表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔部へようこそ!  作者: AAA
今宮 エミナ
11/29

六月一五日

 六月一五日、水曜日、エミナたちのクラスから怒号のような叫びが放なたれた。

「エミナとコウセツが居るうぅぅぅぅぅぅぅ!」

 まだ、始業まではかなり時間があり、教室に居た生徒の数は多くなかったが、彼らの叫び声は廊下の隅まで響き渡る。

「……世界の最後か」

「ブラックホールが時間を歪めたのよ」

「うちゅうのほうそくがみだれる」

「俺は何を見ているのだ。夢か、幻か」

「地球は終わるのね」

 騒然となる教室の一角、原因の片割れが頬を膨らませた。

「あんた達さぁ」

 頬を膨らませたエミナは、両手を腰に当ててクラスメートを睨む。

「その反応はないんじゃない? この朝が弱いエミナちゃんと寝ぼすけコウセツが、ちょーと早く来たぐらいでそこまで叫ぶ必要はないでしょ」

「うん、でもまだ眠いよ。早く机で睡眠しないと」

 机に突っ伏したコウセツの頭をエミナは勢いよく叩いた。

「せっかく早起きしたんだから、起きなきゃ駄目でしょうが! スミレもそう思うで……何やってんのあんた」

 親友に同意を求めようとしたエミナは、半眼で親友を睨みつける。

「別に何でもないよ。ただ、痛いから夢じゃないんだな、て確認しただけ」

 スミレは自分の頬を抓っていた指を離すと、見事なアルカイックスマイルを浮かべた。しかし直前の行動と台詞の所為で台無しである。

「頑張ったねエミナ。やっぱり、エミナはやれば出来る子だよ」

 悪気の感じさせない微笑で、スミレはエミナの頭を撫で始めた。綺麗に整えられたエミナの髪が、落ち武者の様に乱れるがその事を指摘する人はいない。

 当のエミナは、つむじから受ける圧力で首がどんどん下がっていく。

 スミレの胸に顔をうずめそうになる寸前で、エミナは爆発した。

「キーッ、離せぇ! 早起きぐらいで誉めるにゃっ! 

