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悪魔部へようこそ!  作者: AAA
日高 ケンジ
23/29

六月一〇日

 六月一〇日、委員長の号令でショートホームルームが終わり、気の早い生徒が駆け足で教室から出て行った。

 ケンジは、ゆっくりと鞄に教科書類をつめていく。教科書を詰め込み終えて帰ろうと立ち上がった時、左ポケットが震えた。

 ケンジは緊張した面持ちでポケットから、白い携帯を取り出す。

 ケンジの携帯ではない。数日前、充電器と共に机の中に入っていたものだ。

 携帯のディスプレイには、メール受信とそっけない一文が映っている。

 ケンジは唾を飲むと震える指でメールを開いた。

『帰り道、一緒に帰る人間に、悪魔部について話せ。

 嘘さえ吐かなければ、内容に指定はない』

 ケンジはメールの文面を何度も確認する。しかし、内容が変わる事はなかった。

 このメールの言うとおりにするか否か、ケンジは一瞬迷う。すぐに迷いを打ち消した。

 このメールに逆らえる道理がケンジにはない。迷うと言う選択肢がありえなかった。

 ケンジは携帯をポケットにしまうと、コウセツの席へ向う。

「コウセツ、帰ろうぜ」

「もう少しだけ待って。もうすぐ、こっちも終わるからさ」

 コウセツはまだ教科書やノートを鞄に閉まっている途中だった。

 ケンジは首を伸ばして、鞄の中を覗く。

 教科書類が隙間なく鞄の中に入っている様子が見て取れた。さながら、出来の良いパズルだ。その代わり、まだ半分程度しか鞄の中に入っていなかった。

「まだ、終んないのか」

 ケンジは自分にしか聞えない声量で愚痴ると、別の生徒に目を移す。その生徒が引力でも働かせている様に、ケンジの目は自然と吸い付いた。

 艶やかな黒髪が目に入り、次に発育の良い肢体が視界を奪う。

 風美人という言葉が良く似合う女生徒、スミレだ。

 スミレは、大きく肩を落としているエミナの背中を軽く叩いている。落ち込むエミナをスミレが慰めているようだ。

 視線を少し下、エミナの太もも辺りに移すと、握り締められたテスト用紙が見えた。

「ああ、点悪かったんだなぁ」

 ケンジは最後の授業でエミナが上げた奇声の理由を察する。

 最後の授業で中間テストを返却された時、エミナは猫のような叫び声を上げ、教室を凍りつかせた。

 至近距離で叫びを聞いた教師は、まばたきも忘れて固まっていた。

 その事を思い出したケンジは小さく笑う。そして、脳の奥から響く悪魔の囁きに耳をかす。

「これは、チャ~ンス」

 いつも地味だと馬鹿にされてきた仕返しをする好機とばかりに、ケンジは黒い笑みを浮かべた。何気ない様子を装いエミナに近づく。

 エミナはテスト用紙を見て、打ち震えていた。

「よう、え」

「あ、ケンジ、準備終ったから帰ろう。エミナとスミレさんも」

 ケンジの声を遮って、コウセツが声をかけてきた。ケンジの手が所在なさ気に宙を漂う。

「あ、うん」

「そうね、帰る。どうせ見てても変わらないし、るぅるる~」

 スミレは明るい笑顔で、エミナは暗いメロディーを口ずさみながら、コウセツへ駆け寄る。

 そして、コウセツとスミレがエミナを慰めながら教室を出て行った。

 ケンジは暫し伸ばした手を開閉させて居たが、教室のドアが閉まる音で我に返る。

「お、俺を置いてくなよ!」

 慌ててケンジは鞄を掴むと、教室から駆け出る。

 幸いエミナの足取りが重かったお陰ですぐに追いつく事が出来た。肩を落とすエミナを、両側からコウセツとスミレが慰めている。

 ケンジはさりげなくスミレの隣に肩を並べた。

「お前らなぁ。一緒に帰ろうとか言っておいて、置いてくなよ」

 ケンジは自分を置いていった事を抗議するが、コウセツ、スミレ、エミナの反応は非常なものであった。

「あれ? ケンジ、居なかったっけ。ごめん、気付かなかった」

「あ、一緒に帰るんだ。てっきり一人で帰ると思ってた。ごめんね」

「うっさい。こっちはそれ所じゃないのよ」

 ケンジは草葉の陰で涙を流す。慰めてくれるものはくれなかった。

 三人はケンジを無視して歩き去っていく。

 暫く、その場でいじけていたケンジだが、階段を下りる足音が聞えた辺りで涙を拭い立ち上がる。

「ちょっとは慰めろよぉ」

