プロローグ 長い旅路と二枚の手紙
草原を走る蒸気機関車のコンパートメント席で一人の若い男が、頬杖をつき暇そうに外を見ている。
男の名はクロード・ズルワーン。住み込みで働く仕事を友人に紹介され、その地に向かっている最中である。その新しい仕事とは学園都市国家『ミーミル』の中にあるミーミル冒険者学園の用務員である。
クロードは鞄から手紙を取り出す。仕事を斡旋してくれた友人からの手紙だ。彼はこれから彼と職場を共にすることなる。
――やぁ、久し振りだね、クロード。驚かせてすまない。僕は今、ミーミル冒険者学園で講師をやっている。かつての仲間から君が職を探していると聞いて手紙を送らせてもらうよ。
早速だけど、もしよかったらウチに新しい用務員として来ないかい? 今ウチで用務員をやってくれている人が家業を継ぐってことで退職することになったんだ。君の能力を考えると本当なら講師で、って言いたいところだけど君は今、冒険者ではないし、さすがに僕の発言力ではいくら君でもそれは無理だった。その点については許して欲しい。でも、校長は君の経歴を見たら、『ぜひ来てくれ』と返してくれたよ。
やる気があるならこの手紙に同封してある返信用の封筒で返事を出して欲しい。
では、君とまた共に働けることを楽しみにしているよ。
ひと通り読み返したクロードは、再び手紙を鞄にしまう。そして、もう一枚、手紙を取り出す。
――返事を読んだよ。引き受けてくれてありがとう。
前任との引継ぎもあるだろうからなるべく早くこちらに来て欲しい。
返事にあった条件だけど、承知した。それに君の過去の経歴や功績については校長と僕の口からは言わないようにしておく。住まいに関しては校内の用務員室でそのまま住み込みになると思う。ただ、最後の一つだけは申し訳ない。ミーミル国内にある各学校の職員はそのまま国内の治安維持のための自警団に名を置くことになる。少なからず荒事に関わってもらうことになるだろう。
君のような男がこの学校に来ることは非常に有益なことであると僕は信じているよ。
では、今度は直接会える時まで。
「ふぅ。一時はどうなるかと思ったけど、何とかなりそうだな。ミーミルは世界各地から様々な分野でエリートが集まるからあれこれ言われないだろうし、な」
そう言って彼は、読み終えた手紙を仕舞いながら呟く。
学園都市国家『ミーミル』。世界最高学術都市として世界中から優秀な学者、魔術師、芸術家等が集まり、研究機関や学校、アトリエなどを開く。そして同じく世界各地から彼らに教えを請うべく未来ある若者達も集う。
一見、限られた人間しか入れないような地ではあるが、実際はそんなことはない。学生や学者、芸術家が集まれば彼らを相手にする商売が成り立ち、彼らの生活を支える職業の人間が求められる。文化の成長を願う比較的小さな都市国家は非常に強大な経済国家と化している。
そんな中にある冒険者学園は、その名の通り冒険者を育てる学校だ。毎年、優秀な冒険者を排出するいわゆる専門学校である。そして卒業者で構成された冒険者ギルドは世界各地で多大な功績を残している。
約半年の間ほぼ無職――正確には家業手伝いだが――だったクロードにとって、そんなところで働けるというのは非常に喜ばしいことである。恥も外聞も捨て、様々な知己に職を紹介するように頼んだ甲斐があったようだ。
「しっかし、あいつがミーミルの冒険者学校の講師やっているとはな……。確かに学園ギルドに所属しているのは知っていたけど……。誰から聞いたんだろ?」
クロードは今回手紙を送ってきてくれた友人には手紙を出していない。彼と出会ったのは彼が冒険者として旅に出ているときであり、拠点となる地があちこちに変わっていたからだ。所属しているギルドに手紙を出し、届けてもらうという手もあったが、時間がかかり過ぎてしまう。だから今回、その友人から手紙が来たことが彼を非常に驚かせた。
クロードの故郷から、ミーミル冒険者学校までは蒸気機関車を使っても最低二日間はかかる。かれこれ三時間ぐらい乗っているがまだまだ旅は始まったばかりだ。
「後にも先にもこんな気楽な旅は無いだろうな……」
そう言って彼は壁に寄りかかり深い眠りに就く。
どうも烈士長です。烈士長の作品、二本目になります。どうかお付き合いのほどよろしくお願いします。