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悪魔部へようこそ!  作者: AAA
大崎 スミレ
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六月二〇日

 六月二〇日、月曜日、昼休み、悪魔部初訪問から丁度一週間、スミレは再び赤いテープの貼られたドアの前に佇む。

「失礼しまぁす」

 スミレはドアを開け、無造作に中へ入った。

 まるで自分の家に帰るような気安さにみえる。しかし、頬は高潮し、膝が震えている。

 部室の中には、先週と同じく、机とその上にスピーカーが設置してあるだけだ。四畳半ほどの部室に他には何も置かれいない。

 天井を見上げれば、監視カメラが見つかるだろう。

「ようこそ、名も知らぬ隣人」

 スミレがドアを閉じると同時に、スピーカーが喋る。ボイスチェンジャーを使ったように甲高く機械的な声質だ。

「私、一週間前の昼休みに、願いをしに来たんだけど、覚えている?」

「ああ、覚えている。二人の生徒を死ぬまで恋人にする事だったな?」

「うん」

 スピーカーからの確認に、スミレは頷く。

「その願いをかなえるには、恋人にしたい生徒のどちらか片方がある事をしなくてはならない」

 スピーカーが話し始める。

 スミレは欠片も聞き逃さないよう、スピーカーに全神経を集中させた。

 何をさせられるのか不安だが、盗みや動物を生贄にする位なら躊躇うつもりはない。悪魔部と呼ばれるような事をやってる連中に願いを叶えて貰うのだ。それぐらいの覚悟は、既につけている。

「ある事とは、告白だ」

 スピーカーの言った方法に、スミレの強張った体がほぐれる。

「それでいいの?」

 スミレは不信そうな表情で尋ねる。

 恋人になるには告白しなくてはいけない。

 あまりにも常識的で現実に沿った方法だが、それが出来れば苦労はしない。

 告白は、失敗の許されない過酷なミッションだ。失敗してしまえば、どれだけ好きでも、その想いは受け取ってもらえない。それどころか、今の関係すらも壊してしまう。

 それなのに告白しろと言う悪魔部に、スミレは大丈夫かと不安になってきた。

「ああ、ただし、場所や方法はこちらの指定に従え」

 それが、願いをかなえる鍵となのだろう。有無言わさぬ迫力があった。

「場所や方法かぁ。おまじないでもするのかな?」

「それに近い」

 スミレの何気ない一言に、スピーカーが応える。

「今回使う呪術は、無知と暴力を司る神の僕、タローマティとジャヒーの力を借りたものだ。

 現存するアヴェスターによれば、これらとは対となる神やその眷属がいる。

 対となる神は暦に対応している。

 対応している日に、呪術を使えば、途端に神が舞い降り、お前の」

「す、ス、ストッーープ!」

 まだまだ続きそうなスピーカーの怪しい呪術講習を、スミレは遮る。いつ終わるか分からない怪しい話で貴重な昼休みを消費したくないだ。

「とにかく、そっちの指示通りにやれば成功するて事だね」

「端的に言えば、その通りだ」

 スピーカーは、何処かつまらなそうに言い捨てた。

「で、どうしたらいいの?」

 スミレは、二度と怪しい宗教言語を飛び出させない様、具体的方法の提示を促す。

「二日後、六月二二日、放課後、校舎裏で告白させろ。詳しい場所は机の中に地図がある、それを見ろ」

 スピーカーの説明に従って、スミレは机の中を覗きこむとA4の紙が一枚入っていた。紙には、スミレ達の通う高等部の地図がコピーされており、校舎裏の一画に蛍光ペンで丸がつけられていた。

「相手への誘いは、二二日、告白当日の昼休みに、メールで行うように指示しておけ」

 スミレが地図の位置を確認する間もなく、スピーカーは矢継ぎばやに告白の方法を指示する。

「題名は無記名、本文は、『放課後、校舎裏に来て欲しい。話したいことがある』だ。以上、正しい遂行と成功を願う。では」

 スピーカから電気が切れる独特の破裂音が響く。

 スミレがスピーカーに耳を寄せるが、何の音も聞こえてこない。完全に切れてしまったようだ。

「ちょ、ちょっと、待って。場所は地図の所、時間は明後日の六月二二日放課後、呼び出しは当日の昼休みにメールで送る。メールの内容は、『放課後、校舎裏に来て欲しい。話したいことがある』でいいの? 確認ぐらいさせてぇっ」

 スミレはスピーカーを両手で持ち、上下左右にシェイクする。腕のねじりも加えた見事なハードシェイクだ。これならば、バーテンダーとしても食べていけそうなほど、見事な腕前である。

 艶やかな黒髪を振り乱し両手に持ったスピーカーをシェイクする和風美人と言う、狂気の構図に思うところがあったのか、スピーカの電気が再び繋がった。

「それでいい。それ以上、振るな。大人しく病院に帰れ。端的に言うとどの精神病患者だ隣人」

「ははは、恋の病は精神病じゃないよ。それじゃ、幸せになるからね」

 スミレはスピーカーを放り投げると、早足で部室から出る。。

「あれ?」

 部室を出て数歩歩いたところで、スミレは立ち止まった。何かありえない事があった気がしたのだ。

 スミレは瞼を閉じて、思考の海へと自身をダイブさせるが、何がありえなかったのか思い出せない。一分ほど、脳神経を活発に動かした後、スミレは一つに結論に達した。

「ま、いっか。思い出せないって事は、たいした事じゃないよね」

 一人で納得すると、スミレは早足で歩き始める。

 既にスミレは現実の場所で、ありきたりな願いを必ず叶える、方法を手に入れたのだ。多少の違和感は気にする事ではない。

 軽い足取りで、スミレは教室へと戻った。

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