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第六話 悲しき過去と翠玉の石版

 ――わたしの家族はここからコアトリクエを挟んで北西にあるガリア帝国に住んでいました。

 わたしの父、アレッサンドロ・バルサモは冒険者それもパイオニアであり、特に鉱山の発掘や鉱脈の発見を主な仕事としていました。そして母、ジャンヌ・バルサモは同じく冒険者でしたが伝承研究家でもあり、魔宝石の伝承の研究をしていました。だから両親は何度かわたしにお土産といい宝石の原石を持ち帰ってくれたのを覚えています。

 しかし、父は母と共に無実の罪で投獄されました。聞いた事があると思いますガリア皇家を騙したという『偽宝石事件』。史上最大級の大きさを誇るダイヤの原石、カリナン・ダイヤモンド。父はそれを発見し、王家に献上しました。しかし、実際に皇家に献上されたものはまったくの偽物の只のガラスでした。ガリア皇帝ユリウス・ボナパルトはそれに怒り、わたしの両親は投獄そのまま獄死しました。しかし、わたしは見ていました、父の仲間であったボーマニャンという男がカリナン・ダイヤモンドによく似た只のガラスの塊をガリア皇家に仕える者に渡すのを。

 この事件の後、ボーマニャンは父のチームのチームリーダーを引き継いで今も冒険者をしています。しかもあの男は母の研究資料の殆どを強奪とも言えるような形で引き継ぎました。わたしは、両親はボーマニャンに嵌められたのだと訴え出ました。しかし、まだ子供だったわたしの言葉は誰にも届きませんでした。

わたしはあの男が許せない! 間違いなくあの男がわたしの両親を貶め、わたしから全てを奪った! だからわたしはあの男に復讐がしたいのです! そのために力を貸してください!




「断る」

 ルチアの独白を聞いて、クロードはその願いをスッパリと断った。

「そうですわ! 復讐なんて何も生みません!」

 ニーナもルチアを説得する。

「そうだよ。きっとバルサモさんのご両親も望んでいないよ!」

 レオンもそれに続く。

「あなた達に何がわかるの!? 全てを、名誉すらも奪われたこの気持が!」

 ルチアが激高する。

「別にわかるわけねぇし、俺はそこまでレオンとニーナみたいに綺麗事を吐くつもりはない」

 クロードが再び口を開く。

「誰が言ったが知らねぇが『撃っていいのは撃たれる覚悟があるものだけ』。言い方を変えよう『人を呪わば穴二つ』。誰かを殺そうとするならば自分も死ぬ覚悟がなければいけねぇ。その覚悟がないのに復讐を果たそうとするならば俺は止めるし、その覚悟が有っても、俺は死のうとする奴に戦いを教える気は一切ない」

 クロードはそこで言葉を区切る。

「俺は殺す技は教えられない」

 静かに、しかし力強くクロードは言葉を投げかける。

「そうですか……。失礼しました……」

 ルチアはそれ以上の言葉は言わず、部屋を出る。

「待て」

 クロードはルチアを呼び止める。

「お前が復讐ではなく、一人の冒険者としてお前の母の研究を引き継ぎたいと、言うのならば、俺は後進の育成ということで力を貸しても良い」

 ルチアはその言葉に何も返答せず、部屋を出て行った。

「バルサモって聞いた時はまさかと思ったけど……」

 ルチアが部屋を出てしばらくした後、パウロが口を開く。クロードは何かを思い出そうと何かを考えている。そして「悪い。席を外す」とだけ言い、用務員棟の居住スペースに戻っていった。

「ストーン先生、何か知ってんすか?」

 シグルドがパウロに尋ねる。

「バルサモ。アレッサンドロ・バルサモ。有名なパイオニアだよ。悪い方向で、だけどね」

「と、言いますと?」

 ニーナも興味を抱く。

「詐欺罪で投獄されていたんだよ」

 パウロが答える

「あれ? それはさっきバルサモさんが言っていた偽宝石事件じゃないんですか? それは冤罪の可能性があると……」

 レオンがパウロに反論する。

「それじゃない。火のないところに煙は立たない。偽宝石事件より以前にアレッサンドロ・バルサモはカリオストロという偽名を使い様々な詐欺事件を起こす山師だったんだ。だから冤罪の可能性があるにもかかわらずすぐに投獄されたんだと思うよ」