 と言うか、スミレ! あんたのナデナデは殺人的すぎ。

 もう二度とあたしにやるな!」

 エミナがスミレの手を払いのける。

「そ、そんな、せっかく河童ヘアーにしようと思ったのに! エミナ、なんて酷い子」

 スミレは半歩下がり、見開いた瞳でエミナを射抜いた。

「はいはい、はいはい、ショックを受けた様な顔しない。あたしは首が折れるか、頭が禿げそうだったんだから」

 エミナが自身のつむじを優しく撫でていると、教室のドアが普通に開く。

「皆、おは、てエミナとコウセツが居るうぅぅぅぅぅぅぅ!」

 ドアを開けたケンジが、石像の様に固まった。

 クラスメート一同はケンジを一瞥して、ため息を吐く。

「ケンジ、地味!」

「地味、ケンジ」

「ちょっとはこったリアクションしろよなー」

「毎回、マジョリティに居やがって、だから地味なんだよ」

 ケンジは、顔面に衝撃を受けたように大きくのけ反って、糸が切れた人形の様に地面に落ちる。ボクサーのKOシーンを髣髴とさせる危険な倒れ方だ。

 その様子を横目にエミナは、スミレと共にコウセツの周りに座り込む。

「ところで、エミナ、今度の日曜日、遊園地行かない?」

「何、唐突に遊園地って、そんなとこ行くお金、あたし持ってないわよ」

 恨めしげな目でエミナは自身の財布を見せる。中身は一〇〇円玉が数枚だけだ。

 先日買い揃えた小道具等に大枚を取られた結果だ。

 ちなみに小道具等の等の部分には、スミレに対する出費がかなりの割合で含まれている。

「それは大丈夫、ほら」

 スミレは得意気に懐からチケットを四枚取り出した。

「無料招待券、乗り物も乗り放題、プラス昼食一五〇〇円分のポイントチケット!」

「おお! どうしたのそれっ?」

 あまりにも豪華な代物に、エミナが驚きいななく。

 机に座ったコウセツの笑みが強張った。

「お父さんがくれたんだよ。なんでも、株主優待、とか言うので貰ったんだって」

「ふーん」

 エミナは適当に相槌を打ちながら、この状況をどう活用するか考える。

 遊園地に行く、と言う選択肢は却下だ。

 コウセツは絶対に行かない。あの強張った笑みは、どう断ろうが困っている顔だ。

 エミナにとってコウセツの居ない遊園地は、行く価値がまったく見受けられない。

 それに日曜日にはコウセツの邪魔をしながら、毒婦サチエの情報収集という必須項目がある。

 事実と必須項目を確認した上で、エミナは満面の笑みを浮かべ、歓声を上げた。

「へー、やったじゃん。よく分かんないけど、電車賃だけで遊べるって事でしょ」

「そうだよ。しかも四枚あるから四人まで一緒に行けるんだ」

 スミレはチケットを振る。四枚のチケットが波打つように揺れた。

「じゃ、後二人、適当に誘って行こうよ」

 極自然な流れで極自然に、エミナは四人で遊ぶ事を主張する。

「そうだね。あ、コウセツ君一緒に行こうよ? きっと楽しいよ」

 元々そのつもりだったのだろう、エミナの提案にスミレが乗る。

 予想通りの展開に、エミナは机の下で小さく拳を握った。

 スミレは、期待に満ちた目をコウセツに向けている。尻尾があれば千切れんばかりに振っていそうな様子である。

 苦笑いを浮べたコウセツが申し訳なさそうに頬をかく。

「折角、誘って貰って悪いんだけど、遠慮するよ。日曜日は用事があるんだ」

「えーっ! そんなぁ」

 スミレの眉がハの字になり、尻尾が垂れ下がった。

「コウセツ、せっかくスミレが誘ったんだから来なさいよ。用事なんて、また、小母さんからの頼まれごとでしょ」

 普段どおりの口調で、エミナはコウセツを誘い出す。

「そうだよ。その用事、手伝うから、行こうよー」

 その尻馬に乗っかったスミレが、子供の様にコウセツの袖を引っ張った。更に上目遣いでコウセツの様子を伺う。

「いや、母さんからの用事じゃないんだけどさ」

 コウセツはスミレの視線から顔を背けた。

「だったら、何?」

 エミナが更なる追求の手を伸ばす。

「それは、ちょっとした事なんだよ。皆に手伝ってもらう様な事じゃなくてさ」

 対するコウセツの話は歯切れが悪かった。

「ちょっとした事なら、別に日曜日にやる必要はないでしょ。あたしも手伝うから、土曜日にでもやって、日曜日は遊園地に行く、それでいいでしょ」

「日曜日じゃないと、出来ない用事なんだよ」

「ふーん、何なのその用事って、そこまで意固地に断るんだから、理由ぐらい聞かせてよねぇ」

「そ、それは……」

 コウセツは語尾を濁し黙りきる。エミナは俯くコウセツの後頭部を睨んだ。沈黙が続く。

「ねぇ、エミナ、もう良いよ」

 二人の空気に耐えられなくなったのだろう、スミレが控えめに言った。

「良くないわよ。折角スミレが誘ったのに、理由も言わずに断るなんて、酷いじゃない」

 鼻息荒くエミナが応える。

「仕様がないよ。誰だって言いたくない事はあるし、無理に聞くほうが可哀そうだよ。エミナだって、人に言いたくない事があるよね?」

 エミナの刺々しい声を、スミレの沈んだ声がやんわりとたしなめた。

「うん、そうね。しつこく聞きすぎてごめん、コウセツ」

 先ほど前の怒りが嘘の様に、エミナはあっさりと頭を下げる。頭が水平になった一瞬、エミナは堪えきれずに笑った。

 この結果はエミナの予想通りだ。これでスミレはコウセツに嫌われてると考え、距離を置くだろう。コウセツにしても、罪悪感でデートに熱中できるない可能性がある。

 最近コウセツと距離が縮まってきたスミレとコウセツのデート、その二つに楔を打ち込めた。それだけでも、今日朝早く来た甲斐があった。

「えっと、コウセツ君、もし日曜日来れる事になったら、電話してね。コウセツ君の分、チケットは取っておくから」

 スミレが言い終わると同時に、始業のチャイムが鳴る。

 クラスメート達が、慌てた様子で自分の席へ向かった。

 エミナも大きく肩を落とす親友を慰めながら、自身の席へ向かう。その頭の中では、遊園地への誘いをどうやって断るか、を考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