蹄が、鉄の拳と真正面からぶつかり、今……火花を散らす!
「おおっ、ウマナミンが!」
「むう、押し負けている……肉弾戦では分が悪い、か」
「それを解らないウマナミンじゃないぜ。みろよ、下っ腹から棒を取り出したぞ! 擦ってる!」
映像の中、ウマナミンが下腹に巻いていた布を剥ぎ取り、股座の間からずるりと取り出した一物を構えた。
あれは――――――棒だ! 赤黒く脈打つ棒だ!
だが!
それは棒というにはあまりにも大きすぎた!
大きく、黒く、長く、そして太すぎた。それはまさに、鉄塊だった。
猛り狂う、ウマナミン自身であった!
ウマナミンの生体パーツから取り外された棒は、血管が激しく脈打ち、びぐびぐと断続的に震え上がっていた。
黒く、硬く、そして大きく猛っている棒。
これを仮に、ウマナミン棒と呼称しよう。
取り出されたウマナミン棒は外気に晒され、より一層に硬度を増していく!
太く!
長く!
黒く!
「おお、なんと立派な益荒男棒よ! このらいよん、お恥ずかしながら血が滾っておりますわい!」
「ええと、何か変な形してる……? キノコみたいな」
はて、と首を傾げる首領、森・ダークマン。
戦いはなお、激しさを増していく。
「いや……まて、まだウマナミンは棒を擦っているぞ!」
「おお……摩擦による刺激で、棒が太く、長くなっていく!」
「俺は知ってるぜ。ウマナミンの膨張率は、こんなもんじゃねぇってことを!」
屹立した棒をウマナミンは振り回す。
ここに武芸者がおれば、ウマナミンのウマナミン棒捌きに、目を見張ったことであろう。
『やや、あれこそは日本警察が現代に伝えし、近代警杖術に相違ない!』
こう驚きの声を張り上げただろう。
近代警杖術とは、相手が凶器、刃物や拳銃を所持していることを前提とした、日本警察が発展改良させ続けてきた特殊な武技である。
特筆すべきは、その流れが源流を遡れば、『真道夢想流棒術』に辿りつくことであろう。
故テラパオーンが修めし杖術である。
かつて、ウマナミンとテラパオーンは義兄弟であった。
否、そうなるはずであった。
ウマナミンの婚約者が、テラパオーンの妹であったのだ。
しかし、テラパオーンの妹であった毒穴ウツボカズラ女は、超正義戦隊の前に敗れ去った。
敗れた怪人は、爆浄あるのみ。
毒穴ウツボカズラ女は、灰となってこの世から消えた。
ウマナミンの、テラパオーンの、彼らの無念はいかほどのものであっただろう。
早駆けが専門の諜報部隊員であったウマナミンが、高める必要のない戦闘技能を、ああも見事に繰るまで鍛え上げたのは。
テラパオーンが修めし棒術を祖とする、近代警杖術を学んだ理由は。
心中察した怪人達は、流れる涙を拭ってはモニターを睨み付けた。
合成に成功したといえど、未だ試験薬の域をでぬ巨大化薬である。副作用の苛烈さは、死以外に無いと、あらかじめ四天王の一人である博士から伝えられている。
これがウマナミンの最後の戦いとなるだろう。
見逃してはならない。
「ああっ!」
悲鳴が上がった。
戦いはウマナミンが優勢であったかのように見えた。
しかし!
「ウマナミンの、ウマナミンが!」
「う、う、ウマナミン棒が!」
「ウマナミン棒が、斬られた!」
「真っ二つだ!」
戦闘員達は皆、前のめりになりながら叫んだ。
合体ロボが、ウマナミンの構えたウマナミン棒を、超鋼ブレードで両断したのである。
皆、内股となって膝をがくがくと震わせながら悲鳴を上げた。
よほどショックなのだろう。
ウマナミンの一物が断ち切られたことが。
「いや、待て、あれを見ろ!」
「あ、あ、あれは!」
その時、驚愕の声が上がった!