 ケンジの哀愁を帯びた呟きが、廊下に木霊した。ケンジは鞄をかつぎ直すと、駆け足で三人を追い駆ける。

 生徒玄関前でケンジ達は、男女に二手に分かれた。

 数年前に盗撮事件があり、げた箱が男女別に分けられたのだ。

 げた箱にケンジが靴を仕舞うと、既に靴を履いたコウセツが振り向く。

「そう言えば、ケンジ、携帯変えた? 何だか色が変わってたけど」

 ケンジは左ポケットに手を当てる。

「あ、ああ、格安で色だけ変えられるキャンペーンがあってな、気分転換に変えてみたんだよ。キ、キャンペーン中に元に戻すけどな」

 額から流れる脂汗を鬱陶しく感じながら、ケンジは頷いた。

 考える間がなかった所為で、とても嘘臭い内容だ。しかし、本当の事を言うわけにはいかなかった。

「ふぅん、変わったキャンペーンだね」

 案の定、コウセツは首を傾げる。

「ま、まぁ、本当は最新の携帯に変えてもらって、その使い心地を体感して欲しいという趣旨らしいぜ。

 ただ、俺のはその最新式の奴だからさ。色が変わるだけなんだよ。

 いや、ホントは駄目なんだろうけどさ。

 知り合いの店だったから特別にお願いできたんだよ。

 いや、運が良かった」

 背中を流れる汗に後押しされるように、ケンジはいらない事まで懇切丁寧に喋る。

 コウセツは終始無言で聞いていた。

 ケンジの口から言葉が出なくなっても、コウセツは無言だった。

 ケンジの心臓が強く脈打つ。コウセツの一挙一動を逃さないように目に力を込める。

 そして、ケンジの緊張が最高潮に達した時、コウセツは口を開いた。

「へぇ、良かったね。じゃあ、行こう。二人とも待ってるよ」

 コウセツはあっさりと言うと、外へ歩き出す。

「ふぅ」

 ケンジは大きく息を吐くと、コウセツの後を追った。

 校舎を出ると、既に日は傾いていた。

 夕暮れの中、ケンジ達は住宅地を歩く。

 隣ではスミレとエミナが不毛なやり取りを行い。コウセツが仲介に入る。いつも通りのやり取りが、行われていた。

 三人の輪の中にケンジは入っていない。まるで空気の様に扱われている。

 輪の中心にいるコウセツは、幸せそうな顔でスミレとじゃれている。

 コウセツに邪魔されているにも拘らず、スミレの顔もどこか嬉しそうに見えた。

 その光景を隅で見せられたケンジは、言いようのない気持ちと共に声を吐き出した。

「なぁ、三人ともちょっといいか?」

 スミレ、エミナ、コウセツの視線がケンジに集まる。

「え、なに?」

「テストと毛根が大変だから、くだらない事なら怒るわよ」

「あ、ケンジ、居たんだ。地味すぎて気付かなかった」

 コウセツの口にしたNGワードに、ケンジの頬は引きつる。

「こら、最後! 地味言うな。普通が一番なんだよ」

 ケンジは至極最もな意見を叫ぶ。

 それに対して、コウセツはスミレとエミナの方を振り向いた。スミレとエミナが、困った様に頷く。

「そこ、一人だけ置いて、分かり合うなよ。しかも、凄く俺に不名誉な方向で」

 三人の行動の意味を正確に汲み取ったケンジは、眉をつり上げて睨みつける。

 しかし、ケンジの眉はエミナの一言で垂れ下げられた。

「だって、あんたさ、特徴なさすぎ」

「なっ」

 あまりにもはっきりとした言葉が、ケンジの心を抉り取る。

「まぁ、学校で後姿見ても、区別できないんだよな。体格が平均的で特徴なさすぎて」

 コウセツが同意するように何度も頷き、追い討ちをかける。

「そうだね。私服で人ゴミに入ったら、ナチュラルに背景化しちゃいそうな感じだよ」

 そして、スミレが悪気のない一言で、ケンジは止めを刺された。

 ケンジはその場に崩れ落ちる。しかし、慰めてくれる人はいない。

 ケンジは目尻の涙を拭くと、再度三人に声をかける。

「まあ、いい。それより、ちょっと面白い噂を聞いたんだ。

 うちの学園てでかくて人も多いだろ。だから、結構へんな部活があるのは知ってるよな?

 そんな中でも、一等変な部活があるらしんだよ。

 願いを何でも叶えてくれる部活、てのがさ。

 その名も、悪魔部、て言うらしいぜ」

 これで役目を果たしたとケンジは微かな達成感を感じると共に、何とも言えない重さを胸の内に感じた。

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