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血染めの月光軌  作者: 如月 蒼
第一章 創造祭編
33/61

第30話 硝子の向こう

 突然ですが、スランプ突入しました。……いえ、万年スランプではあるのですが、何だかいつもに増して駄文っぷりが凄いです、今回は。

 そして説明がくどいです。めんどくさくなったら読み飛ばして下さいね(笑)

 そんなんでも大丈夫、という方は頑張って下さい。もう作者は読んで下さる方の読解力に頼ってます(オイ)

 創造祭初日、当日。

 溶ける気配のない雪の白に染まるリレイズの街は、華やかに飾り付けられ、人々の喧騒に賑わっていた。

 特に人が(ひし)めき合っている大通り(メインストリート)の一角に、その店はあった。

 木製の、周りより屋根が低い建物。店先には赤い布の掛けられた背凭れのないベンチ、そして大きな臙脂色(えんじいろ)の唐笠がそのベンチに陰を落としている。

 一言で言えば、その建物は「和風」だった。いや、それでいい――というよりそれでなければ駄目なのだ。

 オーダーメイドである看板の上の、行書体で書かれた文字の通り、ここは「和風喫茶『星月夜(ほしづくよ)』」――第一学年A組の出し物店なのだから。

 午前九時。既に創造祭は始まっている。

 和風喫茶『星月夜』にも、世界各地から訪れた客達が早くも来店していた。

 突然だが、創造術が最も発達していると言われる国はディブレイク王国である。創造祭は、創造術(クリエイト)に関わる中では世界最大のイベントであり、各国が注目するのは当たり前。国という組織の他にも、創造術師協会や創教団の団員など、将来の為に才能のある学生創造術師を見定めにやって来る使者もいる。五つある創造学院の中で、一番レベルが高いと言われる――まぁ、それは事実なのだが――のはリレイズ創造学院だ。協会や創教団がこのイベントに目を凝らすのもまた、当然なのである。

 閑話休題。

 とにもかくにも、何が言いたいかと言うと、今日リレイズの街には沢山の創造祭目当ての人間が来ていて、A組の出し物である和風喫茶にも、それなりの客が入っている、ということだ。

 レゼルは制服の上から何時もの私物コートを着て、深くフードを被っていた。《(クラウド)》の彼が外に出るときのデフォルトの姿だ。

 場所は和風喫茶『星月夜』の店内。目立たない隅の壁に背を凭れさせ、レゼルは隣の紅い少女と共にぼんやりと店内を眺めている。

「……まだ九時なのに、結構早い時間から客が入るんだな」

 ポソリと呟いた言葉に、そうですね、と隣の少女から返事が返ってきた。

「もう72%、席が埋まっています。約七割ですね」

 彼女は淡々と語を続けた。疑問系でなかったのは、彼女の体内(なか)のコンピュータが機械の右眼からの情報を正確な数値にして弾き出したからだ。

 いかにも和風な店内を、和装をした給仕達――A組の生徒達――が駆けずり回っている。女子は着物、男子は袴だ。女子の着物は分かるとしても、男子は袴で給仕ってどうなんだ、とは思ったが(レゼルは一度日本に訪れたことがある)、客の反応は上々のようだった。殆どの客が、物珍しそうに和装した生徒達を見ている。

 それに、出された緑茶や和菓子に顔を綻ばせる客が沢山いる。店内は楽しそうな話声と、それ以上に、客どころか店員である生徒達の顔にも浮かぶ笑顔に溢れていた。

 雪はもう先週に降り止んで、今週は気持ちの良い冬晴れの日が続いている(夜であり続けていることに変わりはないが)。だが言わずもがな、今の季節は冬であり、ここは雪国の北方に位置するリレイズの街である。雪が止もうが何だろうが、外の白が消えないのと同じように、寒さもまた消える訳ではない。