「山師って主に投機や投資の持ちかけを利用して人を騙す詐欺師のことだよな」

「そう。釈放後は真面目に冒険者をしていた。だからこそ皇家に宝石を献上して信頼を取り戻そうとしたんだろうね。そこを嵌められた、ってところかな?」

「じゃあ、それをミスバルサモに……」

「良くないかなぁ……。多分、ミスバルサモは父親がそんな人間だったなんて知らないんじゃないかな? 釈放されたのは確か二十年前だ。僕はたまたまパイオニア時代の彼と仕事をしたことがあるから知っているだけで」

「え? じゃあ用務員さんも?」

「いや、クロードはハンターだから詳しくは知らないと思う。僕は今言った通りパイオニアだったけどね」

「しかし、詐欺師ですか……」

 レオンがため息を吐くように言葉を漏らす。

「よくある話だぜ」

 部屋に居る全員、声がした方に目をやる。そこには日記のような本を持ったクロードが居た。

「レオン。冒険者が探索の為の資金作りのなかでそれ以前の探索による結果を除くと何がある?」

 クロードがレオンを指名し、質問する。

「えっと……。依頼による報酬、資産家や領主に雇われて用心棒、あと副業で稼ぐ人もいるそうですが……」

「その通り。だが、しばしば違法な行為で金を稼ぐバカが居るんだよ。アレッサンドロ・バルサモ、いやカリオストロのような詐欺を行うもの、或いは村や集落を狙った略奪行為を行うもの、パイオニアには開拓した土地の先住民族を奴隷として売買するもの。上げればキリがない」

 クロードがレオンの答えに補足する。

「そうだね。冒険者の社会的地位があまり高くないのはこれが原因だし、そもそもこの学園だってそういう悪い冒険者を淘汰するために設立されたんだよね」

「そういえば私も冒険者になる、とお父様とお母様に申し上げたとき、下賤な職だと反対されましたわ。お兄様とお義姉様は後押ししてくださいましたが」

 ニーナがパウロとクロードの言葉に反応する。そしてニーナの言葉にレオンとシグルドは納得したように「へぇ」と頷き、クロードは「彼奴らしいな」と苦笑いになる。

「で、クロードは何をしていたんだい?」

「これを探していた」

 そう言ってクロードは持ってきた日記のような本を見せる。

「それは?」

 レオンが尋ねる。

「簡単に言うと、俺の冒険日誌だ。昔、どっかでボーマニャンって魔宝石を研究する冒険者に会った事がある。それどころか、かなりの高値で俺達がダンジョンから持ち帰った宝を高値で売り渡した記憶がある」

「「「「え?」」」」

 全員がクロードの言葉に驚く。

「どっかで聞いたことがあるなぁって思ったんだ。確か……あったこれだ。『ボーマニャンと名乗っていた。冒険者とは思えない紳士的な男だが妙に胡散臭い雰囲気も醸し出している。今回俺達が持ち帰ったエメラルドでできた石版をアホみたいな高値でかつ即金で買取ると、申し出てきた』。確かこれは二年半前ぐらいの日誌だから、偽宝石事件よりあとだ」

 クロードは本を開き、読み上げる。

「それって……」

「ああ、ガリアに本部があるギルド所属だと言っていたから同一人物と見て間違いないだろうな。今、思えばあれは恐らく、ジャンヌ・バルサモの研究を横取りしたものだろう」

 クロードは苦虫を噛み潰したような顔をする。

「だから母親の研究を引き継ぐなら、と?」

「まぁな」

 ニーナの質問をクロードは肯定する。 

「それって結局の復讐為じゃなく研究の引き継ぐ為にそのボーマニャンって奴を潰すなら良いってことだろ?」

 シグルドが簡単に言い切る。

「問題はそれをどうやってそう思わせるか、ですわ」

 ニーナがシグルドにツッコミを入れる。

「重要なのはクロード先生達が見つけたという宝とボーマニャンとバルサモさんのお母さんの研究の繋がりと、それを調べる目的だね。それが判ればバルサモさんも考えてくれるんじゃないかな」