「ウマナミンの、ウマナミンが!」
「ウマナミン棒が、二本に!?」
「ほう……獲物を隠しておったか。流石はウマナミン、腹に一物抱えた男よ」
らいよん将軍の眼がカッと開かれた。
「否! 二物か!」
おおう、と怪人と戦闘員から歓心の声が上がる。なるほど、と。
らいよん将軍も良い事を言ったと満足気に頷いた。
「何なのこの人達。皆馬鹿なの……?」
森・ダークマンは頭を抱えていた。
「ようし、ではカメラ! もっと近付けい!」
らいよん将軍が中継カメラへと指示を出す。
「らいよーん・ちゃんねるー! ズーム・イン!」
「つっこまない。私はつっこまない」
心得た、とカメラがズームし、ウマナミンと合体ロボの姿を映す。
湧きたつ会議場を後にして、立ち去る影があった。
自由奔放に跳ねる銀の髪。
天を突くは、二本の獣耳。
空を揺らぐ、獣の尻尾。
露出が多く、しかし要所を十分に守っている鎧と衣服。
そして、鋭い眼光が、一つ。
片側には、黒く艶やかな眼帯が。そのの奥にはきっと、激情が隠されているのだろう。
狼を模した意匠を感じさせる風体の、少女である。
「あーらわんこさんたら、何処にいくのかしら?」
「うるせえ、私に構うな。向こういけよ痴女」
「だから! これは! パンツじゃないと! 何度言ったら! 露出を言うならあなたも同じようなものでしょうが!」
「あのなあ、なんでお前絡んでくるんだよ。私はもう四天王じゃないんだから、放っとけよ」
「組織唯一の人造人間だからってお高くとまってらして? 馬鹿を言ってはいけませんわ!
女は自らを磨く生き物。あなたのように産まれからして他と違うなんて、こまっしゃくれた考えを持っている女がわたくし大嫌いですのよ!
血統がなんですか! 女は、誇りを持たねば! だいたいねえ、あなたは……あなた、泣いていらして?」
「泣いてねえよ」
「でもあなた、それ」
「泣いてねえって!」
合点がいったというように、ローライズの少女は頷いた。
「ああ、カメラ係りは、警軍の……では、あのカメラマンは、わんわん丸さんですのね」
「そうだよ、あいつばっかり、いつも貧乏くじを引かされる」
「そうですの……ウマナミンさんは、わんわん丸さんの腹心でしたわね。薬の開発に成功したとはいえ、元からの戦闘力が低い彼では……。
部下が嬲りものにされていくのを目の当たりにするのは、つらいですわね」
「くそっ……」
「変わりましたわね、あなた。昔は部下がどれだけ死のうが、何の感慨も抱かなかった冷酷女でしたのに」
ぎろりと睨んで、狼の少女は何も口にせず、立ち去った。
「女は己を磨くべき。その理由が男であることは気に食いませんが、認めてあげますわ。あなた、とっても綺麗ですのよ」
改造人間……否、人造人間とは、人であって人ではない存在だ。
かつて彼女は己の存在に悩み、諦め、そして自らの在り方を研ぎ澄ましていたかのように見えた。
それがローライズの少女には、たまらなく眩しく見えたのだった。
だが、それがどうだ。今はあんなにも人間臭くなってしまったではないか。
鈍ったかと思っていた。だが、違う。以前よりも、もっと、ずっと輝きを増しているかのように見える。
彼女の命そのものが、賛美歌を叫んでいるようにして。
ローライズの少女は、その変化を歓迎する。
そして、得心した。
なるほど、彼女がこんなにも大きく変わったのは、何も特別なことではない。
何と言う程のことでもなかった。
女は恋をすると綺麗になる。
つまりは、そういうことだった。
会場のボルテージが最高潮へと昂っていく――――――。