 ――それなのに、この喫茶店の中は、なんて暖かいのだろう。まるで春が来たみたいだ。

 目深にフードを被り、《(クラウド)》だということを隠しているといっても、レゼルがこんなに堂々と大勢の人が集まるイベントなどに出たことはない。

 確か昔、西の大国にいった時に偶然やっていたパレードも、一度だけ訪れたことのある日本で見た花火も、路地裏からこっそりと眺めるだけだったのを覚えている。

 沢山の人の楽しそうな笑顔に、弾んだ声。そしてそれらが詰まった、暖かい空間。

 昔は、誰かの機嫌を窺うようにこっそりとそれを見ていた。

 それが、今は目の前にある。たとえ、その暖かい空間が硝子の向こう側にあるとしても、レゼルは何となく嬉しかった。手は硝子に阻まれて届かないと分かっていても、その空間に自分は踏み入れることが出来ないと知っていても。


 ――レゼルの立つ側にも確かな暖かさがあると知らず、硝子の向こう側ばかり求めていた昔とは違うのだから。


 自分は《雲》。それを理解しているから、普通の生活を求めることなどとっくの昔に止めている。

 だが、そんなレゼルにも救いはあって、心が休まる場所がある。

 昔は姉の傍。今はセレンの隣、それにミーファや晴牙、ノイエラなど、友人の中。

 だから、硝子の向こう側に行かなくたって良い。それは硝子で隔てられてなどいない。此方側にあるのだから。

 無意識に、レゼルは店内の様子から、ある一点に関心を向けていた。

 レジのカウンターの上に乗る鉢植えで咲く、ピンク色の小さな花。それは馬鹿馬鹿しい虐めに利用された、あの花だった。あの後、園芸部に所属するノイエラに事情を話して、新しい鉢植えを用意して貰ったのだ。

 その花をレジに飾ることになったのは、

『可愛い花! これ、創造祭の日まで咲き続けてくれるかしら』

 という、ミーファの台詞が発端になった。

 ノイエラ曰く、これは『撫子』という日本を中心とした東アジアでよく見られる花らしい。

「ナデシコ目ナデシコ科の多年草で、秋の七草の一つですね。撫子の中にも種類は沢山あって、これは……カワラナデシコだと思います」

 と、更に彼女は事細かに説明してくれた。流石は園芸部である。

 日本に自生する花ということで、それなら和風喫茶の雰囲気に合うのでは――ミーファの言葉からそういう発想が出てきて、現在ちょこんとレジの上に飾られている訳だ。

 確かに、慎ましく、だが力強く咲く撫子は、正しく『和』だった。

「レゼル君」

 珍しくレゼルがぽけっと一輪の花を眺めていると、横合いから声が掛かった。

「あ、ミーファ――」

 我に返ったレゼルは彼女の方に向き直る、が。

「――」

 思わず、言葉に詰まってしまった。

 フードの奥の目を瞠り、ただ無言で彼女を眺める。

「レゼル君?」

 何かを言い掛けて固まってしまったレゼルを心配したのだろう、ミーファは僅かに不安気に首を傾げた。

 その仕草で何時も揺れる金色のポニーテールは、今日は無い。

 彼女は輝く金髪を(かんざし)で高い位置に留めていた。黒を基調とし、色とりどりの花火があしらわれた着物で身を包んでいる。いや、これは多分浴衣だろう。どうやら和装なら何でも良い様だ。

 和装をした彼女はとても綺麗だった。以前に見たドレス姿もよく似合っていたし、彼女は洋装も和装も着こなすらしい。何より、その金髪と翠色の瞳がどんな格好にも映えるのだ。

「似合っていますよ、ミーファ」

 黙りこくるレゼルを置き去りにするように、セレンが言った。その無表情の中には確かに、柔らかな光があった。

 それをミーファも感じ取ったのだろうか。うっすらと化粧を施した顔を笑顔に変え、彼女は頬を僅かに朱に染めた。

「そ、そうかしら。ありがとう、セレン」

 今の空気を読めないほど、レゼルは鈍感でも朴念仁でもない。

 取り敢えず、レゼルも何か言おうと口を開く。ここで紳士的な言葉を言えれば良かったのだが、そんなスキルを彼に求めること自体が間違っている。

「ああ、似合ってるぞ、ミーファ」

 結局、セレンと同じ内容の言葉。レゼルは激しく自分を情けなく思った――自分はこれほどまでに語彙(ボキャブラリー)が少なかっただろうか。

 だがそれでも、ミーファは本当に嬉しそうに笑ってくれた。

「ありがとう、レゼル君」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ミーファは創造祭の初日から和風喫茶のシフトが入っている。彼女はレゼルとセレンに浴衣姿をお披露目した後、すぐに仕事に取り掛かっていった。衣装の通り、勿論給仕役だ。