 レオンが考えながらも答える。

「ミスバルサモを仲間にしたいなら、君たちがある程度調べて渡したほうがいいかもね。仲間の問題はチームの問題だからね」

 パウロが後押しをする。しかし、どうやら生徒の為ではなく面白そうだから、といった趣だ。

「そういえばあの石版に書かれていた内容、フランが紙に写していたなぁ。パウロ、ここから魔術学校までどれぐらいかかる?」

クロードがパウロに尋ねる。

「乗り合い馬車を使えば、一時間掛からないんじゃない。三、四十分ぐらいってところかな」

「わかった。ちょっと行ってくる」

「じゃあ、僕の名前をだすと良い。すぐに通してくれるはずだよ」

「えっと……。クロード先生は魔術学校に向かわれるんですか?」

 レオンがクロードに尋ねる。

「ああ」

「じゃあ。俺達はどうすりゃ良い?」

「そうだな……」

「図書室でそのエメラルドの石版について調べてもらえばいいんじゃない?」

 パウロが答える。

「そうですわね。現状、ボーマニャンという男に繋がる手掛かりはそれしかありませんもの」

「じゃあ。僕はルチアさんを探してみるよ。もし、別の誰かに復讐の手を貸すことを頼んで引き受けてもらったら困るからさ。僕とシンペーは誰かを追うのは得意だし」

「おう! じゃ、俺はニーナと一緒に図書室だな」

「だが、重要なのは真実じゃない、ルチア・バルサモが母の研究を引き継ぎたいと思えるようになることだ。そこを忘れるんじゃないぞ。手に入れた情報をまとめるのは明日だ。多分、寮の門限を過ぎちまうだろうからな。俺も戻ったらすぐ見回りの仕事があるだろうし」

「「「はい(おう)!」」」

 三人はそれぞれの返事で答える。

「で、パウロ。お前は?」

「あ、僕? 僕、これから用事が有ってね……」

「そうかい……」




「ありゃ、どうしたの? 転入生?」

 ミーミル冒険者学園の図書館のテーブルの一角で一人孤独に何をするでもなく座り込んで居たルチアに一人の女子生徒が声を掛ける。ルチアは返事こそしなかったがそちらに顔を向ける。

