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悪魔部へようこそ!  作者: AAA
大崎 スミレ
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六月一一日

 六月一一日、土曜日、早朝、スミレは人気のない校舎を歩いていた。艶やかな黒髪をなびかせ、歩く姿はどこか楚々としており、湿った梅雨時期に清涼な空気を運んでくる。

 スミレの足音が、コンクリート地の廊下によく響く。時折聞えてくる運動部の掛け声が無ければ、学校に自分ひとりしかいない錯覚を受けていただろう。

 もしかしたら、校舎にはスミレ一人しかいないのかもしれない。

 始業のチャイムまで一時間近くある。こんな朝早くやってくる物好きは運動部ぐらいだ。教師が登校するにしても時間が早すぎる。

 スミレは教室に鞄を置くと、すぐ外へ出る。

 校舎を出てから、並木通りに沿って歩くこと数分、五階建ての校舎が現れた。

 その校舎は一風変わっていた。窓と言う窓にポスターが貼られており、校舎の周りには用途の分からないガラクタが放置されている。文化祭直前の様相だった。

「おじゃましまーす」

 スミレは囁くように挨拶すると、ゆっくり校舎に踏み入った。

 校舎に入ってすぐ、スミレは驚く。壁と言う壁にポスターが貼られ、所々には看板まである。

 ポスターや看板には、何かしら部活の名称と、簡単なイラスト、そして新入部員大歓迎の七文字が踊っている。

 スミレの入った校舎は、高等部部室練、と呼ばれる高等部の部活専用部室だけが収められた建物である。

 スミレがこんな朝早くに、部室練に来たのは訳がある。人知れずに探したいものがあったのだ。

「悪魔部、あるとしたら、多分この中だ」

 頑張ろう、と拳を握り気合を入れたスミレは、ポスターと看板で構築された廊下を力強く歩き始めた。

 昨日、ケンジの噂を聞いた時は常識的な反応をしたスミレだが、決してその存在がないと、決め付けているわけではない。

 この六道学園は、田舎の市を半分買い取って出来た学園だ。その広さに比例して学生も多く、そうなれば、部活の数も他校の比ではない。星の数ほどの部活があれば、その中に一つぐらい他人の願いを手伝う部活があるかもしれない。

 少なくとも探す価値はある、とスミレの頭は計算していた。

 部室のドアを見ては、次のドアに向かうと言う作業をスミレは、延々と繰り返す。幸い、どのドアにも部の存在をアピールするポスターが派手に貼られており、間違う心配はなかった。