 因みに、レゼルとセレンのシフトは創造祭の三日目と四日目。今日が木曜日なので、彼らが働くのはちょうど休日になる土曜と日曜だ。この二日間は休日という理由から創造祭に訪れる人が格段に増す為、各組の出し物の売上競争が一番激化する期間である。だが何故かミーファに無理矢理この二日間にシフトを捩じ込まれた。彼女は考えがあると言っていたが、このシフト割りが大半のクラスメイトの反感を買ってしまっていることは否めない。

 まぁ、聡明な第一学年代表様のことだから、ちゃんと考えがあるのだろう。そう思って、レゼルもセレンもシフトについてはあまり言及していない。

 そして、晴牙とノイエラのシフトは六日目と七日目で、最終二日間だったはずだ。二人共給仕役である。

 水蘭とサラは厨房仕事に回っていて、今もその腕を振るっている。

 ともかく、レゼルとセレンはただ和風喫茶の様子を見に来ただけであって、ここにいても邪魔なだけである。特にレゼルの方は、《雲》であるという意識からそれを痛いほど理解していた。何かの弾みでフードが外れたりなどでもしようものなら、和風喫茶『星月夜』は出し物として続けられないだろう。自分の所為で迷惑を掛けるのは御免だった。正直言えば出し物そのものはどうでも良いのだが、ミーファ達の頑張りを見ていると、この出し物を成功させたいという気持ちが浮かんできたのである。

 という訳で、レゼルはさっさと和風喫茶を後にした。シフトの無い日は自由に行動することが許可されているので、レゼルはセレンと少し話し合って、無難に他組の出し物やリレイズの街を見て回ることにした。

 この街の地理は、編入する前から心得ている。だが、どの店にどのような物が売っているかなど、詳しいことは分かるはずもなかった。二回目の堕天使襲撃があった先週の金曜日、レゼルはミーファに、セレンはルイサに街を案内して貰っていたが、それはあくまでも一部でしかない。

「セレン、何処か入りたい店はあるか?」

 大通りの人混みを器用に掻い潜りながら、レゼルはセレンに訊いた。彼女も彼と同じように、全く人混みを苦としていない。

「いえ、私は特にありません。レゼルは?」

「……俺も別にない、かな」

「……」

「……」

「……何処、行きます?」

 セレンが歩を進めながら見上げてきた。

 だが、特に行きたい所のないレゼルは、答えることが出ない。

 レゼルには色々と纏わり付くもの――《雲》とかNLFとかブラッディとか――がある為、後三年間と少しは滞在することになるリレイズの街を出来るだけ知っておきたくはある。が、言ってしまえばただそれだけで、『行きたい所』となるとそんな明確なものはないのだった。

 自然と二人共無言になり、目的地もないまま大通りを駅の方に向かっていたときだった。

「レー君、セレンちゃん!」

 知っている人の声が背後から聞こえた。セレンと一緒に呼ばれたということは、『レー君』とはレゼルのことだ。そして、レゼルのことを『レー君』と呼ぶのは一人しかいない。

 レゼルは人通りの激しい中で、通行人の邪魔にならないようにしながら振り返った。

 だが、見えたのは水色のツインテールだけ。しかも一瞬で、すぐに水色は人混みの中に埋もれてしまった。まぁ、彼女の身長なら仕方ないことではあるのだが。

 ともかく、気を付けなければ他人の足を踏んづけてしまいそうなこの場所で立ち止まるのは難しい。振り返ることは出来ても歩みを止めて彼女を待つことなど出来ず、結果レゼルは先程の声を聞こえなかったものとした。ストレートに言えばシカトしたのである。