「誰?」

「あぁ! アタシ!? アタシはナターシャ・バートン。君と同じ二年生でクラスはレンジャー」

 ナターシャは快活に答える。

「何の用?」

「いやぁ。転入して初日の子がさ、一人でボーっとしていたら気になるじゃん。なんか悩みがあるなら相談に乗るよ?」

「どっか行って。あなたには関係ない」

 ルチアは冷たく返す。

「そんなことないよ。一応、アタシとアンタは学友。仲間じゃないか」

「うるさい。あなたに出来ることなんかない」

「そう? アタシこう見えても結構役に立つよ?」

「しつこい!」

 ルチアは大声でナターシャに怒る。

「おおっ! 結構、大きい声だせるじゃん。ただまぁ、場所は考えよ?」

 事実、ルチアの大声にお陰で図書館に居る多くの人間に注目を集める、その言葉にルチアは席を立ち、何処かに行こうとする。

「ありゃ。何処に行くんだい? 転入生」

「付いて来ないで」

 その言葉にナターシャの動きは止まる。そしてルチアは何処かに行ってしまった。

「う〜ん、なかなか難物だねぇ」

 ルチアの後ろ姿を見送ったナターシャは困ったように呟く。

「なぁ。ちょっと良いか?」

 一人の男子生徒がナターシャに後ろから声を掛ける。彼女は「ん? なんだい?」と返答し、振り返る

「えっとナターシャ・バートンだよな。ルチアさんと何話していたんだ?」

 そこにいたのはシグルドだった。どうやら一連の流れを見ていたらしい。

「まぁ、ちょっとね。シグルド・ベッケラート君だよね、あの娘のことなんか知っているの?」

「ちょっとな。そうだ! ルチアさんの事が気になるなら、ちょっと俺たちを手伝ってくれないか? 全部は無理だが、ある程度なら話しても良いだろうし」

 ナターシャはシグルドの提案に二つ返事で答える。




 ミーミル魔術学校。そこにあるフランの研究室に扉をノックする音が響き渡る。

「開いている。入って構わない」

 部屋の主であるフランは来客に部屋に入ることを許可する。

「失礼します」

 中に入ったのはレイだった。

「君がレイ・デーロスか。話は聞いている」

「すみません。お忙しい所」

「いや、構わない。むしろこっちがもてなす用意をしていないことを許して欲しい」

 そう言って、フランはレイを座る様に促す。レイも「では、お言葉に甘えて」と一言断わり来客用ソファーに座る。

「で、何が聞きたいんだ」

 フランは自身の仕事用の机についたままレイに尋ねる。

「お見通しですか。では、単刀直入にお伺いします。何故、『斉天のバークリー』、いやクロード・ズルワーンという人は冒険者を辞める事になったのですか? 彼が抜けることとなったから金色の大鷲は解散したのでしょう?」

「奴は大怪我をした。そして奴は竜鱗勲章を受勲したことで目標を失った。これだけでは十分ではないか?」

「ええ。だとは思いますが……冒険者であること、それに年齢を考えれば些か薄いと、思ってしまったので……」

「ふむ、そう思うのなら何故、本人に聞かない?」

「既に何度かお伺いしました。でもあの人は何かにつけて話そうとしません。以前、フォスターさんに出会ったとき、ラングドンさんとクロードさんの間でしか知らないことがあるような話を伺ったので、できればそれを聞きたいと思ってここに来たのですが……」

「なるほど。クロードがあまり話したがらないことを、わたしが話すのは些か気が引けるな。だが、あの男もその様子だとまだ引きずっているようだな」

 フランは何か考えているようだ。

「あの男にもいい加減吹っ切れた方がいいだろうし、コーディが話したというのならある程度の信頼は置いていいか……。いいだろう、話してやる。彼奴が『金色の大鷲』というチームから受けた仕打ちを」

 フランはそこで一息入れ、語り始める。




 ――コーディからある程度聞いたと思うが、私たちは明らかにあの男に負担を掛け過ぎた。わたしは見ての通り研究バカだし、コーディは酒癖が悪い上に女と賭け事が好きでよくトラブルを起こし、更にアレクとはお人好し過ぎてよく厄介事をチームに持ち込み、オリガは聖職者だからどうも融通が効かないところがあった。

 そんなもんだから、わたし達はよくメンバー間で衝突していた。その解決を一手に引き受け、軋轢を解消していたのはクロードだ。間違いなく彼は『金色の大鷲』における潤滑油だったよ。わたし達の関係が悪くならなかったのはクロードがいたからだ。だが、その分彼はチームにためにしか行動できず、彼奴が自分のために使う時間と余裕すらも削っていったよ。一度、彼奴の口から「みんなが俺を頼るのは辛くなってきた」と言われたよ。当然、「みんな」の中にはわたしも含まれていたけどな。だが彼奴は「このチームが好きだ」と言って耐えてきたよ。

 クロードが直接辞めるきっかけとなったのは全治四ヶ月の大怪我だ。彼奴はこのとき左腕と右脚を失いかける大怪我した。今でこそ正常に動いているが、もう一度同じぐらいの怪我をしたら二度と戻らないと診断されたらしい。確かに冒険者を引退しようと思える理由の一つになるだろうが、年齢や将来性を考えれば冒険者を辞めるには些か早計に思えるな。だが、あの一件は、彼奴にとって冒険者を、いや違うな『金色の大鷲』を辞めようとする気持ちの後押しをしてしまったよ。

 当時、クロードはある貴族の娘と恋仲にあった。彼奴自身は地方の豪農の息子だが、それでも一介の冒険者とは吊り合わない相手だったよ。それでもわたし達は応援していた。だが、その娘には大貴族の跡取りである許嫁がいた。その娘は気持ちこそクロードにあったようだが、その許嫁も悪い人間ではないし家名のことを考えれば許嫁を選んだほうが丸く収まる、何よりその男も親の決めた婚約者とはいえその娘をしっかりと愛していた、という三角関係だった。ロマンチックな恋物語ならクロードは恋敵に勝ち、身分違いの恋を成就しハッピーエンドだが、実際はそうはいかなかった。

