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悪魔部へようこそ!  作者: AAA
大崎 スミレ
8/29

七月八日

 七月八日、土曜日、スミレは学校から帰ると、すぐに制服から着替える。Tシャツにジーンズと言うラフな格好だ。更にその上からエプロンを着ける。

 土曜日は午前中で授業が終るので、午後がまるまる空いている。その時間を使って、何時もは遊びに出かけるのだが、今日は少々違った。

 事の起こりは三日前、朝の事である。何をとち狂ったのかスミレの両親が、二人だけの七夕を世界で一番綺麗な星空の下で過ごす、と言いハワイへ行ってしまったのだ。

 ハワイと言えば、世界で最も宇宙に近く、多くの天文台がある。綺麗な星空を見るならば、世界の何処よりもふさわしい場所だ。

 その美しい夜空の見えるハワイに行った両親は、新婚気分を満喫したいのか、明日の朝まで帰ってこない。

 この時、スミレは、両親のいない家にコウセツを呼ぶ事を思いついた。

 思春期の男女がベットインした日から一一日間、スミレとコウセツは毎日身体をあわせている。

 行為の時間はとても幸せで、行えば行うほど体と心がコウセツを求めていった。今では、コウセツの唇が首筋を這うだけで、体中が歓喜に震える程だ。

 そんな幸せな時間であるが、スミレには一つ不満があった。

 ベットの上で出来ない事である。

 ベットの上で出来たのは、初めの一回だけで、それ以降は学校のトイレなどに隠れて逢瀬を楽しんでいた。

「あれは、あれで良いんだけど、たまにはベットで、ううん、と言うよりも、新婚気分で行きたいんだよ」

 心中を吐露するスミレの顔は惚気で崩れきっていた。

 行為の後見つからないようにその場から退散する時、悲しくはないが胸に一抹の寂しさが生まれた。誰かに知られる事を恐れられている様で、コウセツにいけないをしていると思われているようで辛い。

 しかし、今日は違った。

 スミレの部屋にコウセツを呼んで、二人だけの、本当に二人だけの時間を手に入れられる。

 そこから始まるかもしれない、今まで以上に濃密なお付き合いを期待して、スミレは胸を膨らませる。

「ン~、ンン~」

 鼻歌を歌いながら、踊るようなスッテプで部屋を片付ける。昨日のうちに一通り掃除はしていたが、念には念を入れて綺麗にした。

 水色に白のまだら模様が入った絨毯に掃除機をかけ、机の上に重ねられた教科書を本棚に戻し、かるく雑巾で拭く。ベットのシーツを伸ばし、少し迷ってから布団や毛布は押入れに閉まった。

「ま、こんなものかな」

 スミレは部屋の隅から隅まで眺め、本棚や小物入れにも汚れが溜まっていない事を確認する。机の上の置時計に視線を写すと、コウセツが来る約束の時間まで残り三十分を切っていた。

「あ、もう時間ない!」

 スミレは衣裳棚から下着を取り出すと、風呂場へ走った。着る服は三日三晩考え抜いて決めてある。

 後は、自身の身を清め、茶と茶菓子を用意するだけだ。その茶や茶菓子も、昨日の夜遅くまで考えに考え抜いた一品である。

「疾きこと風の如く、だよ」

 風呂場から飛び出たスミレは、疾風の如き速さで身だしなみを整えた。

 艶やかな黒髪は綺麗に梳かされ、頬にはファンデーション、唇は薄桃色の口紅がのる。本当なら、アイシャドーも軽めに入れるつもりだったが、残念な事に時間がなかった。

「あうう、時間がないよぅ」

 スミレは泣き出しそうになりながら、姿見の前で自身の服装をチェックする。

 服は薄手のキャミソールと黒のホットパンツだ。美しい足のラインが惜しげもなくさらされ、パンツに包まれたお尻のラインがなだらかな曲線を描く。薄手のキャミソールは、胸の隆起を余すことなく晒していた。