 それはセレンも同じだったらしく、やや後ろを気にしながらもレゼルの後を付いてきた。

「ちょッ!? せめて返事くらいして欲しいんだけどっ?」

 ルチアーヌ・セヴェリウムの非難の声は、喧騒の中に消えていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 駅前にあるカフェテリアで、レゼルはルチアと向かい合いながら珈琲を啜っていた。

 隅にある四人掛けの目立たない席である。レゼルの隣にはセレンが座っていた。

「全く、無視とはどういうことかなレー君?」

「……だって止まれなかったし」

「言い訳しないでね? 声くらいは掛けられたでしょ?」

 カフェテリアに入ってから終始笑顔のルチアに、レゼルはそこはかとない恐怖を感じていた。よく見れば彼女の蟀谷(こめかみ)には青筋が立っている。

「……」

 口を噤み、珈琲の茶色に視線を落とす。そんなレゼルを見て、ルチアは溜め息をついた。

「まぁ、そういうのもう慣れてるから良いけどね? ……良いけどねっ?」

「何で二回言ったんですか」

「素直に謝れ」

「……すみません」

 ルチアはフードを被った頭がペコリと下げられるのを確認すると、先程運ばれてきたサンドイッチを手に取った。それが彼女の朝御飯らしい。

「それはまぁ置いといて、今日もちゃんと話があるんだよ?」

「あ、もしかして先週の金曜の……」

 レゼルとルチアの間の空気が変わると、モンブランを口に運んでいたセレンも彼女に視線を向けた。レゼルも珈琲から顔を上げる。

『そう、NLFが引き取ったロナウド・コバードの死体のこと』

 レゼルとセレンだけが見ることの出来るようにサンドイッチに隠された口元は、声を発さずに動く。

 それを向かいの二人は読唇術で読み取っていく。

『結論から言うね。――残念だけど、彼の死体からは何も分からなかった。強いて言えば、死因は青酸系の毒物が体内に入ったこと、というのが間違いじゃないと分かっただけ』

『青酸系の毒物、ですか?』

 セレンも口の動きだけで訊ねた。ルチアもNLFの一員だ、レゼルやセレンが読唇術を習得する前に彼女はとっくに唇の動きを読むことが出来ていた為、勿論通じる。

 因みに、セレンはロナウド・コバードのことを既にレゼルから説明を受けていた。

『ええ。でも、青酸系にしては効果が出るのも遅かったし、吐血までしたの』

『明確な、エナジーとエナジーの拒絶反応ですね』

 エナジーの性質は十人十色。その例外はレゼルとセレンくらいのものだろう。

 例えば、ケーキを創造して他人に食べさせたりすると、食べた者は気持ち悪くなったり頭痛がしたり後日熱が出たりなど、様々な害を受ける。これはケーキの元となった融合体の中のエナジーが、食べた者が体内に持つエナジーと反発するからである。それで死に至ることは滅多にない、というのは昔創教団で行われていた人体実験からほぼ確実とされてはいるが、危険なことに変わりはない。(レゼルの〔光剣(ライトセーバー)による融合体の流し込みも良い例だが、あれは強力過ぎて致死性がある。)

 今回、ロナウド・コバードが体内に入れたのは青酸系の毒物。エナジーとエナジーの反発・拒絶反応で効果が出るのが遅れたり吐血したりしたなら、毒を飲まされた人間には不可解なその二つの現象に筋が通る。

 毒物は創造物と見て間違いないだろう。

『そう。だからロナウド・コバードを殺した犯人は創造術師(クリエイター)ね。これは確実だと思う』

『……そうですね。ところで、毒物はどんな風にロナウド・コバードの体内に入ったか分かりますか?』

 珈琲を一口含んで飲み下した後、レゼルは真剣な口調で訊いた。

 だが、彼の期待を裏切るようにルチアは首を振った。

『……何か食べ物にでも混入されたのか、それとも体内に直接創造されたのか。解剖しても分からなかった』

 ルチアはトマトやレタス、ハムなどが挟み込まれたサンドイッチを一口齧る。

『毒物は創造物。もし食べ物に混入されたなら、唇に毒物反応が出ても可笑しくないけど……調べたときにはとっくに消失(バニッシュ)してしまって反応なんか出ない』

『……では、体内からは?』

 セレンが紅茶のカップに手を伸ばした。彼女が自身の口元にカップを持ってくると、隣のレゼルにまで甘い香りが漂ってきた。

『少しだけ毒物反応があったらしいよ、完全に消失する一歩手前だったとか言ってたかな、榎倉は。死体がNLFの第一飛空艇に届いたのが身柄を押さえた翌日――土曜だから妥当だね』