 クロードと恋仲にあったことに業を煮やした娘の父親が半ば強引に婚姻の儀を進めてしまったんだ。クロードは恋敵である許嫁の男からの手紙でそれを知った。彼も娘の気持ちがクロードにあることを知っていたらしいからね。だから手紙には「結婚式のある日、式が始まる正午の鐘が鳴り終わるまでに彼女を迎えに来てくれ。そうすれば僕は周りを説得して婚約を破棄し、君と彼女との結婚の後押しをする」と書いてあった。クロードがその手紙を受け取り、結婚式のある日まで四日間あり、わたし達が駐留していた地から結婚式場がある地まで早くて三日間というところだった。急げば余裕で間に合うはずだった。

 だが、結論から言おう。間に合わなかった。わたし達は彼にそんな話があると知らずある依頼を受けた。あるところに竜の住む湖にがあったんだが、年に一度その竜が凶暴化してその周辺にある村の田畑を荒らしまわっていたんだ。そこで毎年、竜の凶暴化を沈めるために周辺の村から年に一度、美しい娘を人身御供する風習があった。それを聞いて女好きのコーディと困っている人を見過ごせないアレクとオリガがそれを見逃す理由が無かった。わたし達はその竜を倒す事になった。クロードは自身の一時離脱を願い出たがダメだった。竜が相手ならば間違い無くクロードの力を必要とするからだ。彼は自身とその娘の幸せより、その私たちの依頼の成功と村々の人々の不安の解消を「選ばされた」。そしてわたし達は竜を打倒し、その村の悪習を辞めさせた。おかげでクロードは愛する女性の花嫁姿を遠目から見ることとなってしまったよ。

 わたし達はこの一件であの二人がある意味最悪の形で破局することになるなんて夢にも思わなかった。たとえ彼が正直にこのことを話したらわたし達は素直に彼を送り出しただろう、だがわたし達は最悪敗北、たとえ勝利しても犠牲者出ていただろうな。彼もそれを察して決して話すことは無かったよ。

 それから約一年経ったころにわたし達は竜鱗勲章を授与され、彼奴はオリガを庇って全治四ヶ月だ。もしかしたら彼奴は『金色の大鷲』を抜けて新たなチームで冒険者を続けるつもりだったもしれない。だが、そのタイミングを探す内にあの怪我だ。冒険者を続ける気も失せてしまったのだろうな。




 フランは一度そこで話を区切る。

「それを他の『金色の大鷲』の方々は……?」

 レイがフランに尋ねた。

「解散後に知ったよ。わたしはその前に聞いたがな。あの男が天属性の魔術を使うのは知っているだろう?」

「ええ。それは本人から聴きました。天属性のなかでも更に珍しい刻属性だとか……」

「なら話は早い。わたしは魔術研究家でもあるからな。それが心身共に影響がないかあの男を常々、研き……診断をしていたのだ。だから色々と聞き出すことが出来たよ。だからクロードはこのことを知っているのはわたしだけだと思っている筈だ」

「なるほど……だから『アニキかフランに訊け』ですか」

 レイは小声で呟く。

「あの……もう一つ、その恋敵となった大貴族のご子息とは?」

「ああ、正面からぶつかるには分が悪すぎる相手だ。アルベリク・モーリス=ヴィルアルドゥアン。ヴィルアルドゥアン公爵家の跡取りだ。つまり彼が愛した女性はヴィルアルドゥアン夫人。シャリエ・セドラン=ヴィルアルドゥアンだよ」

「え!?」

 レイは驚いた。アルベリク・モーリス=ヴィルアルドゥアンとは自身が教えている生徒、ニーナ・モニク=ヴィルアルドゥアンの実兄である。そしてその夫人であるシャリエはコアトリクエの子爵家の一つ、ドルー家の娘である。

「(今思えば、確かにニーナさんのことを知ったとき、妙に嫌そうな顔していた。それにそんな事があったというならニーナさんが用務員さんのことを知っていても可怪しくはない)」