 比較的スムーズにスミレは部室を全て見回ることが出来た。

 しかし、その成果は芳しくない。『悪部』や、『あ!熊部』、『空く間部あくまぶ』等、名前が少し似た部活が少々見つかっただけで、本命を見つける事は出来なかった。

 一度、部室練の玄関まで戻ったスミレは、腕を組みながら虚空を睨みつける。

「これだけ探して見つからない、て事は、通称が悪魔部て事になるのか、やっぱりないのかどっちかだ」

 進むべきか、引くべきか、スミレは暫し悩んで、答えをだす。

「これは、詳しい情報が必要だよ」

 スミレは、悪魔部について詳しい話を聞いてから結論づける事にした。悪魔部について詳しく知っていて、簡単に話しそうな、ちょろい人物に一人だけ心当たりがあった。

 スミレが教室に戻ると、時計は八時を回っていた。

 既に半分ぐらいの生徒が、教室で時間を潰している。その中の一人、地味に勉強をしている少年に、スミレは狙いを定めた。

「ねぇ、ケンジ君、昨日の話だけど、あれ誰に聞いたの?」

「は?」

 開口一番、朝の挨拶以外にも色々と言葉の足りない質問を浴びせる。

 ケンジは大口を開けて、阿呆の様にスミレを見つめた。

「だからさ、悪魔部の事、あんな噂、誰から聞いたの?」

 スミレはケンジの隣にしゃがみ込み、机に手をついた。自然と身を乗り出す格好になる。

 スミレの眼前で、ケンジは頬を赤く染めた。

「誰って、言われてもなぁ。何となく、どっかから聞いただけだからなぁ。覚えてないよ」

 ケンジは眉を寄せながら答える。手持ったシャーペンが忙しなく回転していた。

「本当に覚えてないみたいだね」

 スミレはケンジの手元を一瞥する。手元を忙しなく動かすのは、考え事や照れている時のケンジの癖だ。ケンジと親しい人なら誰でも知っている。

「でも、そんなのない、て言われて落ち込んでたよね。と言う事は、結構信じてたんだ、その怪しい情報」

「まぁ、な。何かありそうな雰囲気だったんだよ。その話を聞いた時は、さ。ああ、昨日は恥かいたぁ」

 昨日の事を思い出したのだろう。ケンジは恥ずかしそうに、両手で顔を隠す。

 その所為でケンジは気付かなかったが、一瞬、スミレの視線に鋭さが加わった。

「へぇ、どんな話、聞かせて?」

 スミレは何でもない風を装って、ケンジから情報を引き出そうとする。

「ああ、なんでも、悪魔部、てのは学園からは非公認の部活らしいんだ。

 初代部長が、何でも出来る天才で、何でも出来ちまうから幸せ、てやつが分からなかったらしいんだよな。んで、幸せを観察する部活を作ったんだ。

 まぁ、その部長どこか可笑しくてさ、最後には幸せを製造しようとしてるんだってさ。

 人の願いを叶える事もその一貫で、どうしたら人が幸せになるかを観察してるらしい。

 だから、願いをかなえる定員は、いつも一人に絞ってる。そうしないと、観察を十分出来ない、だったかな。

 それで、その初代部長は未だに幸せを作ろうとして、悪魔部の住処で悩める人間を待ってる、て話だよ」

 ケンジはシャーペンを回しながら、たどたどしく話す。

 スミレは、はっきりしない上に途切れがちな口調に苛立ちながらも、終始笑顔だった

「へー、嘘臭すぎない? そんな天才の人がホントに居るの?」

 話が終えたところで、スミレは適当に聞いてみる。今のところ、スミレの頭の中では六対四ぐらいの割合で、ガセネタ説が優勢だ。

「いや、この学園、全国から頭のいい子供を特待生として引き抜いてるだろ。そうすると毎年一〇年に一人クラスの天才は出て来るんだよ。その中に、一〇〇年、いや一〇〇〇年に一人クラスの天才が居たという可能性は否定できない」

 ケンジは顔を不気味に歪ませながら、おどろおどろと話していく。

「加えて、この学園、必ず毎年一人から二人は妙にいい目をみた奴らが居るんだ。

 例えば、二年前の野球部、エースが捻挫で休んでる間に出てきた一年のピッチャーが大活躍して、そのままギュラーになった事がある。

 更に三年前、それまでケツから数えた方が速いほど頭の悪かった先輩が、全教科満点を取った。

 更に更に、四年前、コーラス部の副部長がスカウトの目に止まって歌手デビュー、一曲目でオリコン一〇位を獲得した。他にも」

 更に、ケンジが言い募ろうとした時、廊下から地鳴りが聞えてきた。

 地鳴りではない。男子高校生一人と、女子高校生一人が疾風怒濤の勢いで走行しているその音だ。

 日常茶飯事となった時報に、生徒達は各々の席へ戻っていく。

「残念、話はここまでだね」

「ああ、もう時間か」

 ケンジは名残惜しそうに、呟く。

「だね。面白い噂聞かせてくれて、ありがとう。話の種にさせてもらうよ」

 そう言って、スミレが立ち上がると同時に、始業のチャイムがなり、

「ぎりぎりセーフ」

「セーフ」

コウセツとエミナが仲良く、教室に飛び込んできた。二人はほぼ同時に席に座り、タオルを出して、汗をふき取る。

「さすが、幼馴染、凄いシンクロだね」

 スミレはその様子を面白くなさそうに眺めた。

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