 レゼルは彼女の言葉に少し驚いた。体内の毒物反応が残っていたということは、創造された毒が消失しないで残っていたということだ。

『じゃあ、体内にロナウドのものとは違うエナジーも感知されたんですね?』

 ロナウドの死に際の様子から毒物が創造物だと判断したと言っていたから、もう体内に毒は残っていないのかと思っていた。

 残っているなら、そこからエナジー性質の特定を行えばすぐにでも犯人が割り出せる。《雲》や街中のスラム区に住む人間は例外となってしまうが、それ以外の者は生まれたときに創造術師協会によってエナジー性質の検査が行われ、そのデータは協会に厳重に保管されている。

『……』

 しかし、レゼルの確認のような問いにルチアは答えなかった。

『ルチアさん?』

『……体内に残っていた毒は消失しかけで、しかも毒は融合体になってる訳なの、レー君』

 レゼルは思わず頬を引き攣らせた。

『……つまり、そんな状態で毒のエナジー性質の検査なんか出来る訳がない、と? そう言いたいんですね?』

『待って待ってレー君、何であたしを責めるの? 文句なら榎倉に言ってくれるかな?』

 レゼルは深い溜め息をつく。唯一とも言える手掛かりはあっさりと消えてしまった。

『後は体内に直接毒を創造した可能性、ね。そんなの、普通はエナジーが反発して出来る訳ないけど、それが可能な人物がこの街には一人だけいる』

『……そうですね』

 ルチアの言う、他人の体内に直接創造物を構築出来る人物は、レゼルも思い付いていた。セレンももう頭に思い浮かべているだろう。

 その人物とは、

『ミーナ・リレイズ』

 無音声で紡がれた名は、レゼルの編入した教育機関の学院長で、友人の母だった。

 彼女なら、自分のエナジー性質を改変出来るという《星庭(ガーデン)》の能力で、その離れ業が可能なのだ。

 体内に直接創造するやり方なら、殆ど証拠を残すことなく人を殺すことが出来る。

「……そんな訳ない」

「え」

 いきなり肉声で言われた言葉に、レゼルはぱちくりと目を瞬かせた。

 向かいの席で、ルチアがにっこりと笑顔を浮かべている。

『学院長が黒幕な訳がない――そう思った?』

『……それは、まぁ。ロナウドは学院どころかリレイズの街を潰そうとしていた。ロナウドが死んだのは口封じの為です。学院長が今回の堕天使襲撃の糸を引いたとは思えない。それに、ウィスタリア・ダウン・ディブレイクとの会話を、その……聞きましたが、可笑しなところはありませんでした』

 レゼルが一気に捲し立てると、ルチアはくすっと笑った。

『何ですか?』

『ううん。――そうだね、ミーナ・リレイズは黒幕じゃないよ。矛盾点があり過ぎるし、彼女の創造術は直に首に両手を当てて融合体を流し込まなければいけない。ロナウドの首からは指紋とかも出なかったし……まぁ、これは拭いただけかもしれないけどね。そして、ロナウドの死ぬ直前の言葉』

『……?』

『「あの野郎、騙しやがったな」』

『……「あの野郎」?』

 セレンが首を傾げた。

『ええ。この台詞って普通、男に向かって言うものでしょ? ミーナ・リレイズは女だよ』

『……』

「だからレー君、あんな心配そうな顔しなくて大丈夫だよ? 今みたいに安心した表情してればいいの」

 ルチアの声。

 レゼルは思わず、両手を頬に当てた。自分はそんな表情をしていたのだろうか、そして今、しているのだろうか。

 眉を寄せる彼を見て、ルチアは再び笑みを浮かべた。

 読んで下さりありがとうございました!


 こんな小説を読んで下さっている方には悪いのですが、来週はお休みします。勝手ですみません。

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