 レイはクロードと夜の見回りをしていたときのことを思い出す。

 ちょうどそのとき、フランの研究室に再び扉をノックする音が響く。

「どうぞ」

 フランが入室を許可する。そして入ってきた人物をみて「噂をすれば影がさすというやつか」と言葉を漏らす。

「この面子でアルベリクとシャリエの名前が出るってことは……」

 部屋に入ってきたのはクロードだった。

「話したな、フラン」

 その言葉には明らかに怒りの感情と殺気が篭められていた。それらはレイを怯えさせるには十分な強さと鋭さを持っていた。

「(何、これ……これが斉天のバークリー!?)」

 レイは震えて動くすらできない。

「君といい、ストーンといい、何故この部屋に無用の緊張をもたらすんだ?」

 フランはそんなこともお構いなしにクロードに話す。

「いい加減、君も吹っ切れたらどうだ。確かにわたし達が原因だったかもしれない。だが、今の君は些か見苦しい」

「わかってるよ……二年近く経ってもウジウジして……。だけどな、俺はどんなことがあっても笑って何とかした! それが俺の役目だと思っていたからだ! だが、あれだけは別だ……。確かにあの村は俺も見過ごせなかった……。」

 クロードの目には涙が浮かんでいる。

「勝手に話したことは謝罪しよう。だが今はその殺気をしまってくれ。客人が怯えている」

「……アレク達はなんて?」

「ただ『申し訳ない』と。わたしも含め、君を頼りすぎたことを後悔しているよ。君にあんな判断をさせてもなお、一年近くチームに貢献してくれたことも含めてな」

「……わかった。別にお前らを恨んじゃいねぇよ。むしろ感謝したいぐらいだ」

クロードから発せられていた殺気は徐々になりを潜めていく。

「そう言ってくれて助かる。で、何のようだ? わざわざそんなことを確かめに来たのではないのだろう? ま、そろそろ来る頃だろう思ったがな」

「知っていたのか。バルサモのこと」

 クロードは改めて、話を切り出す。

「ああ。むしろ、だからこちらで引き取ったようなもんだ」

「転入生のルチアさんのことですか? 一体何が?」

 レイがクロードに尋ねる。

「知らないのか。クロード、一度彼女に説明してやってくれ」

「解ったよ」

 そしてクロードは顔を拭い、先程ルチアがクロードのもとに尋ねてきた時のことをレイに話し始めた。




 ミーミル内にある酒場。そこには多くの芸術家、研究家、教職者が集まる。彼らの目的の多くはそこに集まった多種多様な人間同士の知識の交換の為である。しかし、今の時間はミーミル内の殆どの学校の授業が終わって一時間を漸く過ぎたぐらいである。酒場にいる人は疎らでせいぜい自身の創作に行き詰まった芸術家が管巻いているぐらいである。

「待たせてしまったかな?」

 酒場の端のほうの席で座っている今の時間の酒場には場違いな男に、別の男が近寄り声を掛ける。声を掛けた男はパウロだった。パウロは待たせていた男の対面に座る。

「お前の仕事を考えれば、むしろもう少し待っていても仕方ないと思っていたのだがな」

 男は座っていても長身痩躯であることがわかる。そして顔の上半分は前髪で伺うことはできない。

「まぁね。さて、どうする? 最初の予定より面白くなりそうだけど、ちょっと怪しまれちゃったんだよね」

「当然だ。だが、奴らにそうまでする価値があるのか?」

「有るといえば有るし、無いといえば無い。一個一個にはそこまでの価値がない。でも、どんな形であれ全て揃えば恐るべき価値が出る」

「なるほどな。『面白ければそれでいい』だったか。それにしては事が大きくしすぎではないか?」

 パウロはニヤリと笑う。

「だって世間が彼らを大きくしすぎるんだもん。ま、これもこれで面白そうだけどね」

「しかし、そうすればお前も只では済まないだろう」

「構わないさ。僕自身が面白いと思えるなら、どんなツケでも払ってもいいからね。たとえそれが僕の命で支払うことになっても、ね」

「フン。酔狂な男だ」

 二人の男の密会は続く。

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