 どうにか満足できる出来になったスミレは部屋を出る。

 お茶の準備の為に、台所へ向かおうとした所でタイムアップ。

 玄関のチャイムが鳴ってしまった。

「うう、後五分あるじゃない。コウセツ、ちょっと早すぎだ」

 スミレはチャイムを鳴らした主に軽い愚痴を零すと、すぐに玄関に向かう。先ほどまでの泣き顔と打って変った幸せそうな暖かい笑顔があった。

 再度、チャイムがなる。

「はぁい、今開けるから」

 スミレはチェーンを外し、ドアの鍵を開ける。ドアノブを回し、ドアを開けていく。

「いらっしゃい、コう」

 ドアを半分ほどあけた所でスミレは固まった。

 目の前に居たのはコウセツではない、第三者だ。第三者はスミレがよく見た笑顔を作って、スミレを嘲笑った。

 第三者は、スミレの口を手で塞ぐと、素早く家の中に押し入る。

「うんんうぅうっ」

 スミレが相手の名を叫ぼうとするが、相手の手が邪魔して叫べない。

 頭の中が真っ白なる。

 第三者は、スミレの腹部にリモコンのようなものを押し当てた。軽い破裂音がスミレの耳に聞こえると同時に、スミレの身体が大きく跳ねる。

 スミレの意識はブレーカーを落とされたようにブッツリと切れた。



 目が覚めてスミレが最初に感じたものは、全身を襲う拘束感だった。身体を動かそうとしても、毛筋ほども動かない。

 未だ覚醒していない空ろな瞳を、スミレは自身の身体に向ける。

「何これ?」

 スミレは全身をガムテープとロープで巻かれて、芋虫の様にされていた。

 唯一自由となる首を動かし、辺りの様子を伺う。見覚えのあるソファが目に入った。他の家具にも見覚えがある。自宅のリビングだ。

「何が、どうしたの?」

 スミレは覚醒し始めた頭で記憶の糸を手繰る。自分の家で芋虫の様に縛られていると言う現状は、スミレの理解を超えていた。そのお陰で、まだ冷静でいられる。

 ゆっくりと自分に言い聞かせる様に、スミレは思い出していく。

「たしか、学校から帰って、掃除して……え、誰?」

 途中まで思い出した所で、スミレはこの場にもう一人、人間がいる事に気づいた。

 その人物はだらしなく足を投げ出して、椅子に座っている。男物のスニーカーと黒のズボン、そして白いシャツの裾が、スミレの視界に写る。

 土足だ、等と場違いな事を考えながらも、スミレの頭の中では何かが警鐘を鳴らす。

 何故なら、その靴に見覚えがあった。

 何故なら、そのズボンに見覚えがあった。

 何故なら、そのシャツに見覚えがあった。

 そして、その清潔感あふれる匂いをいつも嗅いでいた。

 嫌な汗がスミレの全身から噴出す。スミレは芋虫のように床を這いずり、椅子に座った人物の顔を視界に納めようとした。

 文字通り芋虫のような速度でスミレは近づこうとする。そして、少しづつ椅子に座った人物の全容が見えてきた。

 上半身はスミレと同じくロープで縛られている。女の子のように華奢な体に、ロープがきつく食い込んでいた。意識がないのか、糸の切れたマリオネットの様に全身から虚脱感をかもし出していた。

 力なく垂れ下がった頭を覗き込んだ瞬間、スミレは絶望に染まる。

「コ、ウ、セツ、コウセツだ。ハハ、コウセツが居るよ」

 スミレは泣きそう声で、椅子に座った人物の名前を言った。

 それと同時にリビングのドアが開き、少女が入ってくる。手には何か細長い物を持ていた。

 スミレはドアの方へ視線を移して、ようやく何が起きたのか思い出した。

「エミナアァ」

 スミレは玄関を開けた時、外にいた第三者の名を叫ぶ。

「あれ、起きたんだ。早いね」

 対する第三者、エミナは友好の笑みを浮かべて応えた。

「ちょうど良かった。今、起こそうと思ってたのよ。こっちの準備も終わったから」

 エミナは誇らしげに、手に持った長物を掲げる。ゴルフのドライバーだった。先端にタオルが巻かれ、不恰好に膨れている。

 その歪な物体に、スミレは何が行われるのか気付いた。

「何、するの?」

 それでも一抹の希望を願って、スミレは尋ねる。

「それはね。ドキドキ魔女狩りタ~イム」

 エミナは嬉しそうに顔を綻ばせながら、手に持ったドライバーを振り回す。

「これからスミレには幾つかの質問に答えてもらいます。その結果、嘘があったらこのマジカルステッキでお仕置きしちゃうぞ」

 エミナはドライバーを天高く掲げ、片足を上げる。魔女っ子ものアニメのヒロインが取りそうなポーズだ。

 自分の予感が当ったスミレの体中から力が抜ける。エミナを恨む気持ちはあったが、不思議と憎しみや怒りは沸いて来なかった。

「何で、何でこんな事するの?」

 分かりきった事をスミレは尋ねる。

「そんなの決まりきってるじゃない。スミレがコウセツを騙して、私とコウセツの仲を引き裂こうとするからよ」

 エミナは、やさしく微笑みながら、ドライバーを振り上げる。そして、躊躇いなく振り下ろした。

 スミレの体が横にぶれる。

 頬が焼かれた様に熱く、痛い。

 まともな思考が出来なくなる。

「あ、これは勝手に喋ったペナルティーね。次やったら、全力でぶちかますから」

 エミナの戯言を聞き流しながら、スミレは思う。

 ああ、私はここで死んじゃうんだ。

 罰が当たったのかな。

 人に頼って恋愛を成就させたから、こんな目に合うんだ。

 どうせなら、死んでも恋人同士でいられるように頼んどくんだった。

 バイバイ、コウセツ。

「質問に答えなきゃだめでしょ」

 エミナの明るい声と共にやってきた衝撃で、スミレの意識はまた闇に消えた。

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